身寄りがない人の意思決定支援にガイドライン




孤独

身寄りがないうえに
自分で意思決定できない患者

認知症などにより自分で意思決定ができない人はこの先さらに増えるだろうと見込まれています。
加えて、独居の高齢者がすでに全世帯の1割以上を占めるとのデータもあり、「おひとり様」と呼ばれるような子どももなく頼れる親族もいない、いわゆる「身寄りがない人」は、この先さらに増えていくものと推測されます。

このような状況にあって、医療機関を訪れる患者ひとり一人に、本人の意思を尊重した医療を提供していくことは容易なことではありません。実際、その難しさを実感しながら日々数多くの患者にかかわっている看護職の方が少なくないだろうと思います。

折しも、厚生労働省は今年(2019年)5月、「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」を発表しています。
このガイドラインは、厚生労働省の研究班(代表:山縣 然太朗山梨大大学院教授)が医療機関の職員向けに策定したもので、身寄りがない患者の意思決定支援が求められるさまざまな医療場面での具体的な対応策が明示されています。

研究班は本ガイドライン策定の意図を、「身寄りがない場合にも医療機関や医療関係者が患者に必要な医療を提供することができるように、また、患者も身寄りがなくても安心して必要な医療を受けられるように」と謳い、より多くの場面での活用を期待するとしています。

本人の判断能力と
成年後見制度利用の有無

本ガイドラインでは、支援の対象者として、身を寄せることのできる親族や血縁者のいない、文字通り「身寄りがない人」に加え、
⑴ 家族や親族へ連絡がつかない状況にある人
⑵ 家族の支援が得られない人
についても、支援の対象として想定して対応を提示しています。

なお、この場合の「家族」には具体的な定義・説明がありませんが、文脈から判断して、単に法的な親族だけを指すのではなく、当人たちが深いつながりを感じていて、その人の意思決定に真剣かつ積極的にかかわろうとしている人、と理解していいでしょう。

このところ長く生きることができるようになった反面、治療やケアについて自分で意思決定できないために、家族により代行されるケースが増えている。その場合の「家族」はどう定義されているのか。意思決定プロセスに関するガイドラインを参考に考えてみた。

このような身寄りがない人への対応について、
⑴ 本人の判断能力が十分である
⑵ 本人の判断能力が不十分で成年後見制度を利用している
⑶ 本人の判断能力が不十分で成年後見制度を利用していない
の3つの場合に分け、以下のような6つの場面ごとに支援のポイントを解説しています。

  1. 緊急時の連絡先に関すること
  2. 入院計画書の説明に関すること
  3. 入院中に必要な物品の準備に関すること
  4. 入院費の支払い等に関すること
  5. 退院支援に関すること
  6. (死亡時の)遺体・遺品の引き取り・葬儀等に関すること

本人の意思・意向を確認することを大前提に

なお、通常時は判断能力が十分な人であっても、病気そのものや病状の変化、さらには環境の変化などからくる過度のストレスのために一時的に判断能力が低下する場合もあることから、その時々の本人の状況に応じて意思決定支援を行うよう注意を促しています。

また、本人の判断能力が不十分な人であっても、その人にはその人なりの意思があり、意思決定能力を有していることを前提に、本人の意思・意向を確認する作業を継続して行い、その人のもてる判断能力を最大限引き出す支援を行うように求めています。

入院計画書の内容説明は
判断力いかんを問わず本人に

上記の具体的支援のうち「2」については、本人の判断能力が十分か否かに関係なく、まずはその人の理解力や判断力に見合うかたちで、最大限わかりやすく入院計画書の内容を説明することを基本とすべきだとしています。

そのうえで、この説明に同席を希望する家族(支援はできないが話を聞いておきたいと希望する家族)やケアマネジャー、相談支援専門員、友人、知人がいる場合は、本人にその旨を伝え、同席を了解するかどうかについて意思を確認し、了解が得られた場合に限り、その希望者同席のもとに情報提供を行うこととしています。

本人の判断力が不十分で、成年後見制度を利用している場合は、診療契約の代理権*をもつ成年後見人にも、入院計画書の内容を確認してもらうことになります。
したがってこの場合は、本人の了解が得られた家族やケアマネジャーらに加え、成年後見人も説明の場に同席することになります。

本人の判断力が不十分ではあるものの、成年後見制度を利用していない場合は、家族やケアマネジャーなどへの説明を行うことで対応することになります。
説明できる家族などがいない場合は、「本人への説明を試みた上で、その旨をカルテに記載しておく」こととしています。

*診療契約の代理権とは
成年後見人には、患者が病院側と診療契約を交わす事務的行為を本人の意思に沿うかたちで代行することは認められているが、個々の医療行為に対する判断を代行することは認められていない。ただし、患者が事前指示書などのかたちにして特定の医療行為に関する判断の代理を託す旨明確に残している場合は、診療契約の代理権が認められる

退院支援における意思決定は
成年後見制度の利用でスムーズに

支援「5」に挙げられている退院支援が必要な場合は、本人の判断力が十分であれば、退院先や退院後の生活について本人に相談します。
その際には、すでに決まったケアマネジャーや相談支援専門員がいるかどうか、任意後見や身元保証等高齢者サポートサービスについて契約済みかどうかを確認します。

そのうえで、入院前までにかかわりのあったケアマネジャーや相談支援専門員などの専門職がいる場合は、本人の意思や意向を確認したうえで、それらの専門職の参加を得ながら退院先の選択や手続きを行っていくことになります。

入院前にはその種の専門職とのかかわりがなかったものの、退院後に向けて専門職から成るサポートチームが必要と判断される場合は、居住地の地域包括支援センターなどの協力を得ながらチームづくりをしていくことになります。

また、本人の判断能力が不十分で、すでに成年後見制度を利用しているような場合は、本人の意向をその都度ていねいに確認しつつ、すでにかかわっている後見人とも相談しながら退院後に向けて必要なサポート体制を準備していくことになります。

本人の判断能力が不十分ながら成年後見制度を利用していない場合は、後見制度の利用に必要なもろもろの手続きを退院支援に盛り込むことにより、退院後のサポートチームづくりをスムーズに進めることができる、としています。

本ガイドラインの詳細は、厚生労働省のホームページ(コチラ)からダウンロードして、確認してみてください。

なお、本ガイドラインを有効に活用していくには、成年後見制度に関する正しい知識が求められます。この制度に関する基本的なことはこちらの記事を参考にしてみてください。

退院困難患者のなかには身寄りがない人が多いが、特に患者の判断力が低下していると成年後見制度の利用を検討することになろう。ただ、この制度では、被後見人である患者の意思が書類に明記されていないと退院支援の意思決定に後見人が関わることできない。