更年期のホルモン補充療法で知っておきたいこと

更年期障害

ホルモン補充療法は
更年期症状緩和の切り札だが…

女性の閉経前後の時期に現れるホットフラッシュ(上半身や顔面のほてり・のぼせ・発汗)や気分の落ち込みなど、不快な更年期症状を緩和する切り札としてホルモン補充療法(Hormon Replacement Therapy:HRT)があります。

ご承知のようにホルモン補充療法とは、卵巣機能の低下に伴って分泌が急激に低下する女性ホルモンを薬(ホルモン製剤)で補う治療法です。この治療法には30年を超える実績があり、欧米諸国における普及率は対象人口(更年期女性)の30~40%にのぼると聞きます。

ところが日本では、この30年間普及がほとんど進まず、対象人口における普及率はいまだに2%に届かないと推定されています。わが国では、一般に薬などの副作用に対する反応がことのほか厳しく、このことが広く行き渡らない理由としてよく指摘されています。

ホルモン補充療法について言えば、乳がんなどまれに起こる副作用が一時期強調されたことが影響して、普及率が伸び悩んでいるというわけです。

しかし、どうもそれだけの理由ではないことが、最近NHKが行ったインターネット調査*¹で明らかにされています。今回はその話から――。

ホルモン補充療法を実施しない
医師側の理由は?

NHKの「#みんなの更年期」取材班は先月(2022年3月)、「更年期症状のある患者を治療することがある」と回答した産婦人科や内科などの医師479人に、ホルモン補充療法を過去1年間に実施したかどうかを尋ねています。

これに「実施した」と回答した医師は半数にも満たず、48%の医師が更年期障害の治療(対症療法)を行ってはいるもののホルモン補充療法は実施していないというのです。

その理由を尋ねたところ、トップは「専門外で詳しくないため」が61%、次いで「処方した経験がない」が28%で、知識や経験不足がこの治療を実施しない主な理由とされています。このほか、「管理が難しいため(25%)」や「がんのリスクがあるため(20%)」が実施しない理由としてあげられたそうです。

エストロゲン単独療法と
エストロゲン・黄体ホルモン併用療法

ホルモン補充療法は、数ある更年期症状のなかでも、のぼせ、ほてり、発汗といった血管の拡張と放熱に関係する症状、いわゆるホットフラッシュには特に有効とされています。加えて、気分の落ち込みやイライラ感、だるさ、不眠、関節痛といった症状の緩和も期待できるうえに、骨粗鬆症や高脂血症などの予防にも有効であることがわかっています。

ただし、女性ホルモンのエストロゲン製剤を単独で補充すると、エストロゲンの刺激によって子宮の内側を覆っている子宮内膜が異常に厚くなる子宮内膜増殖症*のリスクがあります。さらにこの子宮内膜増殖症には、子宮体がんにつながりやすいリスクもあります。

その予防のため、子宮のある女性のホルモン補充療法では、女性ホルモンの黄体ホルモン製剤を併用する「エストロゲン・黄体ホルモン併用療法」が行われます。一方、手術で子宮を摘出した女性の場合は、黄体ホルモンを併用する必要はありませんから、「エストロゲン単独療法」が行われます。

*子宮内膜増殖症は、月経周期に伴って増殖し月経時に剥がれ落ちて出血する子宮内膜が、過剰に分厚く増殖して不正性器出血や月経量の増加を招く状態をいう。子宮内膜またはそれに似た組織が子宮の内側以外の場所(卵巣、ダグラス窩など)で発生し、増殖する「子宮内膜症」とは別の病気である。

ホルモン製剤の投与は個々に合った方法で

また、ホルモン補充療法に用いるホルモン製剤には内服薬、経皮薬(貼付剤、塗布剤)などいくつかのタイプがあり、またその投与方法もさまざまです。

どの投与方法を選ぶかは、それぞれのメリット、デメリットを勘案しつつ患者と医師とがよく話し合いながら、個々に合った最適な治療方法を選択していくことになります。

ホルモン補充療法の
指摘されている副作用

ホルモン補充療法の副作用については、2002年に行われたアメリカの臨床試験で、この治療を行った女性に乳がん、卵巣がん、虚血性心疾患、静脈血栓症が増加したという結果が報告されています。この報告が、日本におけるホルモン補充療法の普及にブレーキをかける一因となっていることは否めないようです。

しかし、乳がんや静脈血栓症等の副作用を指摘したアメリカにおける臨床試験の対象者(被験者)には、高度の肥満者や喫煙者、高齢者が多かったことから、この結果がそのまま日本の女性にもあてはまるかどうかは疑問だとされています。

ホルモン補充療法には骨粗鬆症予防効果も

加えて、最近になり、更年期にホルモン補充療法を開始した人では、動脈硬化による心臓・血管系疾患や骨粗鬆症などの老年期に罹患しやすい疾患が予防できるという利点が、改めて見直されるようになっているそうです。

こうした経緯もあり、ホルモン補充療法を更年期症状の改善に捨てがたい治療法として推奨している日本女性医学学会(旧:日本更年期医学会)と日本産科婦人科学会は、「低用量で」「投与期間を短縮」「内服でなく貼付剤で」「徹底した管理のもとに行う」ことなどを求めています。

なお、ホルモン補充療法の禁忌および慎重投与を必要とするケースを含む治療方法の詳細は、両学会によって作成されたより安全なHRT療法を行うための「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版*²」にまとめられています。

ホルモン補充療法は
専門医のいる外来で

医師を対象に行われたNHKのアンケートで、「専門外で詳しくない」ことや「管理が難しい」ことがホルモン補充療法を行わない理由としてあげられたように、この治療をより安全に行うためには専門の知識と経験が不可欠です。

ホットフラッシュや強い不安、気持ちの落ち込み、不眠などの更年期症状があり、日常生活にさまざまな影響が出ているためにホルモン補充療法を考えているという方は、婦人科外来あるいは更年期の専門外来を受診することをお勧めします。

その際、日本女性医学学会の専門医のいる外来であればなお安心でしょう。この専門医の所在については、日本女性医学学会の公式ホームページにある「近隣の専門医・専門資格者を探そう」*³で検索することができます。

更年期症状の緩和に大豆製品の積極的摂取を

なお、更年期症状の緩和には毎日の食事も重要です。そのポイントは大豆製品に豊富に含まれる「大豆イソフラボン」の摂取ですが、詳しくはこちらを読んでみてください。

閉経に伴う女性ホルモンの減少による不快症状の軽減に大豆製品が効くことは知られているが、そこには個人差が。大豆イソフラボンが腸内で女性ホルモンによく似た働きをするエクオールに変換されやすい人とされにくい人がいるためだ。エクオール産生能を高めるには大豆製品を。

参考資料*¹:NHK NEWS WEB/2022年4月11日「更年期 症状改善へ”ホルモン補充療法”実施の医師は半数以下

参考資料*²:最新女性医療Vol5 No.1 特集:ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版: HRTの最新情報

参考資料*³:日本女性医学学会「近隣の専門医・専門資格者を探そう」