嚥下障害患者の食事支援と「とろみ調整食品」

とろみ

摂食嚥下障害患者の
食事ケアと「とろみ調整食品」

患者の「食べる」の支援には、日々工夫と努力を重ねておられるだろうと思います。

特に支援が欠かせないのは、加齢に伴い、あるいは脳血管障害やパーキンソン病などの神経筋疾患のために、摂食・嚥下に何らかの支障がある患者でしょう。

その食事支援では、嚥下を容易にして誤嚥を防ぐ目的で各種の「とろみ調整用食品(通称、とろみ調整食品)」を活用するケースが増えていることと思います。

ところがこの「とろみ調整食品」に関して、その種類や嚥下の状態に応じた適切なとろみの程度など、具体的なことをよく理解しないまま患者に指導している医師や看護師が少なくないという調査結果を目にしました*¹。

この先高齢化が進むにつれ、病院内はもちろん地域においても嚥下に支障のある患者が増加し、「とろみをつけたら安全かつスムーズに飲み込めるのではないか」と思える場面が増えてくるのではないかと思われます。

そこで今回は、とろみ調整食品の使い方にこだわって書いておきたいと思います。

とろみ調整食品の
種類別特性を知ろう

東京大学医学部耳鼻咽喉科と同附属病院看護部の調査チームは、耳鼻咽喉科の医師22名と耳鼻咽喉科病棟の看護師23名(経験年数1~22年)を対象に「とろみ指導の現状」や「とろみに関する知識の程度」などを調査しています*¹。

この調査結果では、「とろみの程度は嚥下状態によって異なることを知っていたか」との問いに、「よく知っていた」と答えた看護師は4%で、70%が「ある程度知っていた」でした。

また、「とろみ調整食品に第一世代から第三世代まで種類があることを知っていたか」には、看護師の48%が「全く知らなかった」、31%が「あまり知らなかった」と回答しており、「よく知っていた」のは4%にとどまっています。

同調査チームは、嚥下障害のある患者に「とろみ指導を」行う際には、患者それぞれに合った適正な粘性(とろみの度合い)を評価すること、およびとろみ調整食品の特性をよく理解しておくことが必要不可欠だとしています。

とろみ調整食品は
消費者庁の認可食品です

「とろみ調整食品」とは、先刻ご承知と思いますが、食べ物や飲み物などの液体にとろみをつけることができる食品で、消費者庁認可の「特別用途食品」の一つです。

特別用途食品は、「乳児の発育や、妊産婦、授乳婦、嚥下困難者、病者などの健康保持・回復などに適するという特別の用途について表示を行う食品」と説明されています*²。

食品を特別用途食品として販売する際には、食品に表示する内容について国の審査を受けたうえで、消費者庁長官の許可を受ける必要があります(健康増進法第43条第1項)。

この審査をパスして認可を受けたとろみ調整食品には、製品のパッケージに「消費者庁認可」と「えん下困難者用食品」と明記したマークが表示されています*²。

とろみ調整食品の特徴

この消費者庁の認可を得たとろみ調整食品には、次のような特徴があります。

  • 飲み物などの液体に混ぜることで、とろみをつけることができる
  • 加熱をしなくても、混ぜるだけで簡単にとろみがつけられる
  • 混ぜてから時間が経ってもとろみが保たれるように、成分が調整されている

とろみ調整食品使用上の
4つの注意点

とろみ調整食品の使用上の注意点として、消費者庁は以下の4点をあげています。

  1. 嚥下の状態等により、適切なとろみの強さが異なるため、使用前に、医師、歯科医師、管理栄養士、薬剤師、言語聴覚士等に相談して、あなたにとって適切なとろみの強さを確認しておく
  2. 同じ量のとろみ調整食品を混ぜても、飲み物の種類や温度の変化等によってとろみの強さが変わるため、食べる前に必ずとろみの強さを確認する
  3. 食べてみてとろみが弱いと感じたら、強くとろみをつけたものを別に用意し、それを混ぜて粘度(とろみの度合い)を調整する
  4. とろみ調整食品を一度に大量を加えると、だま(小さなかたまり)ができることがあるため、少しずつ加えて調整する
    だまができてしまったときは、必ずだまを取り除いてから食べる

とろみの強さは3段階に分けられる

このうち「1」にある「嚥下の状態等による適切なとろみの強さ」については、「日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類 2021」が、嚥下造影検査または内視鏡下嚥下機能検査などの結果に応じたとろみの強さを、とろみ調整食品の添加量(使用量)の少ない順に、次の3段階に分類しています*³。

  • 段階1:薄いとろみ
    中間のとろみほどのとろみの程度で食べても誤嚥しない患者が対象
    スプーンを傾けるとすっと流れ落ちる
    口に入れると口腔内に広がる程度のとろみ
  • 段階2:中間のとろみ
    脳卒中後の嚥下障害などで、基本的にまず試されるとろみの程度
    スプーンを傾けるととろとろと流れる
    スプーンですくってもあまりこぼれないが、フォークでは歯の間から落ちてすくえない
  • 段階3:濃いとろみ
    重度の嚥下障害の患者が対象
    スプーンを傾けても、形状がある程度保たれ、流れにくい
    明らかにとろみがついていてまとまりがよく、フォークでも少しはすくえる

3種類に分けられる
とろみ調整食品とその特徴

とろみ調整食品は数多くのメーカーから各種販売されていますが、発売開始時期により第一世代、第二世代、第三世代に大別されます。

それぞれ使用されている材料が異なり、以下のような特徴があります。

  1. 第一世代(デンプン系)
    ・主材料はデンプンや加工デンプン
    ・1991年頃から発売されている
    ・加熱で容易に糊化するが、時間の経過とともに固くなる
    ・とろみエール、トロメリン顆粒、ムースアップ、エンガード等
  2. 第二世代(グアーガム系)
    ・主材料はマメ科植物のグアーの種子から得られる水溶性食物繊維のグアーガム
    ・1994年頃から発売されている
    ・添加量は少なくて済むがとろみが安定するまで時間を要する
    ・ハイトロミール、トロミアップエース等
  3. 第三世代(キサンタンガム系)
    ・主材料はトウモロコシなどのデンプンを微生物で発酵させてつくられたキサンタンガム(増粘剤として食品のドレッシングやソースのとろみづけに使われている)
    ・2000年頃から発売されている
    ・温度や酵素の影響を受けにくく、とろみが安定しやすい
    ・トロメリンEX、つるりんこ牛乳・流動食用、トロメイクSP,トロミアップパーフェクト、ネオハイトロミールⅢ等

世代が新しくなるほど「おいしさ」「安全性」「使いやすさ」の面で改良が進み、現在は第三世代のキサンタンガム系が主流になっています。

とろみの強さは医師の指示で

いずれのとろみ調整食品にも、パッケージに使用量が目安量として明記されていますが、使用上の注意点の「1」にあるように、患者の自己判断で使用すべきではありません。

とろみの強さについては、患者個々の嚥下障害の程度や栄養状態を把握している医師の指示を受ける必要があります。

「口から食べる」ことにこだわるケアを

なお、摂食嚥下機能に障害がある患者は、死に直結しかねない誤嚥性肺炎を起こしやすいという問題があります。

このリスクを避けようと、とかく医師は、患者が誤嚥トラブルを起こすと、決まって「禁食」の指示を出しがちです。食べたり飲んだりすることを禁止してしまうのです。

しかし、なんとかして「口から食べる」喜びを患者から奪わなくても済むようにと、「口から食べる」ことを患者にあきらめさせないケアに取り組んでいる看護師さんの話をこちらで紹介しています。是非、一読してみてください。

高齢者が要介護状態に陥る原因としてサルコペニアが注目されている。重度の栄養障害を原因に筋肉量や筋力が落ちていきADL・QOLが低下していく状態だ。予防のカギを握る「口から食べることをあきらめさせないケア」の普及に取り組む小山珠美氏を紹介する。

参考資料*¹:「とろみ」の適切な指導に向けてー1.とろみの調節やとろみ調整食品に関する医療従事者の現状

参考資料*²:消費者庁「特別用途食品とは」

参考資料*³:「日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類 2021」