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ダイバージョナルセラピーで
生活を楽しむ手助けを
確かNHKのドキュメンタリー番組だったと思います。高齢者施設に入所している一人の女性が、可愛いらしい顔をした人形と向き合い、時々笑いながら、楽しそうに話しかけている映像が流れていました。
「ああ、これが最近人気だというドールセラピーか……」。そう思って見ていると、バックに流れるナレーションが、「認知症高齢者など、高齢者のケアに取り組む専門家の間でこのところ関心が高まっているダイバージョナルセラピーと呼ばれるリハビリテーションです」と説明しています。
「ダイバージョナルセラピー」とは、どこかで耳にしたフレーズです。そういえば、看護師の友人と「その人らしさ」について話すなかに、この言葉があったように記憶しています。
そのとき彼女は、「高齢者施設に勤務する学生時代の友人から、どうしたら日々の生活をその人なりに楽しんでもらえるかということに、スタッフと知恵を絞っていると聞いたことがある」と話すなかで、「ダイバージョナルセラピー」という言葉を使っていました。
それは、何人かで集まってゲームなどをして楽しむといったような、従来のスタイルのレクリエーションではないように思い、ちょっと興味がわいて調べてみました。
ダイバージョナルセラピーで
朝、起き上がる理由をもてるように
「ダイバージョナルセラピー(Diversional Therapy:DT)」は、デンマークなどと並ぶ福祉国家として知られ、日本人の年金生活者の移住先としても人気が高いと聞くオーストラリアにおいて、50年ほど前に誕生したようです。
図書館に行き関連書を読んでみましたが、読み進めていくと、「セラピー」、つまり「治療」というよりも「ケアそのもの」として捉えた方がぴったりくるように思えてきました。
ちなみに、日本ダイバージョナル協会のホームページにアクセスしてみると、ダイバージョナルセラピーを次のように定義し、説明しています。
ダイバージョナルセラピーとは、各個人が、いかなる状態にあっても、自分らしくよりよく生きたいという願望を実現する機会を持てるよう、その独自性と個性を尊重し、援助するために、「事前調査→計画→実施→事後評価」のプロセスに基づいて、各個人の“楽しみ”と“ライフスタイル”に焦点をあてる全人的アプローチの思想と実践である。
一言で言えば、ダイバージョナルセラピーとは、朝、ベッドから起き上がる理由をもてるように手助けすることである。
(引用元:日本ダイバージョナルセラピー協会ホームページ*¹)
なるほど、ダイバージョナルセラピーは、「自分らしく」「よりよく生きる」「独自性と個性の尊重」「各個人の楽しみ」「全人的アプローチ」、などの言葉をキーワードにしています。このことから考えても、単なる娯楽やレクリエーションではないことがわかります。
クリエイティブ・ライフを創り出す
日本版ダイバージョナルセラピー
この定義と説明、とりわけ「朝、ベッドから起き上がる理由をもてるように手助けする」とあるのを目にし、10年ほど前、グループホームで認知症高齢者のケア活動を30年近く続けているという施設長の女性、Uさんを取材したときのことを思い出しました。
認知症かどうかは関係なく、また年齢の別なく、誰にも「自分は生きている」と実感できる瞬間が、日々の何気ない生活のなかに必ずあるはずです。
その人にとってそれが何なのかを、その人が当たり前のように続けてきた生活を振り返ることを通してその人と一緒に見つけ出し、その人が望むかたちで毎日の生活のなかに取り入れていけるようにしたいと考えている――。
Uさんは、これを「その人のクリエイティブ・ライフを創り出すことに挑戦する」という言葉にまとめていました。
そして、「これを合言葉に、本人と家族、スタッフみんなが一丸となって取り組んでいるから、高齢者はもちろん手助けする私たちも毎日が楽しい」と、話してくれたのでした。
この話を思い出しながら、もしかしたらMさんたちが取り組んでいる、「クリエイティブ・ライフを創り出す」かかわりが、日本版ダイバージョナルセラピーなのではないだろうか、と思うに至ったのですがいかがでしょうか。
心地よい状態に没頭していると
脳も活性化されセラピー効果が
「ダイバージョナルセラピー」とか「クリエイティブ・ライフを創り出す」といった表現こそしていないものの、「ああ、そういうことだったら、私たちも毎日のケアで心がけている」と納得される方が多いのではないでしょうか。
例えば高齢者にとって、生きていることを実感できるような楽しいこととは、「好きな作家の本を読むこと」「絵を描くこと」「家族のために毎朝みそ汁を作ってあげること」「おしゃれをして外出すること」「庭で花を育てること」等々……。
いろいろあっていいわけで、誰ひとり同じではないはずです。いずれにしろ、生きていることを実感しつつ自分自身が心地よい状態でいられることに没頭しているようなときは、誰でも気持ちが穏やかで、脳の働きも活性化されていることが多くの研究で実証されています。
このような効果をもたらすことができるアプローチなら、それは既にケアをも包含したセラピーと言っていいのではないかと、ダイバージョナルセラピーは考えているようです。
ダイバージョナルセラピーワーカー養成講座も
ダイバージョナルセラピー協会は、2005年から毎年、「ダイバージョナルセラピーワーカー養成講座」を開設しています。
講座でその手法を学んだ数多くの看護師、セラピスト、介護士などが、セラピーワーカーとして現場でケアの向上に成功しているとのこと。養成講座の詳細は、日本ダイバージョナルセラピー協会のホームページ*¹を参照してください。
また、ダイバージョナルセラピーを日本に紹介、導入した同協会理事長がダイバージョナルセラピーの理論と実践方法を懇切丁寧に解説した『施設ケアの新発想! オーストラリアのプロメソッド ダイバージョナルセラピー』(三輪書店)も参考になります。
本書の資料編には、日々の実践に活用できる「ダイバージョナルセラピーアセスメントシート」や「ダイバージョナルセラピープログラム計画シート」などが掲載されています。
興味のある方は、是非一読を。
参考資料*¹:日本ダイバージョナルセラピー協会ホームページ