在宅医療の支え手「PA」をご存知ですか?

パートナー

訪問診療医に同行する
在宅医療アシスタント(PA)

米国や英国では、国家資格の「フィジシャン・アシスタント(Physician Assistant:PA:診療アシスタント)」と呼ばれる医師のパートナーがいて、主に高度医療の現場で、医師の診療を全面的にサポートしていることは知っていました。

わが国でも、医師の業務負担の軽減を目的に、タスク・シフティング(業務の移管)やタスク・シェアリング(業務の共同化)の推進が検討されるなか、海外の取り組みを参考にPA資格の新設が選択肢の一つに挙がっていることも聞いていました。

しかしこの新たな医療資格については、日本医師会が医療の安全や質の向上の観点から創設に極めて慎重な姿勢を崩していないこともあり、議論が十分煮詰まっていないのが現状です。したがって、仮に実現するにしてもまだ先の話だろうと思っていたのですが……。

すでに「PA」が在宅医療の現場で活動している

在宅医療の現場で、すでに訪問診療医に「在宅医療PA」と呼ばれるスタッフが同行していると知らされたときは、さすがに驚きました。

彼らは公的には無資格ながら、医師の在宅診療をサポートするとともに、患者や家族からの要望や心配事の聞き役となり、訪問看護師や介護スタッフにその話を取り次ぐ役割も担っているそうです。

医師の支え手として
PA資格創設を厚労省が提言

わが国において、医師が行う医療行為の一部をカバーするPAの資格制度創設案が初めて公に打ち出されたのは、2017年4月でした。このとき厚生労働省が公表した「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会報告書」にPA資格のことが盛り込まれていたのです。

看護師が医師の指示のもとに一部の医療行為を代行することは、2015年10月からスタートしている「特定行為に係る看護師の研修制度」により可能です。すでに、さまざまな領域において経口用あるいは経鼻用気管チューブの位置確認、人工呼吸器からの離脱、心嚢ドレーンや胸腔ドレーンの抜去、等々の特定行為が行われています。

この検討会報告書は、医師が高度な医学的専門性を発揮し、本来担うべき業務に集中して力を注げるようにしていくためには、現行の看護師特定行為研修制度をこの先さらに広く浸透させる必要があるとしています。

加えて、日常的なプライマリ・ケアと高度医療の両方の場面で医師を支える人材として、PA資格を新設し、簡単な診断や処方、外科手術の助手、術後管理などが可能となるように検討する必要がある、と提言しているのです。

PA資格創設に医師会は反対
一部の若手医師らは歓迎

そもそもPAを新しい医療資格として創設してはどうかという提案は、医師が本来の業務に力を注げるようにするためには、医師から他職種へのタスク・シフティング(業務の移管)が必要不可欠との考えに基づくものです。

これを受け厚生労働省は6月17日(2019年)、「医師の働き方改革をすすめるためのタスク・シフティングに関するヒアリング」を開催し、タスク・シフティング先となるメディカルスタッフの団体や関係学会などから意見聴取・交換を行っています。

このなかで日本医師会の今村聡副会長は、医師の監督のもとに医療行為の相当程度をカバーする医療資格者としてのPAの創設について、次のような反対意見を明言しています。

「若年人口が減少しているなかですでにある医療関係職種を確保すること自体困難なため、新たな職種を創設するべきではない」

一方、日本脳神経外科学会の新井一理事長は、「海外、特に米国でトレーニングを受け、PAが活躍する場を目の当たりにしてきた若手の脳神経外科医を中心に、PA創設に前向きな意見が圧倒的に多い」ことを紹介しています。

独自の育成プログラムで
在宅医療PAを養成

医療資格としてのPA創設に国としての方針が定まらないなかにあって、すでに無資格のフィジシャン・アシスタント、つまりPAを独自に養成する試みが進んでいます。しかも最近では、PAたちがそれなりの成果をあげていることをいくつかのメディアが取り上げています。

報道によれば、この取り組みを先駆的に進めているのは、在宅医療専門の「やまと診療所」(東京・板橋区)を立ち上げてそろそろ15年の安井佑(やすいゆう)院長です。

報道によれば安井院長は、東大医学部卒業後途上国で医療活動を行うなかで、「PAというパートナーのおかげで、医師として医療行為に集中できる」ことを実感したそうです。この体験から、8年前に独自の「在宅医療PA育成プログラム」を立ち上げ、すでに50人余りがプログラムに参加しているといいます。

在宅医療の現場では、治療よりも「最期の時間まで自分らしく生きて死んでいくためには、患者や家族にとって何が幸せかを見極めることが重要」と安井医師。この考えに立ち、プログラム参加者には「人が好きで素直なこと」を前提条件に、3年間の見習い期間中はコミュニケーション訓練を徹底するそうです*¹。

いずれはPAが患者・家族の意思決定支援も

「医師の通訳として患者と家族に踏み込んでいく姿勢と能力が不可欠。医師の後ろに隠れているだけでは問題も起きないが、役にも立たない」――。これが安井医師が求める在宅医療PA像のようです。

将来的には患者・家族の意思決定支援ができる医療人に育て上げたいとのこと。アシスタントの枠を超えた新たなプロフェッショナルが、在宅医療の担い手として、すでに登場しているようです。

さて、訪問看護師さんはじめ在宅医療を担っている看護職の皆さんは、彼らの登場をいかに受けとめ、どう連携していこうとお考えでしょうか。

在宅医療PAの活動を紹介するドキュメンタリーも

なお、NHKは2020年3月1日、「目撃!にっぽん りなの看取り~命と向き合う若者たち~」という番組で、在宅死を望む高齢者をサポートする若き女性PAの活動をドキュメントタッチで紹介しています*²。

参考資料*¹:安井医師のPA育成プログラムや仕事内容などの詳細は、「やまと診療所」のサイトでご覧になれます。

参考資料*²:NHK総合テレビ「目撃!にっぽん りなの看取り~命と向き合う若者たち~」

末期がんの患者や、在宅死を望む高齢者の“自宅での最期の時間”に寄りそう若者たちがいる。“いのちの現場”で、悩み、葛藤しながら、成長する若者たちの姿を見つめた。 末期がんの患者や、在宅死を望む高齢者の“自宅での最期の時間”に寄りそう若者たちがいる。東京・板橋区の診療所が6年前から育成している日本初のPAという人材。医療...