「スチューデントナース制度」と臨床看護実習

ナース

スチューデントドクター」に続き
「スチューデントナース」も

全国の医科大学、大学医学部、および歯科大学、大学歯学部の学生は、4年生になると、臨床実習を始める前に、全国一律の評価試験を受けなければなりません。

この試験をパスしないと、臨床実習に入れないとする制度があるからですが、このとき行われる試験は「共用試験」と呼ばれています。

この共用試験の内容は、以下の2部構成になっているそうです。

  1. 医師に求められる専門知識や問題解決能力を評価する試験(CBT)
  2. 模擬患者に対する態度や診察技能などを評価する、いわゆる実技試験(OSCE)

試験に合格すると、「スチューデントドクター」という称号が与えられます。

この称号により大学側は、「この学生は医師免許をもたないものの、臨床現場で実習を行うだけの能力を備えていることを保証します」といったお墨付きを与えることになります。

スチューデントナース制度は2010年から

このような「スチューデントドクター制度」は、2015年度より全国共通の制度となっていますが、その先駆けは山形大学医学部医学科で、2009年1月にこの制度を導入しています。

さらにその1年後の2010年には、同医学部の看護学科が、全国初の「スチューデントナース制度」をスタートさせています。

「えっ、スチューデントナースって?」と疑問を持たれる方が多いのではないでしょうか。

そこで今日は、このことを書いてみようと思います。

臨床実習の質を担保する
スチューデントナース制度

全国の看護大学や看護学部、看護学科に先駆けてスチューデントナース制度を導入した山形大学医学部看護学科では、8月31日(2020年)に11回目となるスチューデントナース認定授与式が挙行されました。

地元の各メディアは、この式典の模様と、当看護学科の3年生61人に「スチューデントナース」の称号が与えられたことを一斉に報じています。

報道によれば、コロナ禍のなか、全員マスク着用で開催された11年目になる授与式で、上野義之医学部長は、こう激励しています。

感染症対策を続けながら医療を学び、将来、看護師になった生活に誇りがもてるよう努力してほしい」

上野医学部長からスチューデントナースの認定証と実習で使うネームプレートを手渡された学生を代表して北浦和泉さんが、次のように答えたことが報じられています。

「感染症の問題があるなか、医療に尽力している看護師の姿を見ながら勉強し、将来を担っていく自覚をもって実習に臨みたい」と――。

各報道は、「スチューデントナース」の称号は、臨床看護実習の資格判定試験に合格した学生に授与されるもので、学生らがこの先行う臨床看護実習の質を担保するためのものであることを紹介しています。

さらにその記事では、今回の授与式でスチューデントナースの認定を受けた61人の看護学生は、この先12月11日までのおよそ3カ月間、同学部付属病院や県内の介護施設、保育園などで看護実習を行うことになることも、併せ伝えています*¹。

まずは、感染対策の基本中の基本である「標準予防策」を徹底して、自らが感染を受け、新型コロナウイルスによる院内感染の発生源にならないよう十分留意しつつ実習に励んでいただけることを心から願うばかりです。

同校では、今年(2022年)も8月29日に、スチューデントナース認定のセレモニーが開催されましたが、この模様はNHKニュースで全国に伝えられ、「スチューデントナース」の存在も広く一般に知られるところとなっています。

「スチューデントナース」の称号が
看護学生としての自覚を高める

山形大学医学部看護学科のスチューデントナース制度は、現在では医学教育のスタンダードとなっているスチューデントドクター制度にならって創設されたものです。

看護学生としての自覚を高め、この先医療に携わる者としての使命感や責任感を再認識することを意図した実践的な教育制度です。

「スチューデントナース」の称号を受けるには、本格的に看護行為を患者に提供する臨床看護実習に入る前に行われる試験に合格することが条件となります。

この試験では、看護学科に入学以来修得してきた看護の専門知識を問う試験に加え、多くの演習などを通して身に着けてきた患者への接し方やコミュニケーション、臨床スキルなど、看護の実践能力に関する評価も行われます。

大学側としては、この試験をパスすることにより、看護実習生が一定のレベルを備えていることを保証し、学生が行う看護行為を受けることになる患者や家族の安全と安心を担保して、看護実習への理解を得ることも目的の一つにしているようです。

患者・家族の臨床看護実習への
主体的な参加を得るためにも

同看護学科のスチューデントナース制度は、今年で11年目を迎えます。

ネット検索してみると、学生時代に「スチューデントナース」の称号を得て臨床看護実習を経験し、現在看護職についている方の多くは、おおむねこの臨床実習を「良かった」と受け止め、この経験を糧に日々看護に専念しておられるようです。

このようなスチューデントナース制度は、福岡女学院看護大学や聖徳大学看護学部(「ナーススチューデント」という称号を用いている)、直近では2017年から高知大学医学部看護学科、2021年から旭川医科大学看護学科などでも導入されているようです。

ただ、全国的にはいまだ十分普及しているとは言えないのが実情です。

実習生が提供するケアの質に不安を抱かせない

看護学生が臨床実習として患者に看護行為を提供するについては、患者や家族に学生であることを説明し、同意を得たうえで行われるべきは言うまでもないでしょう。

しかし、取材してみると「学生さんだと不安だ」とか、「なんとなく心もとない」「できれば看護師さんにお願いしたい」といった患者・家族の声を耳にすることが少なからずあります。

まずは学生自身の看護学生としての自覚が第一なのはもちろんです。

同時に、臨床実習の受け手となる患者や家族に看護実習生が提供する看護行為・ケアの質に心配や不安を抱かせないことも重要でしょう。

その不安を少しでも和らげることにもスチューデントナース制度は大きな意義があると思うのですが、いかがでしょうか。