看護師は患者の「嗜好品」にも関心を

食事療法に嗜好品

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薬に頼らず病気を未然に防ぐ
日本唯一の「嗜好品外来」

「特定保健用食品(トクホ)」に始まり、「栄養機能食品」「機能性表示食品」と、健康効果を期待できることが科学的に実証された食品が数多く出回っています。いずれも比較的簡単に手に入ることから、健康志向が高まるなかで大変な人気です。

そんななか、生活習慣病の患者やその予備群(軍)に該当する人たちの間で関心が高まっているのが、戸田中央総合病院(埼玉県戸田市)の新たな取組みではないでしょうか。同院では2015年10月という早い時期から、専門外来の一つとして「嗜好品外来」を開設しているのです。

嗜好品からうかがえる「その人らしさ」

このところのテレビなどマスメディアは、連日のように、「〇〇を食べると健康にいい」とか「〇〇が△△に効く」といった情報を流し続けています。そのなかには、誤解を生むような過剰表現も少なくないのが現実です。

そこで、健康食品や食べ物などに関する「正確な知識の普及が必要」との考えから、同外来は誕生したのだそうです。

同時にそこには、「薬を使わずにその人が日々好んで口にしているもので病気を未然に防ぐことができれば、患者の負担が軽減されるだけでなく、増え続ける医療費の削減にもつながるのではないか」との考えも働いたと聞きます。

その考えには、患者個々の「その人らしさ」を大切にする看護に通じるものがあると思うのですが、いかがでしょうか。そこで今回は、日本で唯一とされる、この嗜好品外来についてまとめてみました。

看護現場を取材していると「その人らしさを尊重する」ことが「よい看護」の代名詞のような印象を強く受ける。では、この「その人らしさ」をどう理解し、日々の看護にいかに生かしていけば、その人らしさを大切にした看護になるのだろうか。

通常の食事療法や運動療法に
その人の嗜好品を加える

同院で「嗜好品外来」を担当しているのは、循環器専門医の椎名一紀医師で、外来は毎週2回、火曜と木曜の午後に開かれています。いずれも予約制ですが、実際にこの外来を受診している患者によれば、そこではおおむねこんな診療が行われているそうです。

初診の患者にはまず血液検査や心電図といったルーチン検査と生活状況に関する問診が行われ、その結果から心疾患や脳卒中のリスクが判断され、そのうえで、リスクに見合うかたちで食事と運動に関する指導が行われることになります。

その際に、患者の嗜好品を尋ね、その嗜好品が治療、つまり食事療法に取り入れられるものであれば、その効果的な摂取方法を具体的に説明するというのです。

患者は、医師から説明、指導を受けた嗜好品を取り入れた予防・治療法を、まずは2、3か月間継続して実践。その後、再度諸検査を受けて効果を判定し、必要があれば軌道修正をしたうえで、「できるだけ薬に頼らない治療法」を続けていくことになるのだそうです。

高カカオチョコレートを
心疾患や脳卒中の予防に

その指導でよく用いられる嗜好品の一つに、チョコレートがあります。チョコレートの原材料であるカカオ豆には抗酸化作用で知られるポリフェノール類が多く含まれていることはご承知でしょう。

このカカオ豆由来の「カカオポリフェノール」の含有量は、チョコレートの種類によって異なり、「ホワイトチョコレート」として一般に市販されているもののカカオポリフェノール含有量は30%ほどです。

一方、「ダークチョコレート(「ビターチョコレート」ともいう)」と呼ばれるやや苦みの強いチョコレートには、苦みのもとであるカカオポリフェノールが70%以上も含まれています。しかも、砂糖や脂肪の含有量が通常のチョコよりもかなり抑えられているのです。

カカオポリフェノールの抗酸化力に着目

この高カカオチョコレートを少量ずつ継続的に摂取したところ、血圧の低下や善玉コレステロールの増加が認められたとする研究結果が報告されているのです。カカオポリフェノールには、以下のような作用により循環器疾患を予防する効果が期待できるというのです。

  • 悪玉コレステロールの酸化を抑えて善玉コレステロールを増やす
  • 腸内環境を改善して動脈硬化のリスクを減らす
  • 血管の収縮を促して血圧を下げる

同外来では、高カカオチョコレートと同じような効果が期待できる嗜好品として、ポリフェノールの多い赤ワインや血液をサラサラにする効果があるとされるαリノレン酸が多いクルミなどのナッツ類も活用しているそうです。

なお、チョコレートによる血圧低下の大規模調査の結果やその素晴らしい効果のメカニズムなどに関する詳しいことは、椎名一紀医師による『チョコで血圧が下がった』*¹にまとめられています。

慢性期看護に求められる
「その人の嗜好品」への視点

高カカオチョコレートについては、血圧の低下のみならず食後血糖値の低下や認知症の発症遅延、腸内環境の改善による便秘予防など、健康に寄与するさまざまな効果を期待できることが実験により確認され、大きな関心が寄せられています。

生活習慣病のような慢性疾患の患者では、特に食事や嗜好品の面においてさまざまなかたちで制限が加えられているのが現状です。その指導においては、「あれは食べてはだめ」「これ以上は口にしてはだめ」といったネガティブな面だけが強調されがちです。

そのため、制限食を続けているうちに、当事者である患者のみならず指導する側の看護師ら医療スタッフも袋小路に入ってしまったといった経験はないでしょうか。

そんなときに看護師のあなたに是非思い出していただきたいのが、慢性期看護で大切な「できないこと」から「できること」へ視点を移してみるという発想です。
⇒ 慢性期看護はもはや「問題解決志向」ではない

「できないこと」だけでなく
「できること」も伝えるかかわりを

たとえば動脈硬化のリスク低減のために制限食を続けているものの、ややギブアップ状態にある患者の場合です。

患者の嗜好品が仮にチョコレートであれば、「普通のチョコレートは勧められませんが、高カカオのチョコレートであれば、動脈硬化を改善する効果が期待できることが研究で確認されていますから食べられると思いますよ。主治医に相談してみましょう」などと、もちかけることができたらどうでしょう。

チョコレートは世代を問わず人気の高い嗜好品ですから、きっと患者は前向きの気持ちになり、新たな気持ちで食事療法に取り組んでもらえるのではないでしょうか。

その際、ポリフェノールはからだの中に入るとすぐに消化吸収されてしまい、ためておくことができないこと、そのため期待する健康効果をあげるには、継続してコンスタントに摂り続ける必要があることなどをアドバイスしておくこともお忘れなく。

なお、同院の「嗜好品外来」は、「効果が認められた嗜好品を使って、高血圧や糖尿病などの予防を!」と題するパンフレットを作成し、診療内容を詳細に解説しています。このパンフレットは同院のWebサイト*²にてダウンロードすることができますから、関心のある方は覗いてみてはいかがでしょうか。

参考資料*¹:椎名一紀『チョコで血圧が下がった』(主婦の友社)

参考資料*²:嗜好品外来パンフレット