看護師は「死にゆく人との対話」が避けられない

対話

死にゆく患者と
きちんと向き合えない

新人看護師とはいうものの、4月に就職して、すでに8か月の間を「一応看護師として自分なりに頑張ってきた」というNさんと、ある勉強会でご一緒しました。

親しく会話をするようになってまだ間もないのですが、先日会った彼女はひどく元気がなく、顔色も優れないのが、おせっかいな性分の私としてはとても気になりました。

そこで、帰り際に「時間があれば、ちょっとお茶でもしていかない?」と誘い、近くにあったティールームに入りました。

おそらく彼女は、誰かに話をしたかったのでしょう。

幸いなことに私は彼女の職場とはまったく無関係の人間です。

したがって彼女にしてみれば、職場の仲間に悩んでいることを知られる心配がなく、少しだけ気を許してくれたのでしょう。

コーヒーを飲みながら打ち明けてくれたのが、こんな悩みでした。

明らかに助かる見込みのない患者

彼女が勤務する病棟に、進行がんの末期で、明らかにもう助かる見込みのない女性の患者さんがいて、近々緩和ケア病棟に移ることになっているとのこと。

「緩和ケア病棟のベッドが空くのを待っている状況なんですが、その患者さんと何を、どう話したらいいのかわからなくて困っているんです。早く緩和ケア病棟に行ってほしいと、こころのどこかで願っている自分が情けなくて……」

いっきにそこまで話すと、大きく深呼吸をしてから、「こんなことで悩むなんて、私に看護師は向いていないのかなぁー」とつぶやくように話すのでした。

看護大学生が語り合った
「死にゆく患者といかに向き合うか」

Nさんの話を聞いていて、ある一冊の本のことが頭に浮かびました。

『死にゆく患者(ひと)と、どう話すか』*¹という本です。

進行がんの治療を専門に行っている現役の医師、國頭(くにとう)英夫氏(日本赤十字社医療センター化学療法科部長)が、日本赤十字看護大学の1年生後期必須科目の1つとして設けられたゼミで学生たちと語り合ったことをまとめたものです。

國頭ゼミのテーマは「コミュニケーション論」ですが、通常考えるコミュニケーション論とはちょっと違います。

このゼミで話し合われているのは、「死にゆく患者といかに向き合うか」「残された時間をより充実して過ごしてもらうには、自分たちに何ができるか」という、かなり深刻な、しかし看護師として臨床に立つからには、おそらく誰もが避けて通れない課題です。

ゼミには十数人の講師が招かれ、講師ごとに集まってそれぞれのテーマで議論がなされたのですが、國頭医師のゼミに集まったのは13人でした。

いずれも高校を卒業したばかりで、当然のことながら、まだ一度も医療現場に出たことがない学生たちでした。

いかなる状況にあっても
患者を見放すことは許されない

本書では、がん看護専門看護師や緩和ケア認定看護師のような、がん看護に精通した現役の看護師さんでも答えに窮してしまうような以下の課題をめぐり、学生たちが交わした意見、特別に披露された國頭医師の体験談などが、事細かに紹介されています。

  • がんの告知をどのように行うか
  • インフォームドコンセントは誰のために行うのか
  • 治療を中止せざるを得ない状態に陥ったとき、治療に望みをかけている患者の将来への希望や展望を完全に打ち砕いてしまうような悪い知らせ(Breaking Bad News)を伝える最善の方法はあるのか
  • アドバンス・ケア・プランニングの一環として、DNR(Do Not  Resuscitate)、つまり最期のときに心肺蘇生を行わないで下さいという事前指示を本人からとる根拠は何か
  • 死にゆく患者(ひと)と、どう話し、どう支えるのか

Nさんには、このような内容の本があることを伝え、今の悩みに自ら答えを出すヒントがたくさんあると思うから、是非読んでみてほしいと伝えました。

同時に、読み進めていく過程では、ちょっとしんどくなってしまうこともあるかもしれないが、つらいときはちょっと本から離れて、時間をおいてまた読むというように、ゆっくりでいいから、学生たちの考えに触れてほしい、とも――。

そして、「できれば自分もそのゼミに参加していると仮定して、自分だったらどんな意見をいうだろうかと考えながら読み切ってほしい」と話しました。

看護師として仕事をしていくからには……

真剣な表情で私の話に耳を傾けていた彼女は、一瞬息を詰め、「子どものころから憧れていた看護師だから、そう簡単にやめるわけにはいかないとは思っている」と言い、「看護師として仕事をしていくからには、どんな状況にあっても、患者さんを見放すことはできないのだから、必ず読んで参考にします」と答えてくれました。

それからしばしの時間、ありふれた女子トークを楽しんで、Nさんとは「ではまたお会いしましょう」と別れました。

別れ際の彼女の表情が少し和んでいるのを見て、「話ができてよかった」と思い、私もちょっといい気分になりました。

話し上手よりも
聞き上手な看護師に

その日の遅く彼女から、話を聞いてもらえてうれしかった旨のお礼と、早速ネットで本を注文したことを記したメールが届きました。

そこには、いつもこのサイトにアクセスしてくれていること、ネット検索していて「話し下手で悩む看護師は聞き上手に徹して」との記事を見つけたのがきっかけだったこと、なぜなら自分も話し下手で、患者さんとの会話が時々途切れてしまうことを、当時特に気にしていたから、と書き添えてありました。

患者との会話がスムーズにいかないと、自分が話し下手だからと思い込み、看護師は向いていないと決めつけがち。しかし患者の立場で言えば、少々話し下手でも聞き上手の看護師に親近感を持つという声は多い。言葉の少なさは表情でカバーするのもいいのでは。

このメールを読んで嬉しくなったのと、あの記事がどのようなかたちでお役に立てたのか聞いてみたくなった私は、「9時ちょっと過ぎたところだから、まだ起きているだろう」と勝手に判断して、Nさんに電話を入れてみました。

幸いまだ就寝していなかった彼女は、あそこに書いてあったように「話し下手はむしろ自分のメリットなのだ」と考えるようになったら、気持ちが少し楽になったことなどを話してくれました。

この言葉に、このブログを書いていることが少しでもお役に立てていることを知り、とても幸せな気分になったものです。

参考資料*¹:『死にゆく患者(ひと)と、どう話すか』(医学書院)