聴覚に障害がある人の団体が
マスク着用時の意思疎通に要望
withコロナ時代の新しい生活様式では、感染対策としてマスクの着用が必須です。
しかし、この「マスク着用」によりコミュニケーションが妨げられ、日々悩まされている人たちが少なからずいることが、このところ少々気になっています。
まずは、聴覚に障害がある人たちです。
彼らにとっては言葉を読みとるための手段である口の動きが、マスクによって隠されてしまうため、意思疎通の壁になっているのです。
全日本難聴者・中途失聴者団体連合会は、2020年3月25日と4月20日に発表した「新型コロナウイルスに関する要望書」において、以下5点の徹底を広く社会に求めています*¹。
- 都道府県の新型コロナ受診相談窓口(帰国者・接触者電話相談センター)・保健所・医療機関等の連絡先には必ずFAX番号や、やり取り可能なEメールアドレスを記載する
- マスク着用時の筆談対応の徹底
(聴覚障害者の多くは人の表情・口元の動きを見て多くの情報をとりコミュニケーションを図っており、相手の表情が隠れ、口元が見えないマスク着用は大きなバリアとなる。
特に病院での受診など、正確なコミュニケーションが求められる場面では、マスク着用で損なわれるコミュニケーションを、筆談で対応することの徹底をお願いしたい) - 意思疎通支援者(手話通訳者、要約筆記者等)へのマスクの提供
- 外出自粛で進むテレワークのためのテレビ会議、リモート学習、および国や自治体の記者会見のライブ動画など、インターネット利用における正確な字幕付与の推進
- オンライン診療場面における音声情報の文字化など、医療場面での情報保障
⑴ マスクは外し、口元をはっきり開けて、ゆっくり話す
⑵ 紙資料を見せる(事前に紙に書いておくとスムーズです)
⑶ 筆談したり、コミュニケーション支援ボードを使用する
内閣府がまとめた
「聴覚・言語障害」への配慮
先に内閣府は、年齢や障害の有無等にかかわりなく安全かつ安心に暮らせる「共生社会」を実現するための政策をまとめ、公表しています。
そのなかで、障害を理由とする差別の解消を推進するために求められる合理的配慮の提供例を、WEBサイトにて具体的に示しているのですが、「聴覚・言語障害」については、以下の5例があげられています*²。
- 筆談、手話、コミュニケーションボードを用いた指さしなど、目で見てわかる方法を用いて意思疎通を行う
- 字幕や手話などの見やすさを考慮して座席配置を決める
- 窓口で順番を知らせるときには、アナウンスだけでなく身振りなどによっても伝える
- 難聴者がいるときには、意識してゆっくりはっきりと話したり、複数の発言が交錯しないように気をつける
- 相手の話が言語障害により聞きとりにくいときは、わかったふりをせず、内容を確認して本人の意向に沿うようにする
聴覚障害者会話支援アプリ「こえとら」
さらにこのコーナーでは、聴覚障害者等と健聴者(聴覚に障害のない人)との間で、文字と音声をお互いに変換することにより円滑なコミュニケーションが図れるよう支援する聴覚障害者会話支援アプリ「こえとら」を紹介しています。
「こえとら」は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が研究開発したスマートフォンアプリで、無償で提供されており、iOSとAndroidに対応しています*³。
看護の現場でもこのアプリの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
市区町村役場の窓口などでは、聴覚障害者に配慮して、先にこちらの記事で紹介したような口元の見える透明マスク、マウスシールドを採用しているところもあるようです。
保育士のマスク着用が
子どもの成長にマイナスの影響
新型コロナウイルスの感染防止に欠かせないマスクで悩まされている人が、保育の現場にもいることがメディアで報じられています。
小児病棟などでも同じことが起きているのではないでしょうか。
子どものマスクについては、厚生労働省も文部科学省も、幼稚園や保育園への通知のなかで、園児へのマスク着用を求めてはいません。
とりわけ2歳未満の子どもについては、日本小児科医会が、マスクはむしろ危険だとして、「2歳未満の子どもにマスクを使用するのはやめましょう」とのメッセージを、5月25日に発表しています*⁴。
そのため全国の保育現場では、子どもたちにはマスクを着用させていないのですが、保育士は全員がきちんとマスクを着用して、子どもたちに離乳食を与えたり、絵本を読み聞かせたり、一緒に遊んだりしています。
ところが、保育士がマスクをしていると、口元の動きが見えなかったり、表情が伝わりにくかったりするため、さまざまな問題、しかも子どもの成長や発達にマイナスに働いてしまうような影響が出てきているというのです。
口の動きや表情が隠れることが
子どもに不安を与えることも
たとえばNHKは6月28日の朝のニュースのなかで、高知市にある福井保育園(渡辺修一園長)で、数人の保育士さんが0歳児の子どもたちに、マスクをしたまま離乳食を食べさせている様子を伝えていました。
映像を見ていると、口に運ばれた離乳食をかまずにそのまま飲み込んでしまっている子どもが何人かいるのが目につきました。
その様子に気づいた保育士さんが、マスクをしたまま口をもぐもぐ大きく動かして「噛む」ように促すのですが、その子どもたちは、相変わらず噛まずに飲み込んでしまいます。
そこで、保育士さんが一時的にマスクを外し、もぐもぐと「噛む」お手本をやって見せたところ、子どもたちは保育士さんの口元の動きをまねて、何回かもぐもぐとしてから上手に飲み込めるようになったのです。
この保育園では、マスクの着用について保育士20人にアンケート調査を行ったところ、次のような声があがっていたとのことです。
- ことばや歌を口元を見て覚える時期なのに、それが難しくなった
- 言葉を教える際に、口元を見せてまねさせていたが、それができなくなった
この映像に続き、テレビのナレーションは、乳幼児教育学が専門の大豆生田啓友(おおまめうだ ひろとも)教授(玉川大学教育学部)のこんなメッセージを伝えていました。
「子どもは、大人の口の動きをまねしたり、表情から気持ちを読みとったりしているので、表情が見えないと不安になる。安全に配慮しながら状況に応じて表情を見せる工夫が大切です」
マスクをしながらの看護の難しさを実感させられる例として紹介してみました。
参考資料*¹:全日本難聴者・中途失聴者団体連合会「新型コロナウイルスに関する要望書」
参考資料*²:内閣府「合理的配慮サーチ」「聴覚・言語障害」
参考資料*³:「こえとら」アプリサポートページ
参考資料*⁴:日本小児科医会「2歳未満の子にマスクを使用するのは止めましょう」