認知症と決めつける前に「せん妄」チェックを




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高齢患者の突然の混乱は
「せん妄」の可能性を疑ってみる

身体疾患で入院中の高齢患者が、「夜中に大声を出す」「訳のわからないことに激高する」など、精神的に混乱していることを思わせる状態に陥ると、
「入院時のアナムネ聴取では認知症の既往がなかったのに……、認知症かしら?」
などと考えがちではないでしょうか。

しかし、とくに急性期医療の現場においては、必ずしもそうとは言い切れない場合が少なくないことを認識すべきと、厚生労働省の研究班が「一般医療機関における認知症対応のための院内体制整備の手引き」のなかで警鐘を鳴らしています。

本手引きでは、認知症の専門病院ではなく、一般の医療機関に入院中の高齢患者(65歳以上)に「認知症」による症状がみられる割合は約15%と推測しています。

一方で、認知症と誤解されがちな「せん妄」については、その倍の約30%に合併しているとのこと。病状によってはその発生頻度はさらに高くなり、術後や集中治療室の入室患者では約70%、また緩和ケア病棟でも約40%の患者にせん妄がみられるとしています。

精神的な混乱を引き起こしている原因が、認知症の場合と一過性のせん妄の場合とでは、求められる対応が自ずと違ってきます。
せん妄を認知症と早とちりして対応を誤れば、一過性で終わるはずの混乱状態を永続させてしまい、場合によっては認知症へとつなげてしまうリスクがあります。

そこで今回は、一般医療機関で治療中の高齢患者に多く見られる「混乱」について、「せん妄なのか? 認知症なのか?」を見分けるアセスメントとして、せん妄のリスク確認とせん妄症状のチェックポイントを中心にまとめてみたい思います。

入院環境に身を置くこと自体
せん妄を招きやすい

せん妄とは、身体疾患をはじめとする何らかの原因で起きた脳機能の軽度から中程度の失調による意識レベルの急激な低下を背景に、注意・知覚などさまざまな認知機能の障害や精神症状が現れる、いわゆる精神症候群です。

たとえばインフルエンザなどによる高熱でダウンして終日眠っていて、ふっと目覚めたはいいものの、今は昼間なのか夜なのか、自分はどこにいるのかさえわからず一瞬戸惑い、不安になって頭が混乱してしまったという経験はないでしょうか。

この、身体は起きているのに、頭は半分眠っているという、いわゆる寝ぼけた状態というのは軽いせん妄そのものを示すもので、誰もが経験する可能性のある一過性の精神症状です。
特に高齢者では、苦痛を伴うような身体疾患によりまったく不慣れな入院環境に身を置くこと自体がこのような状態に陥る原因となりやすいことを考慮する必要があります。

すべての混乱症状が認知症症状とは限らない

この点を踏まえたうえで、先の研究班の手引きでは、認知症を疑わせる混乱など「すべての症状が認知症の症状とは限らない」ことを一般医療機関における認知症への対応の柱の一つにあげ、以下の3点を院内挙げての予防的対応ポイントとして提示しています。

  • せん妄の可能性を念頭に置く
  • 脱水、低栄養、痛み、環境の変化、薬剤の影響など意識レベルの低下をきたしやすい状況ではあるものの、医療スタッフには対処可能な要因がせん妄を引き起こし、さらには悪化させて、認知症の症状を悪化させることを念頭に置く
  • スタッフへの普及啓発や、せん妄対応チームの設置を推進する

せん妄発症の原因、誘因となる
リスク要因をチェック

せん妄の予防・早期対応のための院内レベルでの取り組みとして先の手引きがまず挙げているのは、「入院時にせん妄のリスク確認を行い、リスクが高い症例に対して、せん妄の予防的な取り組みと定期的なせん妄症状のモニタリングを行う体制整備」です。

このリスク確認から定時のモニタリングに至るアセスメントについて、手引きが巻末で例示している国立がん研究センター東病院の「せん妄アセスメントシート」では、「せん妄のリスク要因」として以下の7点をあげています。
⑴ 70歳以上
⑵ 脳器質障害(脳血管障害など、脳転移を含む脳腫瘍)
⑶ 認知症
⑷ アルコール多飲
⑸ せん妄の既往
⑹ ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠導入薬の内服(セルシン、ホリゾンなど)
⑺ その他

看護職は入院に伴うせん妄誘発因子の確認を

このせん妄リスク確認において看護職に特に期待されるのは、⑺のチェックでしょう。
この点については、日本看護倫理委員会の「身体拘束予防ガイドライン」が、身体拘束とせん妄の関係に言及するなかで、せん妄の発症を促進する「誘発因子」として例示している以下の要因が該当すると考えてはいかがでしょうか。

せん妄の誘発因子

  • 環境の変化(緊急入院、初めての・不慣れな環境、見慣れない人の存在、家族等いつもそばにいる人の不在)
  • 感覚過剰・遮断(視覚・聴覚障害、眼鏡・補聴器など常時使用している補助具の未装着、騒音、過剰な照明、日時が確認できない状態)
  • 不動・身体拘束(安静、抑制帯の使用などによる身体拘束、点滴・胃管・ドレーンなど管類の挿入、酸素マスク・心電図モニターの装着)
  • 疼痛(コントロールされていない疼痛)
  • 排泄に関する問題(便秘、頻尿、失禁、膀胱留置カテーテル・おむつ・ポータブルトイレの使用など普段と異なる排泄方法)
  • 睡眠障害(不眠、コントロールされていない眠剤投与)
  • 心理的ストレス(不安、気がかりな出来事、喪失体験)

(引用元:日本看護倫理委員会の「身体拘束予防ガイドライン」p.6)

対象となる患者に、以上の視点を中心にアセスメントを実施してせん妄を発症するリスクがあるかどうかを見極め、リスクが高いと判断される患者に対しては、予防的な取り組みとせん妄症状のモニタリングを定期的に行っていくことになります。

この点については「DELTAプログラム」について別の記事で書いていますので、よかったら参考にしてみてください。
なお、厚生労働省の研究班による「一般医療機関における認知症対応のための院内体制整備の手引き」は、コチラから全文をダウンロードできます。

高齢患者の診療場面でよく課題になる「せん妄」については、早い段階でリスクに気づき、直ちに予防的ケアを行えば発症や重症化を防止できることがわかっている。そのための予防的取り組みとして、最近注目されている「DELTAプログラム」について、概要と活用法をまとめた。