せん妄予防ケアにDELTAプログラムの活用を

やすらぎ

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令和6(2024)年度診療報酬改定では、入院料の通則(算定の大前提となる条件)に、すべての病棟において「身体拘束の最小化」に取り組むことが追記されていますが、身体拘束を防ぐには、せん妄への適切な対応による予防が必須です。

せん妄予防の取り組みに
「DELTAプログラム」導入進む

高齢化の進行に伴い増えている「せん妄」は、一般の医療機関で診療を受けている高齢患者(65歳以上)のほぼ30%に認められると言われています。患者の安全を考えると、認知症に負けず劣らずケアに難渋することが多いようです。

しかし、早い段階でそのリスクに気づき、直ちに予防的な取り組みを行うことにより、発症、さらには重症化を防止できることがわかっています。そしてこの予防的な取り組みについては、ここ数年さまざまな提案が行われています。

そのなかで、高齢の入院患者に多く見られる「認知症を疑わせる混乱した状態」が「認知症によるものなのか、せん妄なのか」を見分けるうえで押さえておきたいのが、せん妄のリスク確認の方法です。この方法については、国立がん研究センター東病院の「せん妄アセスメントシート」を中心に、こちらで紹介しました。

身体疾患で入院中の高齢患者にみられる混乱は認知症と判断しがち。だが、むしろ多いのはせん妄で発生頻度は30%とのこと。厚労省研究班による「一般医療機関における認知症対応のための院内体制整備の手引き」を参考に、せん妄リスク確認の方法をまとめた。

今回は、このリスクアセスメントから始まる予防的な取り組みの一例として、このところ高齢患者が多い病棟を中心に導入が増え、その導入効果についても評価が高まってい「DELTA(デルタ)プログラム」について、書いてみたいと思います。

せん妄アセスメントと
せん妄ハイリスク患者

「DELTAプログラム」とは、正確には「Delirium(せん妄)Team Approach」、つまり入院患者のせん妄に対する多職種チームによるアプローチのための教育プログラムです。

もともとこのプログラムは、がん治療中の患者に比較的高頻度で見られるせん妄の予防や初期対応ができるようにと、国立がん研究センター先端医療開発センターの小川朝生医師を中心とする研究チームにより開発されたものです。

しかし、今や医療機関を受診、あるいは入院する高齢患者は増える一方で、せん妄の問題は診療科の別なく喫緊の課題となっています。がん領域に限ることなくあらゆる領域において、以下を行うことが、病棟看護師を中心とする多職種スタッフに求められているのです。

  1. 入院患者に対するせん妄のリスクアセスメント
  2. 「1」の結果「せん妄ハイリスク者」であればせん妄症状のアセスメント
  3. アセスメントに基づく予防的ケア

こうした現状にあって、せん妄による患者自身の苦痛緩和や家族の負担軽減、転倒・転落や点滴ルートの自己抜去のような医療事故の減少、さらには医療スタッフのせん妄対処スキルの向上などを目的とするDELTAプログラムに、領域の別なく関心が高まっているようです。

DELTAプログラムによる
せん妄への予防的対応の流れ

DELTAプログラムは、病院や病棟の勉強会などで活用できるように、90分の教育プログラムと運用プログラムの2部構成になっているのが特徴です。このうち運用プログラム、つまり日常の臨床において活用するためのプログラムは、以下の点に工夫がされています。

  1. せん妄を見つけてからの具体的な対応の流れをシート1枚にまとめてある
  2. シートを見れば、「誰が(職種)」「何をすればよいか」が、すぐにわかる
  3. 対応は看護師が中心になっている
  4. 随時連携すべき職種とその内容が一目でわかる

シートに書かれている「DELTAプログラム」の多職種との連携を含むチームアプローチの大筋の流れは、次のようになっています。

DELTAプログラムを用いたせん妄への系統的な対応の流れ

  • STEP1:看護師によるせん妄のリスク評価(アセスメントシート)⇒薬剤師による持参薬の確認(リスク薬剤)
  • STEP2:看護師によるハイリスク患者への予防的対応(脱水予防、疼痛評価)⇒主治医による予防的対応(多剤併用)、せん妄時の指示変更
  • STEP3:看護師による定期的なせん妄のモニタリング実施
  • STEP4:看護師によるせん妄の早期発見・原因に応じた早期対応開始⇒主治医によるせん妄時の原因治療開始

(参考資料:せん妄の予防・治療を含めた対応プログラムの開発*¹)

書籍が刊行され
DELTAプログラムがより身近に

DELTAプログラムは、一般のガイドラインやマニュアル、あるいは手引きの類とは大きく異なります。せん妄の症状評価トレーニングやせん妄への対応を実践するロールプレイなどの教育プログラムが大きな要素を占めているのです。

そのため、プログラムが公開された当初は、院内研修会や病棟の勉強会などで活用するプログラムとしては素晴らしいが、多職種によるチームアプローチという課題もあり、個人レベルで日常の臨床で活用するには少々難があるのではないか、と正直感じていました。

そんななか、プログラムの開発から大分時間が経った2019年9月、ようやくプログラムの開発者らによりDELTAプログラムを紹介する書籍*²が刊行されました。

事例を通してせん妄症状の把握、原因評価、ケアを解説

本書の編者を代表し、DELTAプログラム開発チームの指導的立場にある小川朝生医師は「序文」で、「日常の臨床において、せん妄症状をどのように把握し、原因を評価してケアや対応を進めていくべきかを事例を通して紹介することを心がけた」と書いておられます。

実際、第2章では看護師としてできるせん妄への対応が具体的に紹介されています。また第3章では、治療の経過に沿ったせん妄ケアの実際が、在宅ケア場面も含むいくつかの事例を通して紹介されています。

さらに第4章のチームアプローチのポイントが書かれた部分には「看護管理の視点からみた せん妄のチームアプローチ」に関する言及があり、巻末には資料として「DELTAプログラムのせん妄アセスメントシート」が添付されています。

この本が手元にあれば、少人数での、また個人でのせん妄に対する取り組みにもDELTAプログラムを存分に活用できるのではないかと考え、紹介させていただきました。

身体拘束予防とせん妄アセスメント

なお、看護倫理学会の「臨床倫理ガイドライン委員会」による「身体拘束予防ガイドライン」では、すべての患者に対し、まずはせん妄症状の有無をアセスメントしたうえで、拘束の必要性を判断することを求めています。詳しくはこちらを参照してください。

身体拘束を防ぐ取組みについては、厚労省の「身体拘束ゼロへの手引き」よりも日本看護倫理学会の「身体拘束予防ガイドライン」がより実践的として、医療現場はもとより介護現場でも活用する施設が増えていると聞く。何がどう実践的なのか、改めて見直してみた。

身体拘束に頼らない認知症ケア

また、認知症による興奮性のBPSD(行動と心理症状)などがみられる場合でも身体拘束に頼らないケアを可能にするかかわり方については、こちらを参照してください。

認知症、特にBPSDがみられるときは身体拘束を余儀なくされがちで、「縛らない認知症ケア」の実践は簡単なことではない。そんななかBPSDの予防的ケアを徹底して身体拘束ゼロの認知症ケアを実践している医療法人大誠会グループの取り組みを紹介する。

参考資料*¹:せん妄の予防・治療を含めた対応プログラムの開発

参考資料*²:小川朝男、佐々木千幸編『DELTAプログラムによるせん妄対策: 多職種で取り組む予防,対応,情報共有』(医学書院)