心不全患者のACPに「心不全手帳」の活用を




心臓病

慢性心不全患者のACPは
正しい病状認識から

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)では、患者本人と家族や医療スタッフとの関係性のなかで、この先の、もしものときの医療やケアの受け方に関する本人の思いを引き出し、意思決定を支えるプロセスがとりわけ重視されます。

このプロセスにおいて、とかく医療スタッフは、心肺停止状態になったときの心肺蘇生を拒否する、つまりDNAR*を選択するかどうかについて、本人の意思決定支援やその事前指示を得ることに目を向けがちではないでしょうか。
*Do not Attempt Resuscitation:心肺蘇生拒否

しかし、こと慢性心不全のような循環器疾患患者とのACPにおいては、正しい病状認識、つまり「進行性の病気であることを理解してもらうことから始めることが大切です」と話すのは、急性・重症患者看護専門看護師の高田弥寿子さんです。

今日は、ACP研究会による第1回研究会のパネルディスカッションで語られた高田さんの発言をベースに、心不全、とりわけ慢性心不全患者とのACPの進め方とそのプロセスにおける留意点について書いてみたいと思います。

慢性心不全の経過を踏まえ
希望を与えつつ最悪に備える

ACP研究会(世話人代表:三浦久幸国立長寿医療研究センター在宅連携医療部長)は、欧米で生まれたACPという活動が、日本版ACPとして広く全国の医療・介護現場で普及していくことを願い、2016年2月に設立されました。

設立から4カ月後の6月11日に開かれた「第1回アドバンス・ケア・プランニング研究会」では、ACPに先進的に取り組んでいる病院の経験を共有してACPの普及につなぐことを目的に、パネルディスカッションが開かれています。

パネリストの一人として登壇した高田さんは、ACPの先進病院として知られる国立循環器病研究センターにおいて、2013年という早い時期から循環器緩和ケアチームに所属しています。

チームは、医療スタッフからのコンサルテーション(相談)要請に応え、随時慢性心不全患者や家族を中心とするACP支援を行ってきたそうです。

■ACPのタイミングを計りにくい
慢性心不全という病気には、急性増悪を繰り返すものの、最期には比較的急な経過をたどるという特徴があります。
そのため、急性増悪なのか終末期なのかの判断は難しく、ACPのタイミングを計りにくいという問題があると、高田さんは指摘します。

この点を踏まえ、高田さんらのチームは、患者や家族に対し最善の医療を行うことを保証して希望を与えつつ、最悪の事態に備える時期であることを現実的に考えられるよう、両者のバランスを取りながらアプローチを進めてきたと語っています。

急性増悪を繰り返す慢性心不全は
ACPのタイミングが難しい

こうした経験から高田さんは、慢性心不全という病気がたどる道筋により、患者はいったん急性増悪しても、今回もまたよくなるだろうと期待して将来について現実的に考えられないこともあり、それだけにACPのタイミングが難しいことなどを指摘。
そのうえで慢性心不全患者のACP実践の留意点として、以下の4点をあげています。

  1. 進行性の病気であることを理解してもらうことから始める
  2. 気がかりや苦痛を確認し対応してから進めていく
  3. メンタルの落ち込みを最小限にするために、患者の心身の状況に応じたACPの時期の検討や患者にふさわしい方法でコミュニケーションをとりながら進めていく
  4. 患者の意向は多様であるため、Shared Decision Making*に基づいた対話のプロセスを重視し継続的に進めていく

(引用元:ACP研究会ニュースレター 第一号*¹)

*Shared Decision Makingとは、「共有意思決定」と訳されることが多い。インフォームド・コンセントは医師から患者への一方向になりがちだが、Shared Decision Makingでは患者と医療スタッフとがエビデンスを共有し、双方向で話し合い、一緒に治療・ケア方針を意思決定していくことになる。

高田さんが指摘している留意点のうち、2の「気がかりや苦痛への対応」については、心不全患者への緩和ケアの重要性についてまとめたコチラの記事が参考になると思います。
是非読んでみてください。

高齢化の進行に伴い心不全患者が急増している。進行が速く、急速に悪化して突然死することもあるうえに、患者は呼吸苦という最も激しい苦痛を体験する。WHOの調査ではがん患者以上に緩和ケアニーズが多いとされる心不全患者の緩和ケアについて現況をまとめた。

日本心不全学会&日本循環器学会の
「心不全手帳」を病状認識に活用

慢性心不全患者とのACPを進めていくうえでまず取り組むべき課題として、高田さんは「病状の正しい認識」をあげています。
つまり、慢性心不全が「進行性の病気であることを患者本人に正しく理解してもらうことが大切」だとしているわけですが、その正しい病状認識を促すツールとしては「心不全手帳」が役立つのではないでしょうか。

「心不全手帳」の2018年10月改訂版は、日本心不全学会と日本循環器学会が合同で制作、刊行したものです。慢性心不全の治療の要となる病気の理解と日常的なセルフケアについて患者向けにわかりやすく解説した内容となっています。

そこでは、「心不全と診断されたら考えていきたいこと」として、ACPの考え方もわかりやすく説明されています。
ACPでは、医療スタッフがつい口にしてしまう専門用語や略語が患者との意思疎通を困難にするといった問題がよく指摘されます。

その点この「心不全手帳」では、患者と医療スタッフが同じ言葉で考えることができるように、あえて医療スタッフが日常的に使用している言葉を使い、その意味をわかりやすく説明するといった工夫もなされています。

この手帳は循環器系の診療科を中心に医療機関で無料配布されています。
あるいは、日本心不全学会のホームページ(コチラ)から自由にダウンロードすることもできますから、ACPに活用してみてはどうでしょうか。

なお、文中のShared Decision Making(シェアード・ディシジョン・メイキング)については、こちらの記事で詳しく書いています。読んでみてください。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)では、シェアード・ディシジョン・メイキングに基づく対話の重要性が強調される。さてシェアード・ディシジョン・メイキングとはどのような意思決定を言うのか、たとえばインフォームド・コンセントによる意思決定とはどう違うのか。

2020年2月以降パンデミック(世界的大流行)になっているCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)と心不全の関係については、こちらの記事を参照してください。

基礎疾患がある人がCOVID-19に罹ると重症化しやすいと言われる。心臓病、特に心不全はその一つだ。心不全で見られる咳と息ぐるしさは、COVID-19でも現れる症状だ。感染予防の徹底に加え、その症状の変化に気づくことと、その際の対処法などをまとめた。

参考・引用資料*¹:ACP研究会ニュースレター 第一号