心不全患者のACPに「心不全手帳」の活用を

心臓病

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令和6(2024)年度診療報酬改定では、入院料算定の施設基準に、原則すべての病棟において「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を繰り返し行い、人生の最終段階における医療・ケアを本人の意思決定を基本に行うこと」が加えられ、そのための意思決定支援*¹が行われていない場合は、診療報酬減算の対象となることが記されています。
また、同改定における在宅療養指導料の見直しにより、対象に「退院直後(退院後1月以内)の慢性心不全患者」が追加され、医師の指示に基づく看護職による在宅療養上の支援が評価(加算)の対象となっています

慢性心不全患者のACPは
正しい病状認識から

アドバンス・ケア・プランニング(ACP:人生会議)では、患者本人と家族や医療スタッフとの関係性のなかで、人生の終わりを見据えたこれからの生き方、特にもしもの状態に陥ったときの医療やケアの受け方に関する患者本人の思いを引き出し、意思決定を支えるプロセスが重視されます。

このプロセスにおいてとかく医療スタッフは、心肺停止状態になったときの心肺蘇生を拒否する、つまりDNAR(Do Not Attempt Resuscitation;心肺蘇生拒否)を選択するかどうかについて、本人の意思を確認することに目を向けがちではないでしょうか。

しかし、こと慢性心不全のような循環器疾患患者とのACPでは、「本人の正しい病状認識、つまり進行性の病気であることを理解してもらうことから始めることが大切」と話すのは、急性・重症患者看護専門看護師の高田弥寿子さんです。

今回は、ACP研究会による第1回研究会のパネルディスカッションで語られた高田さんのこの発言をベースに、心不全、とりわけ慢性心不全患者とのACPの進め方、およびそのプロセスにおける留意点について書いてみたいと思います。

なお、2020年度からスタートしている心不全患者に対する療養指導のプロフェッショナル「心不全療養指導士」の認定制度については、こちらで詳しく書いています。看護職の有資格者が多いようです。一度チェックしてみてください。

高齢者人口の増加に伴い患者数が急増する心不全について、患者のサポートを一層充実させようと、日本循環器学会が「心不全療養指導士」の認定制度をスタートさせている。第1回認定試験では、合格者のほぼ半数を看護師が占めた。この新資格のポイントを紹介する。

慢性心不全の経過を踏まえ
希望を与えつつ最悪に備える

ACP研究会(世話人代表:三浦久幸国立長寿医療研究センター在宅連携医療部長)は、欧米で生まれたACPという活動が、日本版ACPとして広く全国の医療・介護現場で普及していくことを願い、2016年2月に設立されました。

設立から4カ月後の6月11日には、「第1回アドバンス・ケア・プランニング研究会」が開催され、ACPに先進的に取り組んでいる病院の経験を共有してACPの普及につなぐことを目的に、パネルディスカッションが開かれています。

パネリストの一人として登壇した高田さんは、ACPの先進病院として知られる国立循環器病研究センターにおいて、2013年という早い時期から循環器緩和ケアチームのメンバーとして活動を続けています。

チームは、医療スタッフからのコンサルテーション(相談)要請に応えて、随時、慢性心不全患者や家族を中心とするACP支援を行ってきたそうです。

慢性心不全患者はACPのタイミングを計りにくい

慢性心不全という病気には、急性増悪を繰り返すものの、最期は比較的急な経過をたどるという特徴があります。そのため、急性増悪なのか終末期なのかの判断は難しく、ACPのタイミングを計りにくいという問題がある、と高田さんは指摘します。

この点を踏まえて高田さんらのチームは、患者や家族には、最善の医療を行うことを保証して希望を与えつつ、最悪の事態に備える時期であることを現実的に考えられるよう、そのバランスを取りながらアプローチを進めてきたと語っています。

急性増悪を繰り返す慢性心不全は
ACPのタイミングが難しい

こうした経験から高田さんは、慢性心不全という病気がたどる道筋により、患者はいったん急性増悪しても、今回もまたよくなるだろうとの期待から、将来について現実的に考えられないことがあり、それだけにACPのタイミングが難しいことを指摘。そのうえで、慢性心不全患者とのACPを実践するうえでの留意点として、以下の4点をあげています。

  1. 進行性の病気であることを理解してもらうことから始める
  2. 気がかりや苦痛を確認し対応してからACPを進めていく
  3. メンタルの落ち込みを最小限にするために、患者の心身の状況に応じたACPの時期の検討や患者にふさわしい方法でコミュニケーションをとりながら進めていく
  4. 患者の意向は多様であるため、Shared Decision Making*に基づいた対話のプロセスを重視し継続的に進めていく

(引用元:ACP研究会ニュースレター 第一号

*Shared Decision Making(シェアード・ディシジョンメイキング)とは、「共有意思決定」と訳されることが多い。インフォームド・コンセントは医師から患者への一方向になりがちだが、Shared Decision Makingでは患者と医療スタッフとがエビデンスを共有し、双方向で話し合い、一緒に治療・ケア方針を意思決定していくことになる。詳しくはこちらで詳しく書いていますので、読んでみてください。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)では、シェアード・ディシジョンメイキングに基づく対話の重要性が強調される。さてシェアード・ディシジョンメイキングとはどのような意思決定を言うのか、たとえばインフォームド・コンセントによる意思決定とはどう違うのか。

高田さんが指摘している留意点のうち、「2」の「気がかりや苦痛への対応」に関しては、心不全患者への緩和ケアの重要性についてまとめたこちらがお役に立てると思います。是非読んでみてください。

高齢化の進行に伴い心不全患者が急増している。進行が速く、急速に悪化して突然死することもあるうえに、患者は呼吸苦という最も激しい苦痛を体験する。WHOの調査ではがん患者以上に緩和ケアニーズが多いとされる心不全患者の緩和ケアについて現況をまとめた。

心不全学会&循環器学会の
「心不全手帳」を病状認識に活用

慢性心不全患者とのACPを進めていくうえでまず取り組むべき課題として高田さんは、「病状の正しい認識」をあげています。

つまり、慢性心不全が「進行性の病気であることを患者本人に正しく理解してもらうことが大切」としているわけですが、その正しい病状認識を促すツールとしては「心不全手帳」が役立つのではないでしょうか。

「心不全手帳」は、日本心不全学会と日本循環器学会が合同で制作、刊行したもので、最新版の第3版が2022年に発行されています。慢性心不全の治療の要となる病気の理解と日常的なセルフケアについて患者向けにわかりやすく解説した内容となっています。

そこでは、「心不全と診断されたら考えていきたいこと」として、ACPの考え方もわかりやすく説明されています。

ACPでは、医療スタッフがつい口にしてしまう専門用語や略語が患者との意思疎通を困難にするという問題がよく指摘されます。その点この「心不全手帳」では、患者と医療スタッフが同じ言葉で考えることができるように、あえて医療スタッフが日常的に使用している言葉を使い、その意味をわかりやすく説明するという工夫もされています。

この手帳は循環器系の診療科を中心に医療機関で無料配布されています。あるいは、日本心不全学会のホームページ*⁴から自由にダウンロードすることもできますから、ACPに活用してみてはいかがでしょうか。

なお、高田さんがメンバーとして活動する「心不全緩和ケアチーム」の活動について知りたい方は、『実践から識る! 心不全緩和ケアチームの作り方』(南山堂)が参考になります。

参考資料*¹:厚生労働省 令和6年度診療報酬改定概要説明資料P.26

参考資料*²:令和6年度診療報酬改定 在宅療養指導料の見直し

参考・引用資料*³:ACP研究会ニュースレター 第一号

参考資料*⁴:日本心不全学会「心不全手帳 第3版」