心不全患者にも緩和ケアを―ACPを始める前に




穏やか

心不全患者のACPは
緩和ケアにより苦痛を和らげてから

高血圧や不整脈、虚血性心疾患などが徐々に進行して全身に血液を送り出す心臓のポンプ機能が低下し、さまざまな症状が現れる「心不全」――。
高齢化の進行に伴い、この心不全患者が急増しています。

厚生労働省の患者調査によれば、現在の患者数は約100万人ですが、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる2025年には120万人に急増すると推計されています。
しかも、心不全患者の約70%以上が75歳以上の高齢者、とも報告しています。

心不全はすべての心疾患に共通してみられる最終像です。
しかも、心不全が発症してからの進行は速く、急速に悪化するのが特徴です。

その進行の速さを踏まえ、患者本人の自己決定能力が低下、もしくは失われないうちにアドバンス・ケア・プランニング(ACP)*により、人生の最終段階の医療に対する本人の意思確認をしておこう、と考えがちではないでしょうか。

しかしACPに取り掛かる前に、優先して行うべきことの一つに、息苦しさや不安などを和らげる緩和ケアがあると思うのですが、いかがでしょうか。

ということで、今回は、この心不全患者の緩和ケアについて書いてみたいと思います。
*心不全患者のACPについては、こちらの記事を読んでみてください。

慢性心不全は急性増悪を繰り返すものの、最期には比較的急速な経過をとるという特徴があり、ACPのタイミングを計りにくい。このACPの進め方について、国立循環器病研究センターの循環器緩和ケアチームに参加する高田弥寿子氏が指摘する留意点を紹介する。

終末期緩和ケアニーズ
トップは心不全患者

終末期において痛みなどの苦痛の対処法として緩和ケアが必要になるのは、がんによる痛みや苦しみを抱える患者だけでないことは、臨床で多様な患者にかかわっている看護師さんならよく承知しておられることでしょう。

この点については、2002(平成14)年に世界保健機関(WHO)が公表した緩和ケアの定義のなかでも、緩和ケアの対象は
「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族」
として、緩和ケアの対象はがん患者だけではないことを明言しています。

この定義を裏づける確たるデータもあります。
WHOが2014(平成26)年に、人生の最終段階に緩和ケアを必要とした成人患者の疾患別割合を報告しているのですが、そこで第1位にランキングされているのは「循環器疾患」です。
おそらく最も多いだろうと思いがちな「がん」は、「循環器疾患」に次いで第2位です。

循環器疾患は、大きく脳出血や脳梗塞などの「脳血管疾患」と、狭心症や心筋梗塞などに代表される「心疾患」の、二つに分けられます。

このうち心疾患は、最終的に「心不全」の状態に陥って死亡することが多く、たとえば著名人の訃報記事などに「死因は心不全」といったようなかたちでよく登場しますから、言葉自体は、一般にもよく知られています。

日本循環器学会と日本心不全学会の「心不全の定義」

ただ、では心不全とはどのような状態なのかという話になると、看護師さんのような医療従事者でも、正しく理解されている方はそれほど多くないのではないでしょうか。

そこで、日本循環器学会と日本心不全学会は、心不全について一般の方にも正しく理解し、予防や早期発見・治療につなげてもらおうと、2017(平成29)年10月に『心不全の定義について』と題するプレスリリースを行い、心不全を次のように説明しています。

「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」

引用元:「心不全の定義について

末期心不全患者の緩和ケアが
診療報酬の適応疾患に

この定義にある「心臓が悪い」とは、高血圧や不整脈、心筋梗塞などにより心臓のいちばん大事な働きであるポンプ機能が低下して、必要なだけの血液(栄養分や酸素)を全身の組織に送り届けることができなくなった状態を言います。

この状態が「だんだん悪くなる」と、栄養分や酸素不足から身体を少し動かしただけで動悸や息切れ、息苦しさなどの症状が続くようになり、むくみなども出て、ありとあらゆる臓器に負担をかけるようになってきます。

このような「末期心不全」の状態に陥ると、心不全そのものに対する治療だけでは患者の苦痛を完全に取り除くことは難しく、人生の最終段階をその人らしく充実して過ごし、穏やかな最期を迎えるためにも、緩和ケアが必要になります。

この、心不全患者の緩和ケアについては、ひとつ朗報があります。
2018年の診療報酬改定により、緩和ケア診療加算(1日につき390点)の適応疾患が拡大され、従来の「悪性腫瘍(がん)」と「後天性免疫不全症候群(HIV)」と並んで、「末期心不全」が加わり、次のように記されているのです。

本加算(緩和ケア診療加算)は、一般病床に入院する悪性腫瘍、後天性免疫不全症候群又は末期心不全の患者のうち、疼痛、倦怠感、呼吸困難等の身体的症状又は不安、抑うつなどの精神症状を持つ者に対して、当該患者の同意に基づき、症状緩和に係るチーム(以下「緩和ケアチーム」という。)による診療が行われた場合に算定する。

さらに、新たに対象疾患となった末期心不全には、必須要件として、
⑴ 心不全に対して適切な治療が実施されていること
⑵ 過去1年以内に心不全による急変時の入院が2回以上あること
⑶ 器質的な心機能障害で、適切な治療にかかわらず、慢性的に「NYHA重症度分類Ⅳ」の症状に該当し、頻回・持続的に点滴薬物療法を必要とすること
のいずれも満たし、なおかつ以下のいずれかを満たしている、
⑷ 左室駆出率が20%以下であること
⑸ 医学的に終末期であると判断されること
⑹ ⑷と⑸のいずれかに準ずる状態である
といった、かなり厳しい算定要件が提示されています。

心不全患者の緩和ケアは
がん緩和ケアとは似て非なるもの

緩和ケア診療加算算定の前提条件となっている「緩和ケアチーム」については、全国的な傾向として、これまではがん患者のみを対象に活動しているのではないでしょうか。

しかし心不全患者にはがん患者とは異なる苦痛があります。そのうえ、ときに突然死も起こりうるなど、がん患者と心不全患者とでは経過も異なり、心不全患者の緩和ケアについては新たに学ぶべきことも多々あろうかと思います。

したがって、心不全患者の緩和ケアが全国的に普及するにはまだ時間がかかると思われますが、徐々にながらも取り組みが進んでいくことが期待されます。

なお、兵庫県尼崎市の県立尼崎総合医療センターで循環内科医長を務める佐藤幸人医師は、10年余り前から、多職種から成る心不全チームを編成して心不全緩和ケアに取り組んでいます。

その経験をベースにまとめられた『心不全緩和ケアの基礎知識35』(文光堂)が、佐藤医師が代表世話人を務める「心不全緩和ケア研究会」の編集により刊行されています。
ここでは心不全緩和ケアに必要な基礎知識が実にコンパクトにまとめられています。
関心のある方は参考にしてみてはいかがでしょうか。

2020年2月以降パンデミック(世界的大流行)になっているCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)と心不全の関係については、こちらの記事を参照してください。

基礎疾患がある人がCOVID-19に罹ると重症化しやすいと言われる。心臓病、特に心不全はその一つだ。心不全で見られる咳と息ぐるしさは、COVID-19でも現れる症状だ。感染予防の徹底に加え、その症状の変化に気づくことと、その際の対処法などをまとめた。