「鼻出しマスク」「顎マスク」していませんか?




鼻出しマスク

つい先日まで東京近郊の病院で内科病棟の看護師長として活躍していた友人から、定年を迎えて退職し、お孫さんと一緒の生活を楽しんでいるといった近況報告のメールが届きました。
そこに、こんな一文がありました。
「中学生になった孫(女の子です)が、鼻出しマスクをして困っている」と……。

久しぶりに声を聞こうと電話をし、お孫さんの鼻出しマスクについて詳しく聞いてみたのですが、その話に、ちょっと考えさせられてしまいました。

そこで今日は、マスクの基本に立ち返って考えてみたいと思います。

病院のお医者さんも看護師さんも
鼻出しマスクをやっている……

今年(2019年)は例年に比べ2カ月ほど早くインフルエンザの流行が始まっています。
友人としては、可愛いいお孫さんを感染から守ろうと、通学途中のバスの中だけでもマスクをするように話し、毎朝新しいマスクを手渡しているのだそうです。

お孫さんは嫌がらずに、受け取ったマスクをして出かけて行くとのこと。
ところが、帰ってくるときはいつもマスクから鼻を出して、いわゆる「鼻出しマスク」の状態になっているのだそうです。

「鼻を出していたらマスクの意味がないと注意するのですが、おばあちゃんがいた病院のお医者さんや看護師さんにも、こうやってマスクをしている人が結構いたよ、と返されてしまうと、何も言えなくなってしまう……」

この話を聞きながら、取材の折などに、口だけマスクで覆って鼻を出していたり、顎(あご)にマスクをかけている医師や看護師さんの姿を幾度となく目撃したことを思い出していました。

息苦しいせいでしょうが、でもこれではマスクをする意味がありません。
むしろマスクなしで対応してもらった方が、患者とのコミュニケーションに支障をきたす心配がないと思うのですが、いかがでしょう。

感染防御の観点から看護師のマスク着用は避けられない。しかし、患者とのコミュニケーションの観点から考えると課題は残る。特に加齢性難聴のある高齢者には、マスクによるくぐもった声はより聞きとりにくくなる。口元が見えないのも、せっかくの笑顔の効用を無にしてしまう。

マスクで口と鼻を覆ってこそ、
病原体を含む飛沫による感染を防ぐ

普段何気なく使っているマスクですが、このマスクには、
「マスクとは、口と鼻を覆う形状で、咳やくしゃみの飛沫の飛散を防ぐために使用される、または、ほこりや飛沫等の粒子が体内に侵入するのを抑制する衛生用品である」
とする厚生労働省の定義があることをご承知でしょうか。

この定義のもと、インフルエンザのような気道感染症に罹患して症状のある人は、咳やくしゃみをしたときに病原体を含むしぶき、つまり飛沫を周囲に飛散させないように、不織布(ふしょくふ)製のマスクを積極的に着用することをすすめています*。
いわゆる「咳エチケット」です。
*厚生労働省 新型インフルエンザ専門家会議「新型インフルエンザ流行時の日常生活におけるマスク使用の考え方」による

■飛沫感染予防には不織布製マスクを
不織布とは、文字どおり織っていない布のことを言います。
熱や化学的な作用によって繊維を密着させることにより、シート状の紙のように作られていますから、繊維や糸を織ってできるガーゼや布に比べ、目が非常に細かくなっています。

たとえばインフルエンザでは、ウイルス自体は0.1㎛(マイクロメートル)前後と非常に小さく、不織布マスクと言えども侵入を100%阻止するのは難しいようです。

しかし、実際にウイルスに感染している患者のせきくしゃみと一緒に空中に飛び出す「飛沫」は、唾液や気道分泌物がウイルスを包み込んでサイズ的には大きくなっていますから、不織布製のマスクで口と鼻をしっかり覆っていれば、マスクを通り抜けて鼻や口から入り込んでくることはまずなく、飛沫感染を防ぐことができるとされています。

感染対策の標準予防策として
サージカルマスクを装着する

医療現場における感染対策としては、感染症の有無にかかわらずすべての患者に対して標準予防策、いわゆるスタンダード・プリコーションが行われています。
すべての患者の湿性生体物質、つまり血液、体液、分泌物、排泄物、粘膜、および傷のある皮膚を感染の対象として対応するわけです。

その基本は手指衛生です。
加えて、患者の湿性生体物質で汚染された物を扱うときは手袋を、その際に湿性生体物質が目や鼻、口に飛散する可能性がある場合は、マスクやゴーグル(あるいはフェイスシールド)、ビニールエプロンなどを着用することが求められています。

■患者からの感染防止と患者への感染防止
このとき、医療スタッフが、患者の湿性生体物質に含まれている感染性の高い病原体に曝露して感染を受けるリスクを減らす目的で着用するのが、不織布製のサージカルマスクです。

同時にこのサージカルマスク着用には、マスクを着用している医療スタッフの呼気に含まれている病原体から患者を守る目的もあります。

サージカルマスクを着用するときは、この目的を念頭に置きつつ、口と鼻がしっかり覆われるようにノースピース(ワイヤー部分)を鼻の形に合わせてきちんと押さえてからヒダを顎までしっかり伸ばし、頬などに隙間がないことを確認して装着します。

マスクを外すときは、飛沫により汚染されている表面に素手で触れないように、紐の部分を持って取り外しします。

マスクはシングルユース、つまり使い捨てが原則です。
一度外したマスクは使い回しすることなく、そのまま捨ててから手洗い、または手指消毒をすることをお忘れなく。

結核などの空気感染対策には
N95微粒子用マスクを装着する

一方、感染性の強い病原体や集団感染のリスクがあるなど疫学的に重要な病原体に感染、あるいは保菌している患者に対しては、それぞれの感染経路を遮断するために、標準予防策に加えて感染経路別予防策がとられます。

この感染経路別予防策には、主に空気予防策、飛沫予防策、接触予防策の3種類があります。
このうち空気予防策は、文字どおり空気感染対策として行われるもので、対象となる疾患は、結核(結核菌)、水痘(水痘ウイルス)、麻疹(麻疹ウイルス)の3つです。

空中を浮遊する病原体の飛沫核(飛沫の水分が蒸発して残った微粒子)が室外に飛び散り、広がらないように、患者は十分な換気と陰圧を保てる個室に隔離します。

医療スタッフは標準予防策に加え、吸引などの際に一時的に発生する病原体を含むエアロゾル(霧やガスのような状態の微粒子)を防ぐためにより密閉性の高いN95微粒子用マスク(通称「N95マスク」)を装着して対応することになります。

■飛沫核の吸入をほぼ100%阻止
N95マスクの「N」とは、Not resistant to oil、つまり耐油性がないという意味であり、「95」とは、0.3㎛以上の微粒子を95%以上捕獲できるという意味、つまり飛沫核の吸入をほぼ100%阻止できるマスクということができるようです。

はじめて自分用のN95マスクを選択するときは、フィットテストを行って顔面との密着性の適否を確認すること、また1日1回の交換を基本に、湿ってフィット感が亡くなったときや汚染したときはすぐに交換するなどの注意事項を厳守することが求められます。

■美容目的のマスク着用は禁忌です
なお、最近は若い女性の間で、「スッピンを隠したいから」とか「小顔に見せたいから」との理由でマスクを着用する人も少なくないようです。
このような目的でマスクを使用している人に、鼻出しマスクや顎マスク、あるいは耳マスクが多いようですが、医療スタッフの方はくれぐれもそんなことのないように!!

参考資料:厚生労働省「医療機関における院内感染対策マニュアル作成のための手引き 更新版」(pdf