学会認定「心不全療養指導士」をご存知ですか

心不全

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令和6(2024)年度診療報酬改定における在宅療養指導料の見直しにより、対象に「退院直後の慢性心不全患者」が追加され、医師の指示に基づく看護職による在宅療養上の支援が評価の対象となっています。

増加する心不全患者に
より的確な療養指導を

心不全の患者に対する療養指導のプロフェッショナルとして、「心不全療養指導士」の学会認定制度が2020年度からスタートしていることをご存知でしょうか。

この認定制度は、さまざまな医療専門職が質の高い療養指導を行い、病院内はもちろん在宅をはじめとする地域医療のあらゆる現場で心不全患者をサポートすることを目的に、日本循環器学会が創設した制度です。

今のところ日本人の死因の第1位はがんです。しかし後期高齢者(75歳以上)に限ってみると、心臓病で亡くなる方が徐々に増えていて、90歳以上では心臓病が死因の第1位になっています。この先高齢者人口が増え続けるのは確かですから、あらゆる心臓病の終末像とされる心不全患者が急増するのは、ほぼ間違いないでしょう。

心不全は、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら徐々に進行していく症候群です。ただその悪化要因は日常生活のなかに潜んでいることが多く、普段の過ごし方次第で心不全の進行にブレーキをかけるのも不可能ではないことがわかっています。

そこで求められるのが、心不全患者に対するより的確な療養指導ですが、新たに誕生した「心不全療養指導士」には、その役割が期待されているのです。

心不全療養指導士に
期待される5つの役割

心不全療養指導士に求められる役割の基本は、自らが持つ専門知識と技術をフルに活用しつつ、心不全患者を取り巻く他職種と密に連携しながら、患者に最適な療養指導を行う点にあります。この具体的役割として日本循環器学会は、以下の5項目をあげています

  1. 心不全の発症・進展の予防の重要性を理解し、その予防や啓発のための活動に参画することができる
  2. 心不全の概念や病態、検査、治療について理解し、それをもとに病状などを把握することができる
  3. 心不全の進展ステージに応じた予防・治療を理解し、基本的かつ包括的な療養指導を実施することができる
  4. 医療機関あるいは地域での心不全に対する診療において、医師や他の医療専門職と円滑に連携し、チーム医療の推進に貢献することができる
  5. 心不全患者に対する意思決定支援と緩和ケアに関する基本的知識を有している

この先高まる心不全患者の緩和ケアニーズ

このうち「5」にある「緩和ケア」については、対象ががん患者に限られがちです。しかし世界保健機関(WHO)が2014年に報告した、人生の最終段階に緩和ケアを必要とした成人患者の疾患別割合を見ると、第1位は「循環器疾患」で、最も多いと思われがちな「がん」は、循環器疾患に次いで2位となっているのです。

これからの心不全患者に求められるケアニーズに占める緩和ケアの割合は、今まで以上に高まるものと考えられます。この点については、こちらを併せて読んでみてください。

高齢化の進行に伴い心不全患者が急増している。進行が速く、急速に悪化して突然死することもあるうえに、患者は呼吸苦という最も激しい苦痛を体験する。WHOの調査ではがん患者以上に緩和ケアニーズが多いとされる心不全患者の緩和ケアについて現況をまとめた。

心不全療養指導士の
認定試験受験資格

心不全療養指導士の資格を取得するには、毎年12月に予定されている認定試験(2023年は12月17日実施。認定試験受験のオンライン申請は6月1日~7月31日)を受験して合格する必要があります。前提として、この受験資格を取得するには、以下の条件すべてをクリアする必要があります*¹。

  1. 医療・福祉領域の国家資格を有すること
    (看護師、保健師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、管理栄養士、公認心理師、臨床工学技士、歯科衛生士、社会福祉士)
  2. 日本循環器学会の会員(正会員・準会員)であり、年会費(正会員15,000円、準会員8,000円)を納めていること
    (試験を受ける年度の4月1日以降の入会でもOKで、会員年数は不問。ただし、受験用e-ラーニング受講前の入会が必要。入会手続きは同会Webサイトから行える)
  3. 現在、心不全療養指導に従事していること
  4. 受験用e-ラーニング講習を受講し、修了証を取得していること
  5. 症例報告のレポート5例を不備なく記載し提出していること
  6. 申請書類を不備なく記載・提出し、受験料(15,000円)を納めていること

このうち「1」にある国家資格については、経験年数の規定はなく、新卒の方でも受験できることになっています。ただし、症例報告レポートの作成などには臨床経験が影響することを考えると、ある程度のキャリアは必要でしょう。

また、上記以外の職種の方で受験を希望する場合は、学会専門医(医療チームの医師など)の推薦と委員会で承認を得る必要があります。

「3」の受験用e-ラーニングとは、「心不全療養指導士認定試験学習用e-ラーニング」のこと。日本循環器学会の会員ページ画面からログインして受講することになります。講習は総視聴時間6時間22分で、途中で視聴を中止し、翌日再開することも可能。受講料として5,000円が必要です。講習内容は、こちら*²でチェックできます。

「5」の症例報告のレポートの書き方は、この講習で説明を受けることができます。

心不全療養指導士の
3割余を占める看護師

「心不全療養指導士」の認定試験は、これまでに2020年12月19日と2021年12月18日、2022年12月18日、2023年12月17日の4回行われています。

第1回の受験者数は1,979人で、うち合格者は1,771人、合格率は89.49%、第2回の受験者数は1,914人で合格者1,649人、合格率86.15%、第3回の受験者数は2,039人で合格者1,871人、合格率91.76%と公表されています(第4回の結果の詳細は未発表)。

残念ながら職種別の合格者数や合格率は発表されていません。ただ、日本循環器学会のWebサイトにある「心不全療養指導士」一覧の職種別を「看護師」で検索したところ、3回までの結果で1,794件ヒットしました。

3回の認定試験の合格者に占める看護師の割合は、約31.3%になりますから、全体の3割余を占めていることが確認できます。

認定試験に備えるポイント

名簿リストに知人の名前を見つけ、合格に向けた対策のポイントをうかがうと「匿名」を条件に、以下の3点をあげてくれましたので、紹介しておきます。

  1. 臨床で日々経験していることに関する問題が多く出題されていたため、日頃のケアを基本に立ち返って見直しておくことが大事(患者指導に活用している「心不全手帳」が、知識を整理する上で役立ったとのこと)
  2. 試験問題を改めて見直してみると、日本循環器学会の『心不全療養指導士認定試験ガイドブック(改訂第2版)』全体からまんべんなく出題されている。
  3. ガイドブックの巻末にある知識確認のための練習問題を、力試しのつもりで実際にやっておくといい

なお、上記「1」の心不全手帳については、こちらで詳しく書いていますので参考にしてみてください。

慢性心不全は急性増悪を繰り返すものの、最期には比較的急速な経過をとるという特徴があり、ACPのタイミングを計りにくい。このACPの進め方について、国立循環器病研究センターの循環器緩和ケアチームに参加する高田弥寿子氏が指摘する留意点を紹介する。

参考資料*¹:日本循環器学会「心不全療養指導士」

参考資料*²:日本循環器学会「心不全療養指導士 受験者用e-ラーニング講習」

参考資料*³:日本循環器学会「心不全療養指導士名簿」