長時間訪問看護で介護者にレスパイトケアを

コーヒーカップ

訪問看護師さんに
じっくり話を聞いてもらいたい

訪問看護の対象には、病気や障害をもって在宅で療養生活を続けている利用者だけでなく、その方の療養生活を支えている家族、とりわけ介護のキーパーソンも含まれます。この在宅介護者の介護疲れを癒すレスパイトケアのニーズが高まっていると聞きます。

レスパイトケアの「レスパイト(respite)」には、「休息」とか「一時休止」あるいは「息抜き」といった意味があります。

この言葉が意味するように、「レスパイトケア」とは、在宅療養者を支えている介護者にひとときの休息をとってもらい、心身ともにリフレッシュして、気持ちも新たにまた介護に取り組むことができるようにかかわるケアのことです。

在宅介護者の介護負担軽減を目的としたレスパイトケアのサービスは、ご承知のように、すでに各種用意されています。ただ先日、経管栄養を続ける夫を在宅介護している知人から、レスパイトケアにまつわるこんな話を聞くことができました。

「介護から解放されてフリーになれる時間がほしいのはもちろんだけど、この先どうすればいいのか気になっていることなど、じっくり話を聞いてもらえる時間があればと思う」

しかも、「できれば日頃お世話になっていて、夫のこともよくわかってくれている訪問看護師さんに聞いてもらえたらなおいいんだけど……」とのこと。

そこで、こうした事態に関する制度上の可能性について整理してみることにしました。

介護者のレスパイトケアに
ショートステイを利用

在宅介護者のためのレスパイトケアとしては、たとえば介護保険に「ショートステイ」、正確には「短期入所生活介護」と呼ばれるサービスが用意されています。

要介護認定で「要介護1」以上の認定を受けた利用者(在宅療養者)が、特別養護老人ホームなどに短期間入所して、食事や入浴など、日常生活を送るうえで必要な介護や機能訓練を受けることができるサービスです。入所できる期間は1カ月につき最長で30日です。

このサービスを利用すれば、在宅療養者が施設に入所している間は、一時的とは言え、日々の在宅介護で気が休まる暇もなく少々疲れ気味の介護者は、しばし介護から解放されますから、少しは自分を癒す時間を持つことができるはずです。

レスパイト入院制度も
介護者のレスパイトケアに

ところが、同じ在宅療養者で「要介護1」以上の認定を受けていても、経口摂取ができずに中心静脈栄養法や成分栄養経管栄養法をしているなど、医療的ケアが欠かせない方は、ショートステイは断られてしまいます。

そのような在宅療養者には、ショートステイ同様のサービスを医療保険で利用できるように、「レスパイト入院」という制度が用意されています。この入院制度を利用できる在宅療養者の条件は、受け入れ先の医療機関により多少の違いはあるものの、一般に、以下の3点が挙げられます。

  1. 次のような医療的ケアが常時必要であること
    ⑴ 胃瘻や経鼻、点滴による栄養補給を受けている
    ⑵ 人工呼吸器を使用している
    ⑶ 気管切開をしている
    ⑷ 在宅酸素療法を受けている
    ⑸ 褥瘡処置が必要である
  2. 病状自体は安定していること
  3. かかりつけ医の紹介状があること

このレスパイト入院を受け入れているのは、主に「地域包括ケア病棟*」のある医療機関で、レスパイト入院として入院できる期間は「原則2週間」、最長でも60日です。

在宅療養者のレスパイト入院は、在宅介護者の休息目的以外にも、身内や友人の冠婚葬祭や出張、旅行などのために一時的に介護から離れるような場合にも利用可能な制度です。

*地域包括ケア病棟は、医療や介護が必要な状態になっても住み慣れた地域で生活することを望む患者への支援を目的とする病棟で、以下3つの役割を兼ね備えることが期待されている。
①急性期治療を経過した患者の受け入れ
②在宅で療養している患者の緊急時の受け入れ
③在宅への復帰支援
レスパイト入院は②に該当する。
2022年6月時点で、全国の地域包括ケア病棟は2745病院、9万8105床で、決して十分とは言えないのが現状だ。

「特別訪問看護指示書」を活用し
長時間訪問看護でレスパイトを

では、訪問看護ではどうでしょうか。訪問看護の一環として、冒頭で紹介したような「じっくり話を聞いてほしい」とか「大事な相談にのっていただきたい」など、在宅介護者のレスパイトケアニーズに応えることはどこまで可能なのでしょうか。

かかりつけ医が発行する「訪問看護指示書」には、原則として、「1日1回、訪問時間は基本的に30分以上90分未満」といった利用制限があります。この程度の時間では、1回の訪問で療養者の医療的ケアをして、さらに介護者のレスパイトのための時間をとるというのはそう簡単にできることではないでしょう。

しかし、在宅療養者が、厚生労働大臣が定める疾病あるいは状態に該当すれば、既定の利用枠を超えて1回2~3時間ほどの長時間訪問看護も実施できることはご存知のことと思います。このうち「厚生労働大臣が定める状態等」を見直してみると、要介護認定を受けていない在宅療養者で医療的ケアを常時必要としている方の多くが該当することに気づきます。

医療保険対応の訪問看護には「1日1回、週3日まで」の利用枠がある。患者の病気や状態によっては、この枠を超えて週4日以上、最長で28日利用できる場合がある。その際必要になる「特別訪問看護指示書」や対象となるケースについてまとめた。

この条件に該当する在宅療養者は、かかりつけ医発行の「特別訪問看護指示書」があれば、
「週に4日以上、かつ1日複数回」医療保険対応の訪問看護を利用することができることになります。

「1日複数回」の訪問が認められますから、1回30~90分を、たとえば3回分を1度にまとめれば、長時間(2~3時間程度)の訪問も可能となります。この時間を利用すれば、経管栄養や吸引などの医療的ケアに加えて、介護者へのレスパイトケアとして、不安や悩みをじっくり聞く時間も捻出することができるのではないでしょうか。

そんなふうに考え、相談を受けた知人には、「方法はあると思うから担当の訪問看護師さんに遠慮なく相談してみたらどうかしら」と話したところです。

排泄ケアの介護負担軽減もレスパイトケアに

なお、在宅介護者にとって排泄ケアは大きな介護負担となっています。とりわけ介護者の睡眠を妨げる夜間の排泄ケアにかかる負担は大きく、レスパイトケアの観点から、この負担を少しでも軽減する福祉用具として、2022年4月から介護保険が適用になっている「排泄予測支援機器」の利用を提案してみてはいかがでしょうか。

膀胱内の状態を感知して尿量を推定し、排尿のタイミングを通知してくれる「排泄予測支援機器」が介護保険給付の対象になった。この機器を活用すれば、おむつから解放されトイレでの排尿も可能に。膀胱機能が正常であることや排尿自立への意思があること等の条件をまとめた。