病院勤務の救急救命士が
救急外来で救命処置に参加
医療法等の改正に伴い一部改正された救急救命士法施行規則が、2021年10月1日から施行されています。この法改正により、病院に勤務する救急救命士(「病院救命士」や「院内救命士」とも呼ばれている)の業務範囲が拡大していることをご存知でしょうか。
救急救命士については、「医療行為を行える救急隊員」と理解している方が多いと思います。しかしこの場合の救命士の立場は、消防署など消防機関に勤務する救急隊員です。
救急隊員ですから、重度の病人やけが人が発生したときに救急車に同乗して現場に向かい、傷病者を医療機関に搬送するのがそもそもの役割です。その搬送中に病状に変化があれば、オンラインによる医師の具体的指示のもとに救命救急処置を実施できるのが、彼ら、消防機関勤務の救急救命士の業務範囲です。
一方で、今回の法改正前までも、病院勤務の救急救命士はいました。しかし彼らの主たる業務は、救急搬送患者の受け入れや転院時の対応、つまり「病院前の対応」に限られていて、救急外来で救急救命処置を行うことは業務として認められていませんでした。
それが今回の法改正により、救急外来で医療チームの一員として救急救命処置を行うことができるようになったのです。
病院勤務の看護師さんは、この先彼らと連携する機会が今まで以上に増えてくるはず。また看護師さんのなかには救急救命士の有資格者も少なくないと聞きます。その方の場合は、その資格を生かせる場が増えることになりそうです。
彼らの専門性を生かし、業務を分担しつつ効率的に連携していくうえで知っておいていただきたい情報をまとめてみました。
病院勤務の救急救命士に
救急救命処置ができる場面は?
改正救急救命士法によれば、搬送されてきた患者に対して病院勤務の救急救命士が救急救命処置を実施できるのは、次の二つのケースです*¹。
- 重度傷病者が医療機関に到着し、その医療機関に入院するまでの間
- 重度傷病者が入院しない場合は、医療機関に到着し、その医療機関に滞在している間
なお、ここでいう「重度傷病者」とは、「その症状が著しく悪化するおそれがあり、もしくはその生命が危険な状態にある傷病者」と説明されています。
この重度傷病者に対して救急救命士が実施できる救急救命処置は、「症状の著しい悪化を防ぎ、または生命の危機を回避するために緊急に必要なもの」と定められています。
事前の院内研修が必要
病院に勤務して重度傷病者に救急救命処置を行う救急救命士には、あらかじめ厚生労働省令で定められた院内研修を受けることが義務づけられており、この研修では以下の3点を網羅することが求められています。
- 医師その他の医療従事者との情報共有の方法など、緊密な連携を促進するための業務上の留意点、いわばチーム医療に関する事項
- 複数の傷病者を対象にすることに係る安全管理、医薬品使用上の留意点、複数の点滴ラインの管理、各種医療器材や放射線機器の取り扱い上の留意点、医療廃棄物の処理方法など医療安全に関する事項
- 清潔・不潔にかかわる導線への対応方法や感染性廃棄物の処理方法など、院内感染対策に関する事項
病院勤務の救急救命士ができる
33の救急救命処置
病院勤務救急救命士が、主に救急外来において実施可能な救急救命処置は、厚生労働省の通知で示されているのですが、2023(令和5)年4月の時点で33処置あり、それらは医師の指示の方法により次の二つに分類されています。
- 医師の具体的な指示を受けなければ実施してはならない救急救命処置
(病院前医療、いわゆるプレホスピタルケアにおける「特定行為」) - 特定行為以外の、医師の包括的な指示により実施可能な救急救命処置
医師の具体的指示が必要な「特定行為」
まず「1」の、実施に「医師の具体的指示」が必要な、いわゆる救急救命士の特定行為としては以下の5処置があります。
- 乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液
- 食道閉鎖式エアウエイ、ラリンゲアルマスクまたは気管内チューブによる気道確保
- エピネフリンの投与
- 乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保および輸液
- 低血糖症病者へのブドウ糖溶液の投与
「医師の包括的な指示」のもとにできる救急救命処置
次いで、「2」の「医師の包括的な指示*」のもとに救急救命士が医療機関内で実施可能な救急救命処置としては、以下があげられます。
- 必要な体位の維持、安静の維持、保温
- 体温・脈拍・呼吸数・意識状態・顔色の観察
- ハイムリック法および背部叩打法による異物の除去
- 鉗子・吸引器による咽頭・声門上部の異物の除去
- 骨折の固定
- 圧迫止血
- 呼気吹込み法による人工呼吸
- 胸骨圧迫
- 用手法による気道確保
- 経鼻エアウエイによる気道確保
- 自動体外式除細動器による除細動
- 酸素吸入器による酸素投与
- バッグマスクによる人工呼吸
- 経口エアウエイによる気道確保
- 口腔内の吸引
- 特定在宅療法継続中の傷病者の処置の維持
- 自動式心マッサージ器の使用による体外式胸骨圧迫心マッサージ
- ショックパンツの使用による血圧の保持および下肢の固定
- パルスオキシメータ―による血中酸素飽和度の測定
- 心電計の使用による心拍動の観察および心電図伝送
- 血圧計の使用による血圧の測定
- 聴診器の使用による心音・呼吸音の聴取
- 気管内チューブを通じた気管吸引
- 血糖測定器(自己検査用グルコース測定器)を用いた血糖測定
- 自己注射が可能なエピネフリン製剤によるエピネフリンの投与
- 産婦人科領域の処置
- 小児科領域の処置
- 精神科領域の処置
なお、医療機関に所属する救急救命士に対する研修体制の整備、教材等については、厚生労働省のホームページ*²で確認することができます。
今回の病院内における役割拡大を受け、救急救命士としての国家資格取得を考える看護師さんも少なからずいると聞きます。そんな方にはこちらの問題集での備えをお勧めします。
参考資料*¹:医療機関に勤務する救急救命士の救急救命処置実施についてのガイドライン
参考資料*²:厚生労働省「医療機関に所属する救急救命士に対する研修体制整備について」