世界肝炎デーと「肝炎医療コーディネーター」

知識

肝炎ウイルス感染者は
コロナ感染者に匹敵する

日本人はもちろんですが、世界的に見ても最も多い肝臓病は、ウイルス性肝炎です。これにはA型、B型、C型、D型、E型等がありますが、なかでも飛びぬけて多いのは「B型肝炎」と「C型肝炎」です。

世界レベルでその数を見ると、B型肝炎ウイルス(HBV)に持続感染*している人は3.5憶人以上、C型肝炎ウイルス(HCV)に持続感染している人は1.7憶人以上と推定されています。これに対しWHO(世界保健機関)は、私たちが今もなお闘っている新型コロナウイルスの累計感染者が、世界で7億人を超えたと言明しています(2023年5月3日現在)。

この数と比べれば、肝炎ウイルスに感染している人がいかに多いかが実感できるというものですが、いかがでしょうか。

毎年7月28日は世界・日本肝炎デー

このウイルス性肝炎についてWHOは、2010年、毎年7月28日を「世界肝炎デー」と定め、次の3点を主な目標に、全世界で肝炎に関する啓発活動に取組むことを提唱しました。

  1. 世界的レベルでの蔓延(まんえん)にブレーキをかける
  2. 患者・感染者に対する差別・偏見を解消する
  3. 徹底した感染予防策を推進する

これを受け日本国内では、2012年に、厚生労働省が7月28日を「日本肝炎デー」と定め、「肝炎ウイルス検査の受検奨励」と「新たな感染の予防」の2点を目的に、毎年ウイルス性肝炎の予防や治療について正しい理解が進むよう普及啓発および情報提供を行っています。

さらに、「日本肝炎デー(7月28日)」を含む月曜日から日曜日までの1週間を「肝臓週間」と定めています。この間には、毎年、国や自治体レベルで、ウイルス性肝炎に関する正しい知識や治療に関する最新情報の提供、肝炎ウイルス相談や検査等の取組みが行われることになっています。

*ウイルスの感染スタイルには、一時的な感染で終わる「一過性感染」と「持続感染」がある。後者は、ウイルスが一過性の感染で終息することなく、ほぼ生涯という長期にわたり体内にすみついてしまい、持続的な感染を起こすことで、いわゆる「キャリア」と呼ばれる状態。
現在のところ持続感染するウイルスとしては、B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルス、およびエイズの原因であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)の3つが確認されている。
これらのウイルスによる職業感染についてはこちらの記事を。
新型コロナウイルス感染症同様、職業感染や院内感染の観点から気を許せないのが「針刺しによる血液媒介感染症」だ。毎年8月30日は「針刺し予防の日」。医療現場で発生した針刺し損傷後にとるべき感染予防策を、HBV、HCV、HIVを中心にまとめた。

肝炎患者等の身近な相談役
「肝炎医療コーディネーター」

B型肝炎もC型肝炎も、多くは、ウイルスに感染して一過性の肝炎を起こした後、そのまま肝機能が一生を通して安定するものです。しかし、なかには一過性感染で終わらず持続感染に移行して肝炎が慢性化し、やがて肝硬変、さらには肝がんへと進展するケースが少なからず出ています。

このような経過をたどるのは、以下の人に多く、知らないうちに肝炎が慢性化していき肝硬変へ、さらには肝がんへと進行していることが明らかになっています。

  1. 国や職場が実施するウイルス性肝炎検査を受けていないために感染に気づいていない
  2. 検査結果から感染したことを知らされていても治療を受けていない
  3. いったんは治療を開始したものの中断している

肝炎から肝硬変、肝がんへの移行者を減らす

そこで国は、2017年4月25日、肝硬変や肝がんへの移行者を減らすことをねらった肝炎対策の一層の充実を図ろうと、各都道府県知事に対し、「肝炎医療コーディネーター(肝炎コーディネーター)」の養成と積極的な活用を求める通知*¹を発出。この通知では、肝炎医療コーディネーター養成の目的として、以下の3点をあげています。

  1. 身近な地域(医療現場を含む)や職域に肝炎医療コーディネーターを配置することにより、肝炎患者やその家族への支援をきめ細かく行うとともに、肝炎への正しい理解を周辺住民や職場の職員に広く浸透させる
  2. 肝炎医療コーディネーターが住民や肝炎患者などに直接働きかけるとともに、コーディネーター間で密に連携して専門医療機関や行政機関などへ必要な橋渡ししていくことにより、「肝炎ウイルス検査の受検(検査を受けること)の勧奨」や「(陽性者の)医療機関の受診」「治療の継続」といった検査後のフォローアップが円滑に進むように働きかけ、肝硬変や肝がんへの移行を予防、または遅延させる
  3. 身近な地域や職場で肝炎医療コーディネーターが活動して、肝炎への正しい理解を社会に広げることにより、肝炎患者や家族への差別や偏見の解消につなげる

肝炎については、とかく安静を重視しがちですが、第二の肝臓といわれる筋肉を鍛えて肝機能を補完する「肝炎体操」についても、理解を広める必要がありそうです。

とかく肝疾患患者には「肝臓への血流量を維持するため」として安静を強いる傾向にある。だが筋肉には、第二の肝臓と呼ばれるように、肝機能を補完する働きがある。そこで、肝炎や脂肪肝等のリハビリとして肝臓専門医らが開発した「肝炎体操(へパトサイズ)」を。

各都道府県が認定する
肝炎医療コーディネーター

肝炎医療コーディネーターの所属先は、以下の3つに大別することができます。

⑴ 各都道府県の拠点病院や専門医療機関、および検診機関
⑵ 保健所や市区町村の肝炎対策担当部署などの行政機関
⑶ 企業の健康管理部門、人事労務課などの職域

このうち⑴の医療機関や検診機関の肝炎医療コーディネーターに就くことができるのは、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、医療ソーシャルワーカー(MSW)をはじめとする医療従事者や医療機関の職員です。

肝炎医療コーディネーターの活動内容

その具体的な活動内容として、通知では以下をあげ、このうち「7」にある「仕事と治療の両立支援」については、2020年度の診療報酬改定により慢性の肝疾患患者が「療養・就労両立支援指導料」の算定対象に加えられたことから、肝炎医療コーディネーターの活動への期待がいっそう高まっています。

  1. 肝炎医療に関する情報、知識等の説明、肝炎ウイルス検査の受検案内
  2. 肝炎ウイルス検査陽性者への受診勧奨、専門医療機関の紹介
  3. インターフェロンなどによる抗ウイルス治療後も含めた継続受診の重要性(ウイルス排除後も発がんリスクがあることなど)の説明
  4. 肝炎患者やその家族への生活面での助言、服薬や栄養の指導
  5. 定期検査費や医療費の助成、身体障害者手帳等の制度の説明や行政窓口の案内
  6. C型肝炎訴訟やB型肝炎訴訟に関する窓口案内
  7. 仕事や育児と治療の両立支援*相談に関する窓口案内
  8. 医療機関の職員向け勉強会の開催
  9. 拠点病院などで実施する肝臓病教室や患者サロンなどへの参加
  10. 地域や職域における啓発行事への参加、啓発行事の周知
*上記「7」の治療と仕事の両立支援のための「肝炎医療コーディネーターマニュアル」は、厚生労働省のWebサイト*²からダウンロードできます。

肝炎医療コーディネーターになるには

肝炎医療コーディネーターになるには、各都道府県が指定する「肝炎医療コーディネーター養成セミナー(研修)」(基本年1回実施。受講料無料)を受講し、試験に合格する必要があります。合格者には、知事より養成セミナー(研修)の修了証書、あるいは「肝炎医療コーディネーター認定証」が交付されます。

認定の有効期間、いわゆる「任期」は、「養成セミナー(研修)当日から受講した年の5年後の末日まで」としている都道府県が多いようです。なかには段階的なフォローアップ研修を義務づけているところもあります。

詳しくは「肝炎医療コーディネーター〇〇県(お住まいの都道府県名)」などで検索して、担当部局のWebサイトをチェックしてみてください。

参考資料*¹:厚生労働省「肝炎医療コーディネーターの養成および活用について(通知)」

参考資料*²:厚生労働省「肝炎医療コーディネーターマニュアル」