認知症者接遇ガイドラインを国土交通省が策定

雑踏

認知症者の特性を踏まえた
認知症者への接遇マナー

国土交通省は今年2月、認知症者も公共交通機関をスムーズに利用できるようにと、
「公共交通事業者に向けた接遇ガイドライン(認知症の人編)」
をまとめ、Webサイトにて公開しています*¹。

このガイドラインは、2019年6月に策定された「認知症施策推進大綱」において、
「認知症の人への対応のため、公共交通事業者向け接遇ガイドラインを作成・周知し、事業者による研修の充実及び適切な接遇の実践の実施を推進すること」
とあるのを受けて作成されたものです。

本ガイドラインの作成検討会には、認知症介護研究・研修東京センター 研究部長の永田久美子氏ら学識経験者や「認知症の人と家族の会」の理事を務める原等子氏(新潟県立看護大学看護学部准教授)をはじめとする関係団体代表者、および交通事業者などが参画しています。

認知症者を理解することから始めようと、認知症の種類や特性、コミュニケーションのとり方など、認知症者とかかわるうえで基本となる知識についても解説しています。

医療や看護のさまざまな場面においても参考にしていただけると考えましたので、そのポイントを紹介しておきたいと思います。

認知症者との
共生社会を目指す

本ガイドラインは、「認知症施策推進大綱」の、
「認知症の人が尊厳を持って認知症と共に生きる、また認知症でがあってもなくても同じ社会で共に生きる共生社会を目指す」
とする基本的考え方を受けて策定されており、次の5章で構成されています。

  1. 接遇の基本
    ①基本的な心構え
    ②接遇の前提となる考え方等
    ③「障害の社会モデル」の理解
    ④「認知症施策推進大綱」基本の考え方
  2. 基本の対応について
    ①認知症の人の特性、困りごと等の理解
    ②基本的な接遇の方法
    ③周囲や地域と連携した対応
  3. 交通モード別の対応について(鉄道・バス・タクシー・旅客船・航空)
  4. 緊急時・災害時の対応について
  5. 教育内容をブラッシュアップできる体制の構築について

認知症者の困りごとを探る
コミュニケーションのポイント

このうち第2章の「接遇の基本」では、認知症者の特性や困りごとを理解することが、接遇に必須の大前提であるとして、コミュニケーションの重要性を強調しています。

このコミュニケーションについては、どんなことに困っているのかを聞くのをためらって、つい不当な対応となってしまうことを避けるためにも、相手の状況に合わせて、どんな支援が必要なのかを探る方法として、以下の6点をあげています。

  • 目線を合わせ、ゆっくりと口の動きがわかるように話す
  • わかったことは復唱して確認する
  • わからないことがあれば、何度でも聞き返す
  • 相手が「はい」「いいえ」で答えられるよう、具体的に質問する
  • 可能であれば、書いてもらう、こちらも書く
  • 絵を描く、筆談する、コミュニケーション支援ボードを使うなど

この、「何が必要なのか」を認知症者に訊ねるコミュニケーションでは、往々にして話の通じる家族等の介助者や同伴者に代弁を求めがちです。

しかし、認知症者本人の尊厳のためには、
「何を差し置いてもまずは本人に話しかけることが基本」であるとしています。

認知症者の「できること」を
見出し、そこに働きかける

同じ章の「認知症の人の特性、困りごと等の理解」の項では、認知症という状態を「もの忘れ」や「道に迷う」といったイメージで捉えがちであることに言及。

その対応においては、「自分では理解・判断ができず、何もできないのではないか?」と誤解してしまうことが多々あるが、実際はそうではないとして、こう説明しています。

「認知症の症状の現れ方には多様性があり、一般的に認知症だったとしても認知機能が一気に落ちることはなく、維持している機能によってできることはまだたくさん残されています」

その「できること」を見出して、そこに働きかけていくことが重要だ、としたうえで、
脳の老化によりもの覚えが悪くなったり、人の名前がすぐに思い出せなくなったりするのと認知症による「もの忘れ」とは同じではないと説明。

「認知症の人を一律のイメージで対応することがないように心がけることが大切」であるとして、認知症についてさらに正しい理解を深め、適切な支援方法を身につけるのに打ってつけの方法として、「認知症サポーター養成講座」があることを紹介しています。

なお、認知症サポーターについては、こちらの記事を参照してください。

2025年には認知症の人が約700万人と推計されている。この度決定した認知症対策大綱では、共生と予防を2本柱に「通いの場」と「認知症サポーター」の拡充に重点が置かれている。看護職にはサポーターとしての活動とともに、その養成にも参加を期待したい。

認知症者への対応において
心がけたい6つのポイント

慣れない公共交通機関を利用しようと外出したものの、「目的地の駅名を忘れてしまう」「目的地で降りられるかどうかわからなくて不安になる」「パニックになって、何もできなくなってしまう」ななど、認知症者が困っている場面に遭遇することも多々あるでしょう。

このようなときは、「驚かせない」「急がせない」「自尊心を傷つけない」の3原則に則ったコミュニケーションを基本に、以下のポイントを心がけるよう促しています。

  1. 特別視をせず、対応には一呼吸おいて
    こちらが緊張していると、その緊張感が伝わり動揺させてしまう。まずは自らがリラックスし、自然体で対応する
  2. まずは見守り、余裕をもって対応する
    さりげなく様子を見守り、必要に応じて声をかける。その際は、いきなり声をかけて動揺させないように、余裕をもって対応する
  3. 声をかけても不安な様子の場合
    いきなり声をかけて恐怖を感じさせ、パニックに陥れないように、1人で静かに声をかけ、落ち着ける場所へ誘導して不安を取り除く
  4. 本人の視野に入る場所から、目線を合わせて声をかける
  5. ゆっくり、簡潔に、はっきりした話し方を
    いくつもの問いかけを同時にして認知症者を混乱させないように、相手の反応を見ながら会話を進める
  6. 相手の言葉に耳を傾けて、ゆっくり対応する
    認知症者は急かされるのが苦手であることを忘れず、相手の言葉をゆっくりと聞きながら、何をしたいのか、何をしてほしいのかを推測しつつ確認する

認知症者が車内で立ちすくんだら
行動の理由を考え、確認する

3章の「交通モード別の対応について」では、鉄道、バス、タクシー、旅客船、航空のそれぞれにおいて、実際のシチュエーションに応じた認知症者に対する接遇方法や対応における留意点、好事例が紹介されています。

たとえば鉄道の場合で言えば、認知症者が駅のホームや車内において、「立ちすくむ」「行ったり来たりしている」「座り込んでいる」といったシチュエーションを設定。

「どこへ行けばいいのかわからない、トイレへ行きたいのだがどこかわからない、混雑していて歩けなくなってしまった、などが理由として考えられる。ゆっくりと落ち着かせ、わからないこと、どうしたいかなどを確認する」
と対応方法が書かれています。

併せて、「行先などを確認する際は、落ち着いた状態で理解しているかどうかを確認しながら聞く」、パニックになっているようなときは、
「安全確保を第一に考え、落ち着ける場所に誘導し、時間をかけて落ち着くのを待つ」
といった対応の留意点もあげられています。

参考資料*¹:「公共交通事業者に向けた接遇ガイドライン(認知症の人編)」