ユーモアセンスを磨いて看護に笑いの効用を

看護師の笑顔

こころを和ませる
ユーモアのセンス

人は誰もがストレスと無縁ではいられません。とりわけ人の生老病死(しょうろうびょうし)、つまり「生まれること」「老いること」「病むこと」「死ぬこと」の四つの苦のいずれかにより、「自分の思うようにならない」状況に陥っている患者と対面することの多い看護師さんは、人一倍ストレスの多い日々を過ごしておられることと思います。

そのストレスを生活に適度な刺激をもたらしてくれるスパイス(香辛料)として受け止め、ストレスと上手につき合って張りのある生活を送ってほしい、というハンス・セリエ博士のメッセージ*は余りにも有名です。

*ハンス・セリエのストレス学説:生理学者のハンス・セリエ博士は「ストレスは、生活のスパイスと考えなさい」との名言を残している。「スパイスの効いていない料理は味気ないし、また効きすぎても食べられない」として、ストレスと上手く付き合うことの大切さを伝えている。

まずは自らがストレスをためこまない

精神的・身体的なストレスはセロトニン(脳内神経伝達物質)の分泌量を減少させ、気分の落ち込みやうつ状態に陥る原因となりがちです。ストレスをため込まないない方法としては、たとえばジョークではなくユーモアにあふれた「落語」や「漫才」を楽しんで大笑いし、ストレスを発散するのもいいでしょう。

また、こちらで紹介している国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所が開設している「こころの情報サイト」では、ストレスをためこまないコツを具体的に解説しています。是非チェックしてみてください。

専門家らによる「こころの情報サイト」が開設された。こころの病気の予防に必要な「ストレスをためないコツ」や早期に気づくための「こころの病気の特徴的なサイン」、病気になった場合に受けられる生活支援などを詳しく解説している。こころの不調に気づいたら活用を。

自らのストレスを発散するコツを学ぶと同時に、そこから患者のこころを和ませるようなユーモアのセンスを身に着けていただけたらと思います。

最近、大声を出して、
思いっきり笑いましたか?

ストレス対策の一つである落語について言えば、最近「出張寄席」が静かなブームになっています。「出前寄席」とも呼ばれているようです。

ブームのきっかけは、2011年に起きたあの東日本大震災だとか。いくつかの大学の落語研究会のメンバーたちが、「東北に笑顔を届けよう」を合言葉にチームを結成し、定期的に被災地を訪れては、落語を披露しているのだそうです。

その活動が徐々に発展し、最近では介護老人保健施設に入所している高齢者にも、また数は少ないものの病院を訪れて入院中の患者にも届けられるようになったと聞いています。

出張寄席を聞こうと集まった被災地の方々が、来た時と寄席を聞き終えて帰っていく時とでは、表情も、歩く姿勢も、そして踏むステップもまるで別人のようだった、と伝える新聞記事を読んだ記憶があります。

そこには会場から出てきた観客の、「そういえば、大声を出して笑うなんて、本当に久しぶりだったなぁ」との声も紹介されていました。

ストレスの多い日常になりがちな看護師のあなたはどうでしょう。最近、お腹の底から、思いっきり笑い転げたことはあるでしょうか?

毎日の看護に取り入れたい
「笑いの効用」

難病の膠原病にかかったジャーナリストで作家のノーマン・カズンズ氏が、「笑い飛ばして」病を克服したという話をご存知でしょうか。その経緯は、『笑いと治癒力 (岩波現代文庫)』にまとめられています。

そこには随所に、かのナイチンゲール女史が教示している「自然治癒力を生かす看護」に通じることが、カズンズ氏の実体験として詳しく書かれています。看護師さんには、是非読んでいただきたい一冊です。

カズンズ氏の話が公表されて以降、まずアメリカにおいて、続いて日本においても「笑いの効用」について研究が進められるようになりました。

その結果、笑いにより交感神経と副交感神経のバランスが整えられること、がん細胞やウイルス細胞を見つけ次第攻撃して身体を守ってくれるナチュラルキラー細胞(NK細胞)の働きが活性化して、免疫力が高められることなどがわかってきています。

笑いが自己効力感を高める

さらに最近では、大阪府にある大阪国際がんセンターが、瞬間的な笑いではなく、継続的な笑いの効用を実証する研究に、地元のお笑い芸人らの協力を得て取り組むことが発表され、その成り行きに注目が集まっています。

「笑い」に免疫力を高める効果が期待できることは欧米での実験で確認されている。日本でも初めて、その実証研究がお笑い芸人の協力を得て行われ、その効用が確認されている。研究対象はがん患者だったが、認知症をはじめとする他の患者にも応用できそうだ。

また、その後の研究では、笑いが自己効力感(セルフエフィカシー)を高め、慢性疾患患者のセルフケアの維持に大きく貢献することがわかったことも、発表されています。

笑いの効用としては免疫力アップがよく知られている。加えて今度は、自己効力感を高める効果を実証しようと、大阪国際がんセンターで研究がすすめられている。自己効力感は、慢性疾患患者のセルフケア支援に欠かせない視点の1つ。それだけに研究結果が待たれる。

患者と笑い合えるような
ユーモアセンスを

免疫力を高めることに関しては、さまざまな健康食品の類が注目を集めていますが、健康食品のようなものに頼る前に、看護師さんには自らのメンタルヘルスケアとして、たとえば落語を楽しんでいただきたい――。

落語に限らず、漫才のようなユーモアたっぷりであまり騒がしくなく、それでもお腹の底から声を出して笑えるような「お笑い」もいいと思います。

どうせ笑うなら、免疫に深く関係しているNK細胞(ナチュラルキラー細胞)の活性を高めるように横隔膜を動かす笑いがおすすめです。

ウイルスなどの外敵と闘い我が身を守る「免疫力」が「笑い」により強化されることはよく知られている。が、ただ笑っていればいいという話ではない。外敵にとって殺し屋として働くナチュラルキラー細胞(NK細胞)の働きを助けるには、横隔膜が動く笑いがいいという話を。

笑いを楽しんで、日々のストレスを発散させつつユーモアセンスに磨きをかけ、そのアップしたユーモアセンスでケアのなかでのちょっとしたひとことで患者さんを笑わせて、笑いの効用を日々の看護で活用していただけたらと思います。

ユーモアセンスにより
「わかり合える」関係に

ちなみに、精神看護専門看護師として臨床でリエゾン精神看護活動を長年にわたり続けている平井元子さんは、著書*¹のなかで、患者や家族と「結果的に”笑い合える”ように」かかわることの大切さを説いておられます。

そのなかで平井さんは、死生学領域の哲学者アルフォンス・デーケン氏の、「ユーモアとは、にもかかわらず笑うことである」という言葉を紹介し、その意味するところを、このように説明しています。

「ユーモアというのは、悩みや苦しみのさなかから生まれてこそ、人を救うものなのだということ、だから、ユーモアや笑いは、終末期のケアにおいても意味があるということを伝えているのだと解釈しました」

(引用元:『リエゾン―身体(からだ)とこころをつなぐかかわり 』*¹p.180

仮にその笑いが瞬間的なものであったとしても、笑い合ったそのときに、何かしら通じ合えるものが生まれ、患者との関係が深まっていくきっかけになるようです。おそらくあなたもそんな経験をお持ちのことと思います。

現実的な話として、臨床の厳しさを思えば、そう笑ってばかりもいられないと思われる看護師さんも少なくないでしょう。それでもやはり看護師さんには、緊張した硬い表情よりも、思わずこころが和むような柔らかい笑顔を望む患者や家族が多いのではないでしょうか。

看護師さんご自身にとっても、笑えば免疫力がアップすることに加え、脳の前頭葉の血流が増えますから、気持ちの落ち込みゃうつの予防にもつながります。

引用・参考資料*¹:平井元子著『リエゾン―身体(からだ)とこころをつなぐかかわり (SERIES.看護のエスプリ)