「笑いの効用」で自己効力感を高める看護

コメディアン 笑い

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笑いが自己効力感を高め
セルフケア継続のチカラに!?

「笑い」が免疫力を強化し、病気の予防やがんなどの病気と闘っていくチカラになることはよく知られています。

そもそもは、1960年代前半にアメリカ人のジャーナリスト、ノーマン・カズンズ氏が、不治に近いと医師から告げられた難病を、文字どおり「笑い飛ばして」克服したことを闘病記にまとめ、「笑いの効用」を広くアピールしたことが始まりでした。

その後、欧米を中心に、また日本においても数多くの研究が行われ、カズンズ氏が指摘した、NK細胞を活性化させて免疫力を高め、がんや難病からの回復力を高めるという「笑いの効用」が実証されてきました。

直近では、大阪国際がんセンターの研究チームの研究成果*¹があります。がん患者が落語や漫才を鑑賞すると、血液検査において免疫細胞を活性化させるたんぱく質の数値が高くなり、同時に、落ち込んだり不安な気分になるのが抑えられ、痛みも改善されることを確認できた、というものでした。詳しくはこちらを!!

「笑い」に免疫力を高める効果が期待できることは欧米での実験で確認されている。日本でも初めて、その実証研究がお笑い芸人の協力を得て行われ、その効用が確認されている。研究対象はがん患者だったが、認知症をはじめとする他の患者にも応用できそうだ。

笑いの効用は免疫力だけでなく自己効力感にも?

その後この研究チームは、笑いの効用に関する研究の第2弾をスタートさせています。なんと今度は、いっときだけでなく、定期的に反復する笑いが「自己効力感」と「生活の質(QOL)」にどのような効果をもたらすのかを検証するというのです。

自己効力感と言えば、がんに代表される慢性疾患の患者がセルフケア行動を継続していく原動力になるものとされています。看護はかねてよりこの点に注目し、自己効力感を高めるアプローチに関する研究もいくつか行われています。それだけに、今回の科学的検証によりどのような結果が得られるのか、気になるところです。

笑いによるポジティブな感情と
自己効力感の相関性は?

大阪国際がんセンターにおいて現在進められている実証研究、題して「WAROTEMAE(わらてまえ)劇場2018」では、がん患者に加え、彼らの治療やケアを担当している看護師ら医療スタッフも被験者として検証作業に参加しています。

被験者には、落語や漫才などお笑いの舞台を定期的に楽しんでもらい、その後アンケート調査で「自己効力感」と「QOL指標」を、血液検査で「免疫機能」を調べ、笑いが与える影響を比較・検証する方法で研究は鋭意進められています。

「定期的に」お笑いの舞台を鑑賞して笑う

その紹介記事で、研究チームの代表を務める宮代薫・がん対策センター所長は、インタビューに答えて、今回の研究が従来行われてきた「笑い」に関する研究と大きく異なる点として、以下の3点を挙げています。

  1. お笑いの舞台を1回限りではなく、定期的に反復して楽しんでもらっている
  2. がん患者だけでなく、常日頃がん治療・ケアと向き合い、緊張状態にある医療スタッフも研究の対象にしている
  3. 研究対象の患者の年齢を40歳以上65歳未満、医療スタッフは20歳以上65歳未満とすることで、働く世代を意識した研究にしている

いずれも新しい視点ですが、なかでも注目されるのは、1回だけでなく2週間に1回の間隔で、定期的にお笑いの舞台を鑑賞し、継続して笑うようにしている点ではないでしょうか。

がんなどの慢性疾患を抱えながらの療養生活は、個人差はもちろんあるでしょうが、概して心身の苦痛に加えて生活上の制約も多く、決して楽なものではないでしょう。

そんな、とかく笑いとは無縁になりがちな生活を送る患者にとって、常に笑いのある環境が用意されていたら、ポジティブな感情が呼び起こされ、自己効力感を高めることができるのではないか――、そんな期待が湧いてきます。

自己効力感に視点を置いた
看護としてのセルフケア支援

看護師さんには「セルフエフィカシー(self-efficacy)」という表現でも知られる、この自己効力感については、すでにいくつかの定義や解説が紹介されています。

そんななか、たとえば慢性疾患看護専門看護師の下村晃子さんは、著書*²のなかで、慢性疾患患者がセルフケア行動を起こすモチベーションを向上させ、なおかつそれを長く継続していく原動力となるものとして、自己効力感をあげ、次のように説明しています。

自己効力感とは、提唱者であるカナダの心理学者バンジューラ(Bandura A.)によれば、「ある具体的な状況において、自分が、適切な行動をとることができるという予期、および確信」のことを言います。
言い換えれば、人がある行動をしようとする、あるいはしているときに「自分はきちんとできる、できている」と、その行動に自信と能力があることを自覚すればするほど、すなわち自己効力感が高ければ高いほど、その行動を成功裏に遂行できる、という考え方です。

(引用元:『生活の再構築―脳卒中からの復活を支える』*² P.67)

少々難しいとお考えでしょうが、簡単に言ってしまえば、自己効力感とは、「私ならできる」「できている」という自己肯定的なセルフイメージをもって、前向きにものごとに当たることができる気持ち――ということになるでしょうか。

自己効力感の評価には
「病気に対する効力感尺度」を

今回の実証研究では、自己効力感を調べるアンケート調査として、大阪大学大学院の平井啓氏らが考案した「SEAC」として知られるアンケート用紙が使われています。

「SEAC」とは、Self-efficacy scale-for-advanced cancer 、つまり「進行がん患者の病気に対する効力感尺度」*³のことです。

この尺度としてのアンケート用紙には、「食べたいと思う量の食事をとることができる」「怒りを表に出すことができる」「イライラせずに1日過ごすことができる」「夜は眠ることができる」など、全部で18項目の質問が並んでいます。

それぞれの質問に、「完全に自信がある:100」から「全く自信がない:0」の10点刻み、11段階で点数が配分されていて、被験者はその時点でぴったりくる点数に〇印を付けていき、その点数の変動から自己効力感の変動をみていくというものです。

質問項目をグループ分けしていくことにより、「情動統制に対する効力感」「症状コントロールに対する効力感」「ADLに対する効力感」、そしてトータルで「病気に対する自己効力感」を評価できるようになっています。進行がん患者に限らず、あらゆる患者の自己効力感評価に活用してみてはいかがでしょう。

なお、研究の目的や研究方法に関する詳細は、大阪国際がんセンターのホームページ*¹で紹介されていますから、関心のある方はアクセスしてみてください。

また、「SEAC」つまり「進行がん患者の病気に対する効力感尺度」はコチラ*³を。

自己効力感を高めるかかわりについては、こちらも読んでみてください。

「自己効力感」、つまり自分に自信をもって行動を起こす力を高めるアプローチが今、求められている。課題に直面したとき「自分はできる」とポジティブに受け止めて行動に移すことができる力が高い状態にあれば、病気も回復に向かうという考え方を書いてみた。

参考資料*¹:大阪国際がんセンター

参考資料*²:下村晃子著『生活の再構築: 脳卒中からの復活を支える (SERIES.看護のエスプリ)

参考資料*³:進行がん患者の病気に対する効力感尺度