慢性腰痛にインナーマッスルのトレーニングを

腰痛体操

3カ月以上続く慢性腰痛は
運動習慣の見直しを

腰痛に限ったことでありませんが、痛いからとじっとして筋肉を動かさない状態を続けていると、血行が悪くなり、痛みの原因となる発痛物質や老廃物がたまる一方で、結果として、むしろ痛みは増すばかりです。

日本整形外科学会と日本腰痛学会が、初版から7年ぶりの2019年5月、『腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)』*¹を改訂しているのですが、そのなかで、「運動不足が腰痛発症の危険因子である」として安静の弊害を説いています。

そのうえで運動習慣の重要性を強調しているのですが、急性腰痛、亜急性腰痛に対する運動療法については「エビデンス(科学的根拠)は不明である」としています。

一方で、3か月以上続く慢性腰痛に対しては、「運動療法は有効である」とのこと。そこで今回は、今現在慢性的な腰痛で悩んでいるあなたに、その痛みの改善と再発防止に役立つ簡単な運動療法を紹介したいと思います。

なお、治療を要する原因不明の慢性腰痛のなかには、痛みへの不安や否定的な考えにとらわれてストレス状態に陥っていることがあるのですが、そのような腰痛には、脳を支配している痛みから解放されるうえで有効とされる認知行動療法がお勧めです。詳しくはこちらを!!

原因がはっきりしないまま3カ月以上続く慢性腰痛には、人間関係や仕事上の悩みなど心理的ストレスが影響していることが少なくない。このような痛みの改善に、その人の認知に働きかける認知行動療法が有効と聞く。「痛いからできない」とエクスキューズしている方は、一読を。

痛みが激しい急性腰痛は
トレーニングを避ける

「腰痛には安静より運動がいい」ことは、腰痛治療の新しい常識となっているようです。とはいえ、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの原因疾患が特定できる腰痛のなかには、その病状により運動はやめた方がいいと、医師が判断する場合もあります。

ですから、「腰痛には運動がいいそうだから」と、いきなり始めるのではなく、まずは一度整形外科医の診察を受けることをおすすめします。

特に、以下の「腰痛の危険信号」と言われる症状を自覚しているとは、放置したり、自己判断で運動を行ったりするのはやめて、すぐにも整形外科を受診することをおススメします。

  • じっと安静にしていても痛む
  • 痛みだけでなく発熱を伴う
  • 腰痛に加え、下肢にしびれや麻痺がある

また、腰痛の出始めで激しい痛みが続くような急性期(2~3日)に運動を行うのは禁忌で、この時期は無理のない姿勢で横になり、安静にしていた方がいいようです。痛みが落ち着いて運動を始めてからも、痛みが激しくなったときは、いったん運動を中止して安静にし、痛みが和らいだところで運動を再開するようにします。

また、腰痛そのものに変化がなくても、風邪をひいたり胃腸の具合が悪かったりするなど体調が思わしくない時も、無理は禁物。その日は運動を一時中止するようにしてください。

慢性腰痛なら
インナーマッスルを鍛える

腰痛の運動療法というと、これまでは、腹筋や背筋を鍛える運動が行われてきたようです。しかし最近は、「体幹筋(たいかんきん)」と総称される、脊柱を支えて安定させる数多くの筋肉群のうち、からだの深部にある筋肉、いわゆる「インナーマッスル」を鍛える運動に腰痛の改善効果を期待できることがわかり、そこに重点を置く運動が勧められています。

インナーマッスルを鍛えてその筋密度を上げ、体幹を頑強にします。これにより、からだの軸の安定と機能強化を図り、腰痛を改善しよう、という考え方です。

「インナーマッスル」とか「体幹トレーニング」という言葉は、サッカー選手やマラソンなどの長距離走の著名なスポーツ選手が取り組んでいるトレーニング法として、今ではすっかり有名になっています。その方法を紹介するDVDなどもたくさん出回っていますから、ご自分に合ったものを選んで参考にされるといいでしょう。

そこで、数ある体幹トレーニングのなかから、運動する習慣のない初心者でも簡単にでき、
腰痛改善におススメの「ドローイン」と呼ばれるトレーニング法について、そのポイントを紹介しておきましょう。

なお、硬い床の上に直接横になってのトレーニングは、むしろ腰痛を悪化させます。必ず厚めのトレーニング用フロアマット を敷くようにしましょう。

ダイエット効果も期待できる
「ドローイン」を毎日行う

「ドローイン」とは、「ポッコリお腹をへこませる」をうたい文句に、ダイエット法としてすでに人気のトレーニング法です。名前をご存知の方も多いのではないでしょうか。

「ドローイン」は、英語の「draw-in」からきています。日本語でいえば、「息を吸い込む」という意味です。

ドローインで腹筋の深部を鍛える

息を思いっきり深く吸い込んでお腹を膨らませることにより、「腹横筋(ふくおうきん)」と呼ばれる腹筋群の中で最も深部にある筋肉の収縮を促します。これにより腹横筋の強靭化を図り、腰痛の改善効果を上げようというトレーニング法です。

実は私も実践しているのですが、以下の1~3を、1セット10回繰り返し、1日に最低2セット(起床後と入浴後の就寝前)を目安に行っています。

  1. 背筋を伸ばし、腹式呼吸の要領で、鼻からゆっくり息を吸い込んでお腹をめいっぱい膨らませる(ドローイン)
  2. 息を吸い込んだままのドローインの状態を1015秒キープした後、口をすぼめて、目の前にあるろうそくの灯を消すイメージで、ゆっくり息を吐き出す。
    このとき、意識してお腹をへこ
    ませるようにする
  3. お腹をへこませたままの状態で、浅く呼吸して、呼吸を整える

仰臥位でお腹に手を当ててドローイン

ドローインは、立ったままの姿勢でも、あるいは座禅を組む要領で足を組んで背筋を伸ばして座った姿勢でもできます。

ただ、腰痛がある状態で「立ったまま」や「座ったまま」でいるのはつらいでしょう。そこで、腰に負担がかからないように、床に仰向けになり、足を肩幅程度に広げ、そのまま膝を立てた姿勢で行うと腰に負担がかからず楽にできます。

このとき、両手を軽くお腹の上に載せておくと、お腹の膨らみやへこみ具合を意識しながらドローインをすることができます。

毎日1回、時間を決めてドローイン

簡単にできますから、まずはこのドローインを毎日、時間を決めて続けることから始めてみてはいかがでしょうか。ただし、痛みが強いときは無理をなさらないようにしてください。

痛みが治まった後の再発防止に役立つ体操法として、厚生労働省が推奨している静的ストレッチングによる腰痛予防体操を記事にしてあります。併せて参考にしてみてください。

看護師の職業病ともいわれる腰痛については、厚生労働省が腰痛予防対策指針をまとめている。そのなかでは介護・看護スタッフが個人レベルで取り組む予防策として、動的ではなく静的ストレッチングを奨励。その効果的な方法についても紹介している。

慢性腰痛のセルフコントロールに「いたみノート」アプリの活用を

なお、慢性腰痛は、どんなときに、どのような痛みが出るのか、睡眠などとの関係はどうかといったことを自分で記録しておけば、痛みをセルフコントロールする上で役立ちます。

この痛みの可視化、つまり見える化に役立つアプリ「いたみノート」については、こちらで詳しく紹介しています。

痛みは当事者にしかわからない主観的な感覚で、痛みを的確に把握するのは難しい。とりわけ3カ月以上続くような慢性疼痛は、さまざまな要因が絡み合っているだけに、痛みの改善は容易ではない。そこで開発された痛みを可視化するアプリ「いたみノート」を紹介する。
参考資料*¹:日本整形外科学会「腰痛診療ガイドライン2019改訂版第2版