慢性疼痛の見える化に「いたみノート」を活用

腰痛

痛みは主観的な感覚で
当事者にしかわからない

腰痛や頭痛、肩こり、筋肉痛といった一般的な痛みから、手術後やがんの痛みなど、さまざまな痛みが多くの患者を四六時中苦しめています。しかし、痛みは当事者にしかわからない個人的かつ主観的な感覚です。

そのため、患者から痛みを訴えられてもその実態を的確に把握するのは難しく、多くの看護師さんが日夜対応に苦慮されていることと思います。なかでも、長期間にわたって痛みが続く「慢性疼痛」となるとなおいっそう厄介です。

慢性疼痛は、もともとの痛みに、その時々の心理・社会的なストレス状況や気象などの環境要因、睡眠状況など、ありとあらゆる要因が複合的に絡み合って引き起こされるため、痛みから患者を解放することは容易ではありません。

そこで、患者自らが日々の痛みの変化をスマートフォンアプリに記録して可視化(見える化)することにより、痛みの重症化予防やセルフコントロールにつなげようと、新しい取り組みが始まっています。

今回は、その取り組みの要となる日本初のスマートフォンで慢性疼痛の変化を可視化するアプリ「いたみノート」を紹介したいと思います。

痛みを記録して可視化する
「いたみノート」

慢性疼痛についてはいくつか定義が公表されています。そのなかで、日本慢性疼痛学会、日本ペインクリニック学会など8関連学会が作成した「慢性疼痛診療ガイドライン」では、「慢性疼痛」を次のように定義しています*¹。

「典型的には3カ月以上持続する、または通常の治療期間を超えて持続する痛み」

このような慢性疼痛を抱えている人が、日本国内には全人口の13.4%、数にして約1,700万人いるといわれています。さらに、そのなかでも痛みの症状が改善されずにいる人は77.6%にのぼるという調査結果もあるとされています。

こうした事態を重く受け止めた順天堂大学医学部付属練馬病院メンタルクリニックの研究チームは、痛みの変化を記録して可視化、つまり「見える化」することに挑戦。2018年には、慢性疼痛研究のためのアプリ「いたみノート」のiPhone版を開発、公開しています。

公開から約3年、この間には4,000人を超える人が登録し「いたみノート」を利用してきたそうです。この普及に伴い、アンドロイド版を希望する声が多くあがったことから、2021年10月にはアプリ「いたみノート」のアンドロイド版を出しています。

慢性疼痛の変化を可視化する
スマホアプリ「いたみノート」

スマートフォンアプリの「いたみノート」は、慢性疼痛の治療で通院中の患者はもちろん、通院していないものの慢性疼痛を抱えている潜在患者も利用することができます。

「いたみノート」の特徴の一つは、利用者自身が記録する日々の痛みや運動量(歩数)、抑うつ気分や不眠など睡眠障害の有無、気象状況など日常生活の情報と痛みのフェイススケール*を連動させて、痛みの変化を可視化することです。

記録した「いたみノート」を「痛み日誌」としてかかりつけ医などに提示し、日々の痛みの状態の共有化に活用することにより、重症化の予防および痛みのセルフコントロールに役立てることができるというわけです。

また、「いたみノート」の利用者に、自身の慢性疼痛、睡眠障害やうつの評価がそのままフィードバックされる点も大きな特徴です。

最終的には、利用者から収集された情報はビックデータ解析を行うことで、慢性疼痛の増悪因子の究明に活用されることになります。

*痛みのフェイススケールとは、患者の顔の表情によって痛みの程度を客観的に評価するスケール。「笑い顔」から「泣き顔」まで段階的に表情が変わっている顔のなかから、今の痛みに合う顔を患者に選んでもらう。

「いたみノート」アプリは
17歳以上なら利用できる

「いたみノート」のアプリケーションは、スマートフォン上のアプリ内で同意した17歳以上のユーザーであれば、誰でもGoogle Playストアから無料でダウンロードして利用することができます。慢性疼痛で悩んでいる患者さんの、また看護職の方を悩ませる腰痛にも、セルフケアに活用するといいでしょう。

慢性疼痛の原因はさまざまですが、特に帯状疱疹や外傷などで神経が傷ついたあとに痛みが続く「神経障害性疼痛」は鎮痛薬が効かないケースが多く、痛みの緩和が難しいもの。それだけに、「いたみノート」の活用をすすめてみてはいかがでしょうか。

もし、看護師さんご自身が仮に慢性腰痛などを抱えているようなら、一度ダウンロードして利用してみてはいかがでしょうか。

なお、がん患者の痛みのアセスメントについては、こちらも参照してください。

オピオイドなどによりがんの痛みが和らいでいても、急に強烈な痛みに襲われることがある。この突出痛には、予測可能なものもあれば予測不可能なもの、また定時鎮痛薬の切れ目の場合もある。そのタイプに応じて使われるレスキュー薬とアセスメントについてまとめた。

参考資料*¹:慢性疼痛診療ガイドライン