厚労省推奨の「腰に負担の少ない働き方」

腰痛を防ぐ

厚労省の腰痛予防対策指針に
腰に負担の少ない看護法

日本人の約8割が一生に一度は経験するといわれる腰痛には、職場における業務内容との間に相関関係があることがわかっています。

この点を重視した厚生労働省は1994(平成6)年、「職場における腰痛予防対策指針」をまとめ、事業主に対策の徹底を求めていました。ただ、この指針が作成された時点で「職業性の腰痛」として認識され、この指針の対象とされたのは、腰に負担のかかる重量物を取り扱う事業所などが中心でした。

ところがその後、人口の高齢化が進むのに伴い、医療や福祉領域において、ADLの低下した高齢者を「抱きかかえる」「持ち上げる」などの作業が多くなり、看護や介護スタッフに腰痛が発生する件数が日増しに増えてきました。

こうした事態を受けて厚労省は、先の指針作成から19年を経た2013(平成25)年に指針の改定を行い、腰に負担の少ない看護・介護体制や作業環境などを新たに加えています。同時にその改訂版では、スタッフ個々が、職場や家庭において腰痛予防策を日々積極的に行い、腰痛予防に努めることを推奨しています。

厚労省「腰痛予防指針」推奨の
腰への負担を軽くするケア方法

その改訂版指針では、看護・介護スタッフが個人レベルで取り組む腰痛予防策について、次のようなアドバイスをしています。

  1. 看護・介護作業の特徴は「人が人を対象に行う」ことにある。
    この点を踏まえ、ケアの対象者(患者・利用者)個々の残存機能やケアへの理解度・協力姿勢を生かしたケア方法を選択する
  2. ケアの内容に応じた補助機器や補助用具を積極的に活用する
  3. ケア時の自らの姿勢や抱え上げなどの動作について見直しを行う(ノーリフトへ)
  4. 補助機器・用具の備えがない場合の抱え上げなど、腰に負担のかかるケアは、身長差の少ない2人のスタッフで、できるだけ適切な姿勢で行う
  5. 勤務中は適宜休憩や小休止をとり、その間はストレッチを行ったり、安楽な姿勢でくつろぐようにする
  6. 看護・介護現場の環境整備を心がける(病室や廊下に車椅子やストレッチャーなどを放置しない、段差はできるだけ避け、あれば蛍光テープを貼るなどして段差の存在をわかりやすくする、など)
  7. 自らの健康管理を怠らず、腰に著しい負担を感じているような場合は、躊躇することなくその旨上司に伝え、勤務形態の見直しなどの対応を相談する
  8. 職場や家庭において日課の1つとして腰痛予防体操を行い、腰部周辺の筋肉の柔軟性確保と強化に努める

腰痛予防体操には
静的ストレッチングを

腰痛を予防するには、腰部を中心とした腹筋、背筋、臀筋などの筋肉に疲労物質を溜めないようにして、筋肉の柔軟性や関節可動域を維持していくことが大切です。そのための腰痛予防体操として、指針は、「ストレッチングを主体とする運動が望ましい」としています。

ストレッチングとは、筋肉や関節をストレッチ(stretch)、つまり「伸ばす」「広げる」「引っ張る」柔軟体操で、「動的ストレッチング」と「静的ストレッチング」に分けられます。

このうち動的ストレッチングとは、関節を動かしながら筋肉の伸縮を繰り返す、あるいは反動をつけて筋肉を大きく動かすなど、一連の動きのなかで行うストレッチのことです。

筋肉の柔軟性が高まる静的ストレッチング

一方の静的ストレッチングは、文字どおり動かずに行うストレッチングのこと。静止した状態からゆっくり筋肉を伸ばしていき、その伸び切ったままの状態を10秒間程度キープするストレッチ法です。

静的ストレッチングには、筋肉の柔軟性(関節可動域)が高まる効果が期待できます。日常生活の疲労でちぢこまった筋肉に十分な血流を送り込むことにより、筋肉疲労の回復を促すとともに、リラックス効果があるといわれ、厚労省の指針が腰痛予防として個々に推奨しているのは、この静的ストレッチングです。

静的ストレッチングを
効果的に行うポイント

先に私はインナーマッスルトレーニング(深部筋肉トーニング)に関する記事のなかで、痛みが激しい急性期や体調が思わしくないときは避けた方がいいと書きました。腰痛予防ストレッチングもまったく同じで、指針は実施上の注意点として以下をあげています。

  1. 強い痛みがある急性期は避ける
  2. 体調不良などの健康状態を考慮する
  3. 無理のない範囲で行う

そのうえで、腰痛の予防効果を高める静的ストレッチングの方法として、指針では以下のポイントがあげられています。

  1. 呼吸を止めず、ゆっくりと息を吐きながら静かに筋肉を伸ばしていく
  2. 反動やはずみをつけないで行う
    (筋肉は急激に伸ばされると、筋断裂などの傷害を防ごうと反射的に筋収縮を起こす)
  3. 伸ばそうとする筋肉を意識しながら行う
  4. 張りを感じるが痛みを感じない程度まで伸ばす
  5. 可動域の限界まで伸ばしたら、そのままの状態を2030秒間キープする
  6. 筋肉を戻すときはゆっくり伸ばしていき、血流が戻ってきていることを意識する
  7. 一度のストレッチングで1回から3回程度伸ばす

ストレッチングは特別な器具類を必要としないため、自宅や職場でも、休憩時間を利用するなどして行うことができます。その際、エクササイズマットがあればより効果的です。

腰痛健康診断問診票でセルフチェックを

なお、紹介してきた厚労省の指針添付されている参考資料には以下が紹介されています。

  1. 職場で活用できる「腰痛健康診断問診票」
  2. 介護(看護)作業者の腰痛対策チェックリスト
    介護(看護)作業において腰痛を発生させる直接的または間接的なリスクを見つけ出し、リスク低減のための優先度を決定、対策を講じることにより作業者の腰痛を予防する
  3. リスクの見積もり
    作業姿勢・重量負荷・作業頻度・作業時間・作業環境
  4. 介護・看護作業者の腰痛予防対策チェックリスト
  5. 廊下やフロアなどで行う「介護・看護作業等でのストレッチングの例

このうち特に「5」のストレッチングについては、参考資料のp.21-22(参考7)として、イラスト入りで紹介されていますから、日々の実践に参考にされたらいかがでしょうか。

なお、腰痛対策としてのインナーマッスルトレーニング法は、こちらを参照してください。

腰痛対策としての運動と言えば腹筋や背筋を鍛えることを考えがち。最近注目されているのは、脊柱を支えているインナーマッスル、いわゆる「体幹筋」のトレーニング。サッカーの長友選手らプロアスリートの間で人気と聞く。ドローインと併せて紹介する。