「高齢者糖尿病診療ガイドライン」のポイント




糖尿病

全糖尿病患者の半数が
65歳以上の高齢者

改めて言うまでもなく、糖尿病はもともと生活習慣病であり、男女ともに加齢とともに増える疾患です。

世界でも類を見ない超高齢社会のわが国では、65歳以上の高齢者の約5人に1人が糖尿病で、その数は全糖尿病患者の半数を占めると推定されています。

糖尿病は進行すると、糖尿病腎症や糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害に代表されるさまざまな合併症を引き起こすことはご承知のとおりです。

加えて高齢者糖尿病では、認知機能の低下やADLの低下を合併しやすく、治療の根管となるセルフケアを難しくさせるといった問題があります。

同時に、高齢者糖尿病は重症の低血糖を発症しやすく、そのことが認知症の発症リスクを高めたり、転倒・骨折といった事態を招きやすいことも特徴として指摘されています。

こうした点から、高齢者糖尿病の診療においては老年医学の知識も踏まえて行う必要があるとして、2017年には、高齢者の糖尿病に特化した診療ガイドラインが作成されています。

高齢者糖尿病では
食後高血糖をきたしやすい

このガイドライン『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』(南江堂)は、日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会により作成、刊行されたものです。

本ガイドラインでは、まず冒頭で、高齢者糖尿病の診療において留意すべき特徴点として、以下の7つをあげています。

  1. 糖尿病の高血糖症状が出にくい
  2. 食後の高血糖をきたしやすい
  3. 低血糖時の症状が出にくい、または症状が非典型的である
  4. 無症候性(症状が現れていない)を含めた動脈硬化性疾患が合併しやすい
  5. 腎機能や肝機能の低下が起こりやすく、薬物有害作用が起こりやすい
  6. 老年症候群(認知機能障害、サルコペニアフレイル、ADL低下、転倒、うつ、低栄養、多剤併用)を起こしやすい
  7. 社会的サポートの不足、居住環境の悪化や経済的問題をきたしやすい

このうち「2」の、高齢者では「食後の高血糖をきたしやすい」原因としては、加齢による、
①インスリンの追加分泌の低下、②インスリン分泌の遅延、③内臓脂肪蓄積、④筋肉量減少によるインスリン抵抗性の増加、⑤身体活動量の低下などが考えられる、と説明。

食後高血糖に対しては、以下の対策を立てる必要があるとしています。
⑴ 食後の運動を促して身体活動量を増やす
⑵ 食物繊維(特に水溶性食物繊維)の摂取を多くする
⑶ 糖分を含む清涼飲料水(ソフトドリンク)を避ける

通常の低血糖症状は出にくく
非典型的症状が現れる

特徴点にあげられている「3」の「低血糖症状が出にくい、または症状が非典型的である」については、高齢者の低血糖では、低血糖の兆候としてよく知られる自律神経症状(発汗、動悸、手の震えなど)が激減するとのこと。

一方で、高齢者糖尿病でよく見られる非典型的な低血糖症状として、以下の「神経糖欠乏症状(ブドウ糖欠乏による中枢神経のエネルギー不足を反映した症状)」をあげています。
⑴ 頭がくらくらする
⑵ 体がふらふらする
⑶ 動作がぎこちない
⑷ めまい
⑸ 脱力感・倦怠感
⑹ ろれつ不良(発語困難)
⑺ 目がかすむ・ぼやけて見える

加えて、認知機能障害(注意力障害、集中困難、記憶障害、情報処理能力の低下など)や精神症状(せん妄、錯乱、意欲低下など)、あるいは片麻痺などの神経症状が低血糖症状として現れることもあると説明しています。

高齢者糖尿病の患者および家族に低血糖について指導する際には、上記のような非典型的な低血糖症状についてもていねいに説明し、理解を得ておく必要があります。

認知機能の低下が
セルフコントロールに支障

高齢者糖尿病、特に80歳以上の患者では、認知機能の低下を伴うことが多く、インスリン注射や服薬、さらには食事や運動療法についても、セルフケアのアドヒアランス*が低下し、治療が困難になるケースが少なくないことを、ガイドラインは指摘しています。

*アドヒアランス(adherence)とは、「自ら納得して自分の意思で行うこと」を言う。「セルフケアのアドヒアランス」とは、患者が自分に必要とされているセルフケアの目的を正しく理解し、納得したうえで、自らの意思で医師の指示に従い治療に取り組むこと、と理解することができる。

高齢者糖尿病の場合、糖尿病でない人と比べて認知症の発症リスクが高く、認知症に至らないケースでも軽度認知機能障害を起こしやすいことが指摘されています。

認知症は言うまでもなく軽度認知機能障害では、いわゆる記憶障害だけでなく、1つの目的のもとに一連の行動を順序だてて行う「遂行機能(実行機能)」が障害されやすく、このことがセルフケアのアドヒアランスの低下に大きく影響すると説明されています。

高齢者糖尿病で起こりやすい高血糖や重症低血糖、脳卒中の合併は、認知機能障害、あるいは認知症の発症リスクを高めることがわかっています。

したがって、高齢者糖尿病では、長谷川式認知症スケールなどの認知機能障害のスクリーニング検査を行い、認知症を発症していないか、認知機能障害はどうかといったことをしっかり把握しながらかかわる必要があります。

長年続けてきた生活習慣の改善は難しい

なお、高齢者糖尿病における治療の基本も、「食事療法」に「運動療法」「薬物療法」であることに変わりありません。

このうち特に食事療法と運動療法には生活習慣そのものの改善が必要となりますが、高齢者にとって長年続けてきた生活習慣を変えるのは、言うほど簡単なことではありません。

認知機能の影響によるアドヒアランス低下により、時間をかけて指導してもなかなか改善につながらず、病状が進行するリスクが高いのですが、その辺の考え方については、日を改めて書いてみたいと思います。

なお、高齢者に限定しない「糖尿病診療ガイドライン2019」については、こちらの記事を参照してください。
→ 「糖尿病診療ガイドライン2019」の改訂ポイント

参考資料:荒木厚、井藤英樹喜「高齢者糖尿病診療ガイドライン2017」を踏まえた治療の要点と展望」日本老年医学会雑誌第55巻1号p.1-12