退院支援としての試験外泊時に訪問看護を利用

家族と

退院支援の一環として
試験外泊時に訪問看護の利用を

入院患者に退院支援を進めていくなかで、いわゆる「試験外泊」が、このところ積極的に行われていると聞きます。試験的に一度外泊して在宅での療養生活がどのようなものなのか実際に体験し、退院後の生活をより具体的にイメージしてもらおうというわけです。

医療依存度の高い患者や退院後も治療の継続が必要な患者はその代表でしょう。また、脳卒中(脳血管障害)の後遺症によりADLが低下し、生活そのものの再構築が必要となる患者は多く、このような患者にも試験外泊が勧められています。

いずれのケースも、患者は自宅への退院後、入院前とはかなり異なる環境での生活を余儀なくされることになります。

この退院後の生活を試験外泊を通して体験しておけば、「こんな生活になるとは思わなかった」などと、在宅での療養生活に疲れ、ギブアップして再入院してくることの防止にもつながることが期待できるようです。

さらに、その試験外泊の際に訪問看護を利用すると、「外泊中の急変などに瞬時に対応できるだけでなく、退院後の生活の課題をより明確にすることができ、患者も家族も自信をもって在宅療養に移行できる」と語るのは訪問看護師のNさんです。

ただ、試験外泊中の訪問看護利用にはメリットが多いものの、残念ながら退院支援プログラムに組み込まれる例は少なく、まだあまり普及しているとは言えないとのこと――。そこで今回は、その辺の話を、N訪問看護師の助けを借りながらまとめてみたいと思います。

退院後に訪問看護を受ける患者は
試験外泊時に訪問看護を利用できる

入院患者が試験外泊する際に訪問看護を利用できるのは、退院後に訪問看護が必要であると主治医が認め、「訪問看護指示書」が交付されている患者に限定されます。

この場合、患者は入院中ですから、仮にその患者がすでに介護保険の申請をして「要介護」あるいは「要支援」の認定を受けていても、介護保険サービスとしての訪問看護ではなく、医療保険サービスとしての訪問看護を利用することになります。

訪問看護の利用は1回の入院中の外泊時に原則1回限り

診療報酬で言えば、「訪問看護基本療養費Ⅲ」(2022(令和4)年4月現在で8500円)に該当します。対象患者の医療保険の自己負担分が1割負担の方は850円、2割負担なら1,700円、3割負担は2,550円となります。

この場合、訪問看護の利用が医療保険の適用になるのは、原則として1回の入院中に1泊2日以上の外泊が1回限りです。

ただ、なかには短期間の入退院を繰り返している患者もいるでしょう。この場合は、1回がごく短期間の入院であっても、入院するごとに外泊時の訪問看護を1回利用できるようになっています。

1回の入院中に2回まで訪問看護を利用できるケースも

例外もあります。末期の悪性腫瘍(がん)や重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症など、厚生労働大臣の定める疾患に該当する場合や気管カニューレ使用中などの特別管理加算の対象者は、1回の入院中に2回まで訪問看護を利用することができます。

1回の入院中に訪問看護を2回利用する場合は、患者の病状や継続して受けている医療処置によっては、1か所の訪問看護ステーションでは対応しきれないこともあるでしょう。その場合は、2か所の訪問看護ステーションから1回ずつ訪問看護を受けることもでき、いずれの場合も医療保険が適用されます。

なお、ここで言う厚生労働大臣の定める疾患や特別管理加算の対象者については、こちらを参照してください。

医療保険対応の訪問看護には「1日1回、週3日まで」の利用枠がある。患者の病気や状態によっては、この枠を超えて週4日以上、最長で28日利用できる場合がある。その際必要になる「特別訪問看護指示書」や対象となるケースについてまとめた。

外泊中の訪問看護利用と
急変、緊急時の対応

ここまで話が進んだところで、訪問看護師のNさんがふと思い出したように、「さっき急変などにも瞬時に対応できると言ったけど……」と、一瞬口ぐもりながら、こんな話を切り出しました。

「退院後に訪問看護を受けようとする患者なら、誰でも試験外泊して訪問看護を利用したらいいという話にはならないということも書き添えておいた方がいいかもしれない」

特に慎重さが求められるのは、急変が予測される患者だと……。その理由は、1回の外泊中に緊急対応が複数回求められることになると、2回目以降の訪問看護は保険適用外となるため、ボランティア(無償)で対応することになるのだそうです。

なかにはこうしたボランティア対応を行わない訪問看護ステーションがあることも知っておいた方がいい、と言うのです。

急変したら救急車を呼んで、入院中の病院に救急搬送してもらう方法もあります。しかし、「外泊したら急変して、救急車を呼ぶことになってしまった」という経験は、患者や家族に退院後の生活にマイナスの印象を与えることになり、むしろそもそもの目的からすれば逆効果になってしまう、と言います。

「外泊時に訪問看護の利用を積極的に勧めたいのはどのような患者なのかを、退院支援担当の看護師さん等と一緒に検討して、ガイドラインのようなものを作っていけたらと思っている」と、N訪問看護師は締めくくっています。

なお、退院支援の一環として、退院当日に訪問看護を利用するという話も書いていますので、読んでみてください。

医療ニーズの高い患者や人生最後の数日を自宅で過ごしたいと望む患者の退院支援に、「特別訪問看護指示書」を活用して、退院当日から訪問看護を受けるようにすると、患者の不安の軽減につながり、在宅への移行がスムーズになる。同時に、再入院の予防にもなるという話をまとめた。