入院中の「排尿自立支援」を外来で継続を

水滴

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退院後も継続して
排尿自立に向けた支援を

排尿の自立は、日常生活はもとより社会生活の自立という点で最重要課題であり、人としての尊厳を保つうえで欠かせない課題の一つです。

下部尿路機能(膀胱の蓄尿・尿道の排尿機能)の障害により排尿を自己コントロールできない患者の排尿自立に向けた支援については、2016(平成28)年度に行われた診療報酬改定において「排尿自立指導料」が新設されました。

排尿自立指導料は、尿道留置カテーテル抜去後の排尿自立に向け、看護師を含む多職種からなる排尿ケアチームにより包括的な排尿ケアが行われた場合に、週1回200点を6回(6週間)まで算定できるというもの。

当初は「排尿障害はQOLを大きく左右する問題だけに、思った以上に評価が高い」といった声が多く聞かれ、排尿自立支援に取り組む医療機関が増えることが期待されていました。しかしその一方で、この排尿自立指導料を算定できる対象が「入院患者」に限定されていることが大きなネックだとする懸念の声も上がっていました。

実際、入院中の支援によりいったんは排尿自立にこぎつけたものの、退院後にその支援が途切れたために、残尿感や尿閉、尿失禁、排出障害(尿が出せない)といった排尿トラブルに再度悩まされる患者が少なからず出てきたのです。

そこで2020年度の診療報酬改定では、「排尿自立指導料」の対象を「入院患者以外」にも拡大し、「外来排尿自立指導料」として新設されることになりました*¹。今回はその辺の話をできるだけわかりやすく書いてみたいと思います。

入院患者への排尿自立支援
6週間から12週間に延長

新設された「外来排尿自立指導料」について言及する前に、入院患者を対象とした下部尿路機能回復のための包括的な排尿ケアについても、2020年度診療報酬において一部改善された点がありますので、まずはそのあたりのことを確認しておきたいと思います。

今回(2020年度)の診療報酬改定では、入院診療における「排尿自立指導料」は、算定要件を緩和するために、「入院基本料等加算」の一つとして「排尿自立支援加算(週1回 200点)」の名称で評価されることになりました。併せて、算定期間の上限も6週間から12週間に延長されています。

この「排尿自立支援加算」は、もともと膀胱留置カテーテルの適切な管理を推進する観点から設定されたもので、その算定の対象となる患者は以下のいずれかです。

  • 尿道カテーテル抜去後に尿失禁、尿閉等の下部尿路機能障害の症状を有する患者
  • 尿道カテーテル留置中の患者で、尿道カテーテル抜去後に下部尿路機能障害を生ずると見込まれる患者

上記に該当する入院患者に多職種からなるチームによる包括的な排尿ケアを行った場合に「排尿自立支援加算」が算定されることになっています。

院内の排尿ケアチームと協働して包括的ケアを

このうち⑷の「包括的な排尿ケア」の「包括的」については、「排尿自立支援加算」算定の施設基準として挙げられている次の4要件を満たすことが求められています。

  1. 院内に、医師、看護師および理学療法士または作業療法士から構成される排尿ケアチームが設置されていること
  2. 排尿ケアチームの構成員は、外来排尿自立指導料に係る排尿ケアチームの構成員と兼任であっても差し支えない
  3. 排尿ケアチームは、排尿ケアに関するマニュアルを作成して院内に配布するとともに、(チームと協働する病院看護師等を対象に)院内研修を実施する
  4. 下部尿路機能の評価、治療および排尿ケアに関するガイドライン等を遵守すること

「外来排尿自立指導料」の新設で
退院後も引き続き排尿ケアを

さて、今回の改定で新設された外来患者に包括的な排尿ケアを実施した場合に診療報酬として評価される「外来排尿自立指導料」の算定要件は次のようになっています。

  1. 入院中に「排尿自立支援加算」を算定されていた患者が対象である
  2. 退院後の外来において、引き続き包括的排尿ケアを実施する必要があると医師が判断している
  3. その判断が診療録に記載されている
  4. その記載をもとに外来において包括的な排尿ケアを行った場合
  5. 週1回(200点)に限り、入院中の排尿自立支援加算を算定した期間と通算して計12週(12回)を限度に算定できる

この算定は、入院中と同様に「包括的な排尿ケア」であることが要件となります。したがって、外来でその患者を診察する医師または医師の指示を受けた外来看護師が患者に直接的な指導または援助を行う際には、次の3点が求められます。

  1. 入院中に策定された包括的排尿ケアの計画に基づいて行う
  2. 院内の排尿ケアチームと協働して行う
  3. 排尿ケアに関するガイドライン等を遵守して行う

排尿ケアチームの構成メンバーと
看護師に求められる研修

以上からおわかりのように、入院中はもちろん外来においても包括的な排尿ケアを行うには、院内に多職種からなる「排尿ケアチーム」が設置されていることが必須となります。この排尿ケアチームは、以下のメンバーで構成されていることが要件とされています。

  1. 下部尿路機能障害を有する患者の診察について、3年以上の経験を有する泌尿器科医師、または排尿ケアに関する適切な研修(日本慢性期医療協会や日本老年泌尿器科学会などが主催する「医師のための排尿機能回復に向けた治療とケア講座」)を修了している医師
  2. 下部尿路機能障害を有する患者の看護に従事した経験を3年以上有し、所定の研修を修了した専任の看護師
  3. 下部尿路機能障害を有する患者のリハビリテーション等の経験を有する専任の理学療法士または専任の常勤作業療法士

看護師向け「下部尿路症状の排尿ケア講習会」

排尿ケアチームの看護師に求められる「所定の研修」として厚生労働省が認定している研修には、日本看護協会認定看護師養成課程「皮膚・排泄ケア」の研修、日本慢性期医療協会「排尿機能回復のための治療とケア講座」などがあります。

最もポピュラーなものは、3学会(日本創傷・オストミー失禁管理学会、日本老年泌尿器科学会、日本排尿機能学会)共催による「下部尿路症状の排尿ケア講習会」です。

この講習会は、看護師を対象に病院、施設や在宅において適切な排尿ケアを実践する人材の育成を目的に、毎年開催されています。

研修は3日間行われ、1日目と2日目は排尿のメカニズムや下部尿路症状に関する基礎知識(残尿測定、薬物療法やカテーテル管理、骨盤底筋訓練、バイオフィードバック療法などを含む)の講義、3日目はアセスメントやケアに最低限必要な看護技術の演習が行われます。

すべての講義・演習に出席すると「修了証」が発行されますが、1時間以上の遅刻・早退があった場合には修了証は発行されないという、なかなかに厳しい講習会です。

参加資格は、「看護師で下部尿路症状のケアの臨床経験年数が丸3年以上」かつ、共催3学会「いずれかの個人会員であること」となっています。

会員ではないが講習会への参加を希望する場合は、申し込み時までに3学会のいずれかに入会手続きを済ませておく必要があります。参加費はテキスト代を含み25,000円となっています。スケジュール等の詳細は、日本創傷・オストミー・失禁管理学会のWEBサイト*²を参照してください。

排尿ケアに関するマニュアル作成の参考に

なお、排尿ケアチームを作り、排尿自立を促すサポートを継続していくための手引書としては日本創傷・オストミー・失禁管理学会を中心に、老年泌尿器科学会、日本排尿機能学会の医師、看護師らがまとめた『「排尿自立支援加算」「外来排尿自立指導料」に関する手引き』(照林社)が参考になります。

あるいは、名古屋大学排泄情報センター&名古屋大学大学院医学研究科病態外科学講座泌尿器科学が制作した「快適な排泄をサポートする 排泄ケアマニュアル」は、コチラからダウンロードすることができます。

最近は、排尿自立支援にウェアラブル端末とアプリを組み合わせたディバイス「排尿予測センサー」を活用することも可能になっています。詳しくはこちらを読んでみてください。

介護施設勤務の看護師から、「排尿予測機器」がオムツ交換やトイレ誘導に役立っている、入院患者の排尿自立支援に活用してみてはどうかと提案を受けた。超音波センサーで膀胱内の尿のたまり具合をリアルタイムでキャッチして排尿のタイミングを通知してくれるらしい。

排泄予測支援機器が介護保険適用に

なお、2022年4月からは、購入者(使用者)が介護保険の要介護認定を受けていることを条件に、排泄予測支援機器が特定福祉用具販売の対象となり、購入費の一部が支給されるようになっています。

膀胱内の状態を感知して尿量を推定し、排尿のタイミングを通知してくれる「排泄予測支援機器」が介護保険給付の対象になった。この機器を活用すれば、おむつから解放されトイレでの排尿も可能に。膀胱機能が正常であることや排尿自立への意思があること等の条件をまとめた。

参考資料*¹:厚生労働省「令和2年度診療報酬改定 個別改訂項目について」P.348

参考資料*²:日本創傷・オストミー・失禁管理学会のWEBサイト