胎児の病気や障害を知って悩む家族に支援を

妊娠中

新型出生前診断(NIPT)を
全妊婦に対象拡大

妊婦の血液だけを使って胎児の染色体異常を調べる新型出生前診断(NIPT)*について、大きな動きがありました。国や関連学会でつくる運営委員会が2月18日(2022年)、これまで高齢(35歳以上)の妊婦に限っていた検査を35歳未満の妊婦にも認めるとする新たな指針を公表したのです。

これにより本人が希望しかつ条件(胎児のダウン症などのリスクが上がる高齢の妊婦や、過去に染色体異常のある子どもを妊娠した経験のある人など)を満たしていれば全妊婦がこの検査を受けられることになります。

対象の拡大と同時に、中核となる基幹施設の下にも連携施設を設けるなどして、検査を受けられる医療機関の数も拡大するというのです。

胎児にダウン症候群など、何らかの先天性疾患や障害が見つかる割合は、25人に1人とされています。今回の対象拡大により、おなかの我が子に病気や障害の可能性を指摘され、出生前診断を受けるかどうか、さらには診断結果をどう受け止めればよいのか悩む妊婦や家族がこれまで以上に増えることが予想されます。

今回は、そのようなときの支援に是非活用していただきたいブックレットやリーフレットなどを紹介しておきたいと思います。

*新型出生前診断とは、妊娠10週以降の早い時期に妊婦の血液に含まれる胎児のDNAを分析して、ダウン症などの原因となる3種類の染色体異常を判定する遺伝学的検査。2013年に導入されて以降、日本産科婦人科学会の認定・登録施設において10万人以上がこの検査を受けたとされる。

遺伝カウンセリングを受けても
悩む妊婦や家族は多い

新型出生前診断は、採血のみで検査ができるため、流産や死産のリスクがなく、妊婦にも胎児にも安全な検査として注目されています。それだけに、十分に理解されないまま安易に広がると「命の選択」という社会的な倫理問題につながりかねないとの指摘もあります。

こうした指摘も踏まえ、日本産科婦人科学会は、遺伝カウンセリング*などの体制が整った「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を実施する施設」に認定・登録された施設でのみ実施することを認めてきました。

日本医学会の中に作られた出生前検査認証制度等運営委員会が認証している全国の医療機関は、こちらのサイト*¹で検索できる。

今回の対象拡大の方針を公表するにあたり、運営委員会も、適切な遺伝カウンセリングを通じて十分な情報提供を行い、検査を受けない選択肢も提示するなど、ていねいに対応していきたいとしています。

ただし、遺伝カウンセリングを受けても不安や悩みが解消されない妊婦や家族は多く、NPO法人「親子の未来を支える会」は、当事者が落ち着いた気持ちで正しい選択ができるよう、さまざまな活動を通じて支援を行っています

*遺伝カウンセリングには、2023年4月現在、全国に21人いる遺伝看護専門看護師の活躍が期待されます。この遺伝看護専門看護師の活動に関してはこちらを読んでみてください。
医療分野における遺伝子解析技術の進歩には目を見張る。遺伝にまつわる意思決定支援を看護師に求められるケースもこの先増えることが予想される。誕生した5人の遺伝看護専門看護師はその先陣だが、遺伝診療の特殊性は看護師なら認識しておきたい問題だ。

胎児の障害や病気を知らされた
妊婦や家族を支援する冊子

NPO法人「親子の未来を支える会」は、「-1歳(生まれる前)から親子の未来を一緒に考え、支え、行動する」をモットーとする活動の一環として、「おなかの赤ちゃんと家族のために」と題するブックレットを作成し、広く一般に配布しています。

このブックレットには、おなかの赤ちゃんに病気や障害が見つかったときに考えなくはならないいくつかのポイントがまとめられています。

「月編」と「星編」とがあって、「月編」は妊娠の継続を考えている妊婦向け、「星編」は妊娠を継続しない方向で考えている妊婦向けです。

パートナーとしての支え方についても、同じような状況を経験している、あるいは経験した父親たちの声として、相談窓口や情報収集の方法などをまとめた「FAB For Fathers 山編」も用意されています。

中絶の推奨も出産の強要もしない立場

いずれの冊子も、おなかの赤ちゃんに何らかの先天性疾患や障害が見つかったときの対応として、中絶の推奨も出産の強要もしないという中立的な立場から、専門の医療従事者や同じ経験をした当事者らの意見を取り入れて編纂されています。

また、同会は2022年1月中旬からは、おなかの赤ちゃんときょうだいになる子どもたちを支えるためのブックレットとして「花編」を、また祖父母向けに、孫の命について立ち止まって考えておきたいことをまとめた「風編」も追加作成し、公表しています。

出生前診断を受ける前の
妊婦に向けたリーフレットも

出生前診断など、妊娠初期に選択できる検査については、診断前の妊婦に向けたリーフレット「生まれる前の赤ちゃんを知るということ たね編」のなかで、「どんな検査があるのか」「赤ちゃんについて知るとはどういうことか」を紹介しています。

とかくこの時期の妊婦は、出生前診断を受けるかどうか、結果をどう受け止めればよいのかといったことで悩みがちです。

そんな妊婦らに向け同会は、検査のことだけをあれこれ考えるのではなく、新たな家族が増えることに思いを馳せることをすすめ、「あなたがどうしたいかを考えることが一番大切だ」として、ブックレットや支援サービスを積極的に利用するようアドバイスしています。

ブックレットやリーフレットの申し込みは、同会の相談窓口「胎児ホットライン」のホームページから、送料のみの負担で、個人の場合なら1人5冊まで入手できます(簡単なアンケートに答える必要がありますが……)。

支援者向けの講習会や連携も

また、同会の胎児ホットラインでは、胎児の障害や病気を知って悩む妊婦や家族らの相談や支援にあたる医療従事者や行政関係の担当者を対象に以下の事業も行っています。関心のある方はホットラインにアクセスしてみてください。

  • 講習会
  • 行政関係(子育て支援課など)の窓口支援、連携
  • ブックレットやリーフレットの販売
  • 胎児ホットライン案内ポスターカード、チラシの配布など
  • ホームページ相互リンク

なお、新出生前診断の結果から妊娠継続か否かで悩む親への支援についてはこちらの記事も読んでみてください。

通常の妊婦健診で行われる出生前診断に加え、最近は一部の妊婦対象に「新出生前診断」が行われる。その結果、胎児が病気や異常をもつ可能性があることを指摘されると、親は妊娠を継続するかどうかの決断を迫られることになる。その際の支援に役立つ冊子を紹介する。

参考資料*¹:妊娠中の検査に関する情報サイト「NIPTを実施する認証医療機関一覧」

参考資料*²:NPO法人「親子の未来を支える会」

参考資料*³:胎児ホットラインホームページ