新出生前診断の結果で悩む親を支える冊子

新生児

新出生前診断により
赤ちゃんの異常が疑われたとき

妊娠中に行われる通常の妊婦健診では、超音波検査(エコー検査)や胎児心拍数モニタリングなどにより、胎児の発育状態や異常の有無などに関する妊娠前診断が行われています。

加えて最近は、一部の妊婦に対し「新出生前診断」と呼ばれる胎児の染色体異常を調べる「母体血胎児染色体検査(non-invasive prenatal genetic testing;NIPT)」なども行われるようになり、診断の精度は一段と高まっています。

この新出生前診断の結果として、胎児にダウン症などの染色体異常のような先天性の病気や障害をもっている可能性のあることが両親に伝えられる場合があります。その割合は、高齢(35歳以上)で妊娠・出産する女性が増えるにつれ高くなっています。

新出生前診断の結果から妊娠を継続するかどうかで悩む親

医師からこのような予期せぬ結果を伝えられた両親は、「このまま妊娠を継続して、赤ちゃんを産むかどうか」といったつらい決断を迫られることになります。

あるいは「病気や障害があっても、赤ちゃんを産んで育てる」選択をしたとしても、「その子をどう育てていけばいいのか」と、不安にかられることにもなるでしょう。

産科領域に勤務している看護師さんや助産師さんは、このような場面に立ち合ったり、相談を受けたりすることが少なからずあるのだろうと思います。あるいは、当の看護職自らが、そんな親の立場になる可能性もゼロではないでしょう。

このような状況に置かれた両親に対する支援の一環として、日々の臨床で是非活用していただきたい手軽な冊子(ブックレット)を、あるNPO法人が最近完成させています。今回は、このブックレットを紹介しようと思います。

妊娠継続に係る意思決定支援に
活用したいブックレット

そのブックレットとは、新出生前診断によりおなかの中の赤ちゃんに病気や障害がある可能性が指摘された親が、妊娠の継続に係る意思決定をするうえで役立つ情報やアドバイスをまとめた「おなかの赤ちゃんと家族のために」です。作成したのは、NPO法人「親子の未来を支える会」です。

この団体は、産婦人科医や小児看護領域の看護教員、障害のある子どもの親などが中心となり、オンラインピアサポートシステム「ゆりかご」や「障害や病気にかかわる家族のライフサポート」「胎児医療サポート」などの活動を続けています。

本ブックレットは、おなかの赤ちゃんに病気や障害がある可能性が告げられた、以下2ケースの親を対象に2部構成になっています。

  1. 妊娠を継続することを考えている親に向けた「月編」
  2. 知らされて妊娠を継続しないことを考えている親に向けた「星編」

妊娠を継続するかどうか意思決定できずにいる親には、「月編」と「星編」の両方を読んでじっくり検討してもらえるように、といった製作者らの強い思いから、2冊のブックレットを1冊にまとめ、どちらから読み始めてもいいように装本上の工夫がされています。

新出生前診断で
染色体疾患のリスクを知る

本ブックレットには、ダウンロード版と印刷版が用意されています。どちらも「親子の未来を考える会」のWebサイトから無料で申し込むことができます(簡単なアンケートに回答する必要がありますが……)。

実は先日、40歳の誕生日を目前にして妊娠していることがわかったという友人から、喜び半分恐れ半分の気持ちで新出生前診断を受けたところ、担当医からダウン症候群など染色体疾患のリスクを知らされたと打ち明けられました。

そのとき彼女が「妊娠を続けて産むかどうか」について夫と話し合う際の参考資料の一つとして取り寄せたのが、このブックレットだったのです。無理を言って1日だけの約束でお借りして、読んでみました。

妊娠の継続を選択したとき

まず、妊娠の継続を考える親に向けた「月編」では、以下の2点が大切であるとしています

  1. 新妊娠前診断で可能性を指摘された赤ちゃんの病気について、よく知ること
  2. 自分たち、特に妊婦自身のこころと身体をいたわること

そのうえで、すでにきょうだいがいる場合は、その子にもわかる範囲で本当のことを伝えてあげてほしい、とも書かれています。

妊娠を継続しない選択をしたとき

一方の、妊娠の継続を断念しようと考えている親に向けた「星編」には、次の2点をアドバイスしています。

  1. まず妊婦に対し、自分を責めたり悲しくなったりするかもしれないが、そんなときは同じ経験をした家族や専門家と話をすることが支えになる
  2. パートナーに向け、気落ちしたり悲観的になっている妻に対し、無理に慰めようと言葉をかけたりするよりも、できるだけそばに寄り添っていてあげてほしい、
新出生前診断は認証を受けた医療機関で
妊婦の血液からダウン症など胎児の染色体異常を調べる「新出生前診断」では、診断結果が「中絶」という重い決断につながる可能性がある。
このことから、遺伝専門医の常勤や妊婦に遺伝カウンセリングを行うことなど、厳しいルールを決め、条件を満たす施設に限り検査を認めてきた
が最近、ルールを無視して検査だけを実施する無認可医療機関が急増し、その弊害が社会問題となっている。日本医学会の中に作られた出生前検査認証制度等運営委員会が認証している全国の医療機関は、こちらのサイト*²で検索できる。

なお、遺伝カウンセリングに関しては、遺伝看護専門看護師らの活躍が期待されるところですが、この点についてはこちらの記事を参照してみてください。

医療分野における遺伝子解析技術の進歩には目を見張る。遺伝にまつわる意思決定支援を看護師に求められるケースもこの先増えることが予想される。誕生した5人の遺伝看護専門看護師はその先陣だが、遺伝診療の特殊性は看護師なら認識しておきたい問題だ。

新出生前診断を全妊婦に

新出生前診断については、2022年2月、国や関連学会から成る運営委員会が、検査対象の年齢制限を中止して全妊婦を対象とすることを公表しています。詳しくはこちらを。

今春から採血のみでできる新型出生前診断の年齢制限がなくなり、全妊婦が受けられるようになる。対象の拡大に伴い、診断を受けるべきか否か、その結果を知って妊娠を継続するか否かで悩む妊婦や家族は増えると予想される。その支援に取り組むNPO法人の活動を紹介する。
出生前診断について考える一助にしてほしいと、ダウン症のある子どもや大人の暮らしを紹介するドキュメンタリー映像が「妊娠中の検査に関する情報サイト」で公開されている。厚生労働省が委託した事業で、医療関係者や支援者団体が、2歳、3歳、小学生、高校生、30歳、45歳、59歳のダウン症の当事者や家族を取材してまとめたもの。

参考資料*¹:親子の未来を考える会Webサイト

参考資料*²:妊娠中の検査に関する情報サイト「NIPTを実施する認証医療機関一覧」