看護師も知っておきたい「サイコオンコロジー」

コーヒータイム

がん患者と家族の心のケアを
専門に行う「サイコオンコロジー」

2年余り前のことですが、ネット検索をしていて、宮城県名取市にある宮城県立がんセンターに東北で初めてとなる「精神腫瘍科」が開設されたことを伝える新聞記事が目に留まったことがありました(河北新聞2019年10月1日配信)。

その記事では「精神腫瘍科」を、おおむねこんなふうに説明していました。

がん患者とその家族の心のケアを専門に行う診療科であり、手術や闘病などに伴う精神的な不調に特化して診察、治療に当たる、と――。

この記事を読み、がん告知を受けた患者が陥りがちな気持ちの落ち込みや不安、さらにはうつ症状のケアについて、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)がご専門の内富庸介(うちとみようすけ)医師を取材したときのことを思い出しました。

取材当時は、「サイコオンコロジー」とか「サイコオンコロジスト(精神腫瘍医)」という言葉自体、一般にはもちろんですが、医療関係者にもまだあまり知られていませんでした。

ですから私自身も、精神腫瘍医と精神科医の違いもあいまいなままの取材でした。

そんななかにあって、「がん患者の心のケアは、このまま担当医の努力と看護師さんの献身的な自助努力だけに委ねていてはいけない」という内富医師の言葉に、深く感銘を受けたことを今でもはっきり記憶しています。

がん医療における心を支える
サイコオンコロジー

あの取材から10年余りを経た現在、がん医療が急速に進歩するなかにあって、がん患者や家族の精神面の問題にも真摯に目が向けられるようになっています。

この動きに連動して、がんセンターや大学病院など、全国のがん診療連携拠点病院を中心に「精神腫瘍科」を開設する動きが進んでいます。

そこでは、精神腫瘍医や精神科医、心療内科医に加え、臨床心理士などの心理職、薬剤師、そして精神看護専門看護師やがん看護専門看護師をはじめとする看護職がタッグを組み、がんと向き合う患者や家族の精神面のサポートを行っています。

このチームにおいて、このところ注目を集めているのが、「がん」と「心」の関連性を研究する学問、精神腫瘍学の専門知識を持つ精神腫瘍医(サイコオンコロジスト)です。

サイコオンコロジーについては日本サイコオンコロジー学会が、「心」の研究を行う精神医学・心理学(psychology:サイコロジー)と「がん」の研究をする腫瘍学(oncology:オンコロジー)を組み合わせた造語である、と説明しています*¹。

この説明のもと、サイコオンコロジーの臨床・実践活動に取り組む専門家である「精神腫瘍医の役割」として、次の3点があげられています。

  1. 決して孤立しないように情緒的に支えること
  2. 治療を続ける上で患者さんを悩ます不眠や不安、気分の落ち込みに対して、精神医学的な治療を含めたサポートを用意し、最善の治療を受けられるように医学的なサポートを提供すること

(引用元:日本サイコオンコロジー学会ホームページ*¹)

日本サイコオンコロジー学会は
会員の4分の1弱が看護職です

日本サイコオンコロジー学会は、精神腫瘍医だけの学会ではありません。

がんと心の関連性について研究するサイコオンコロジーに関心をもつ医師、看護職、心理職、薬剤師、ソーシャルワーカーなど多職種から構成されています。

学会のホームページによれば、2021年9月1日現在の会員数は1774名です。

サイコオンコロジーのメッカはアメリカですが、日本サイコオンコロジー学会の会員数はアメリカサイコオンコロジー学会を抜いて、今や世界最多になっているそうです。

会員の職種別内訳を見てみると、数が最も多いのは予想どおり医師の845名で、全体の半数弱(47.6%)です。

なんと、次に多いのが看護職の399名(22.5%)で、心理職の341名(19.2%)を上回っていることには驚きます。以下薬剤師54名(3.0%)、学生27名(1.5%)と続いています。

精神腫瘍医と
7人のがん患者との対話

最近になり精神腫瘍外来を開設する医療機関が全国的に増えています。

とは言え、「勤務先には精神腫瘍外来はないし、精神腫瘍医もいないから、精神腫瘍学に基づく心のケアが実際どのようなものなのか、自分たちが日常行っているケアとどう違うのか、具体的にイメージできない」という方は少なくないでしょう。

そういった方に是非読んでいただきたい一冊の本があります。

「がん患者とその家族に、精神腫瘍科の存在を是非知ってもらいたい」という、一人のがん患者の切なる願いから誕生したという『人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話』*²です。

これまでに3500人以上のがん患者とその家族の悩みに耳を傾けてきたという精神腫瘍医の清水研(しみずけん)医師(国立がん研究センター中央病院精神腫瘍科・科長)と7人のがん患者たちの対話を、編集者が記録した一冊です。

登場するのは、以下の7人です。

  • 小児がんで21歳で逝った大学生
  • 乳房全摘出を決意したモデル
  • 司法試験の前日にがんを発症・転移した青年
  • 二人の子どもをもつ若いお母さん
  • 何不自由ない暮らしを送ってきた(はず)の主婦
  • ひとりで喫茶店を経営してきた活発なママ
  • 全力で仕事をし、家族のヒーローとして頑張っているお父さん

「がんを体験した人が100人いれば、100通りの悩みがありますから、第一に心がけるべきは、その人がどのような悩みを抱えているのか、十分に理解することです」

そんなふうに語っておられる清水医師が対話を重ねていく様子から、たくさんのヒントを見出すことができると同時に、精神腫瘍科という診療科で繰り広げられる心のサポート風景をくっきりとイメージしていただけるはずです。

最寄りの精神腫瘍医の所在を知りたいときは

なお、たとえば勤務先に精神腫瘍科はないが、がん患者と家族、遺族も含めて心のケアを試みているものの思うほどの変化が見られずに行き詰っていて、精神腫瘍医のようなプロにアドバイスしてもらいたいと考えることもあるでしょう。

そんなときは、日本サイコオンコロジー学会の登録精神腫瘍医リスト*³から最寄りの精神腫瘍医をチェックすることができます。

あるいは最寄りの「がん相談支援センター」に相談するのもいいでしょう。外部の医療スタッフからの相談にも快く対応してくれる精神腫瘍医を紹介してもらえるはずです。

がん患者のケアで迷い、専門看護師などに相談(看護コンサルテーション)したいと思っても、勤務先には相談できる人がいないことは少なくない。その際には最寄りの「がん相談支援センター」を利用してみてはどうだろうか。ということでがん相談支援センターについてまとめた。

引用・参考資料*¹:日本サイコオンコロジー学会ホームページ

参考資料*²:稲垣麻由美著『人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話』(KADOKAWA)