退院支援で問われた「家族による医療的な行為はなぜOKなのですか」




自己注射

在宅での医療的行為には
家族の理解と協力が欠かせない

退院支援のキャリア5年と言えば、文句なくベテランの域と言っていいでしょう。
そんなY看護師でも、時には患者や家族からの思わぬ質問に、どう答えたらいいものか言葉に詰まることがあるようです。

その一つが、最近直面した患者家族からのこんな質問だったそうです。
「医療的な行為を私たちのような素人がやるのは違法だと承知していますが、家族の場合はなぜ違法ではなく、許されるのですか」

在宅療養に移行する患者のなかには、入院中に受けていた喀痰の吸引や創傷処置、経管栄養、在宅酸素療法、あるいはインシュリン注射といった医療的処置を、退院後も継続して行う必要があると医師が判断するケースが少なくありません。

その際に、在宅で行われる医療的行為には、当然ながら在宅診療医や訪問看護師などのスタッフが中心になってかかわっていくことになります。
と同時に、そこには家族の理解と協力が欠かせません。

そこで退院支援看護師さんとしては、病棟の看護師さんなどと連携し、家族に対して退院後の在宅での処置の手助けに理解を求め、その方法を指導していくことになるのですが……。
冒頭で紹介した家族からの質問は、そんなときに出てきたのだそうです。

医師法第17条において
医療行為は医師の独占業務と規定

結論から言えば、患者家族からの「違法ではないのか」との懸念にY看護師は、決められている厳しい条件を満たせば、患者への医療的行為を家族が代行、あるいは手助けすることは法的に認められていること、今回はその条件をすべてクリアしており、違法性を問われる心配はないことを伝え、理解を求めたそうです。

家族が懸念するように、医療的行為(法律用語で言えば「医行為」)は、医師法第17条により「医師でなければ、医業をなしてはならない」と規定されています。

■「医業」とは
ここで言う「医業」については、厚生労働省医政局長通知(2005年7月26日発)のなかで、次のように説明されています。
「医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼす恐れのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うこと」

したがって、医師の業務独占とされている医行為に該当する処置などの医療的行為を、看護職など一定の範囲で医師の業務独占を解除された有資格者が行う場合を除き、医師以外の者が行うことは原則として認められません。

ですから退院後に向けたセルフマネジメント支援の一環として、医療的処置への手助けや協力を求められた家族が、「私たちがするのは違法ではないか」と、手助けすることを躊躇するのは、ある意味当然の反応と言っていいでしょう。

家族が行う医療的行為が
違法性がないとされる条件

一方で、高齢者の増加などにより医療機関以外の場所で療養生活を送る人が増え、在宅等における医療的処置のニーズは急速に高まっています。

こうした現状を背景に、現在の医師法の解釈では、「患者と特別な関係にある家族」が、以下の5つの条件すべてを満たしたうえで行う医療的行為については違法性がないとして、高まるニーズに応えるようになっています。

  1. 目的が正当であること(患者の治療のために行うものであること)
  2. 手段が正当であること(医師の判断のもとに、十分な患者教育および家族教育を行ったうえで、適切な指導および管理のもとに行われるものであること)
  3. 法益侵害(処置のための通院負担や処置をしないことによるリスクなど患者にとっての不利益)よりも得られる利益のほうが大きいと判断されること
  4. 侵襲性が比較的低い行為であることや、行為を行う者が患者にとって家族という特別な関係にあるものに限られていることなど、法益侵害が相対的に軽微であること
  5. 必要性・緊急性が認められること(患者が当該の医療的行為を必要とする状態にあると医師が判断していること、患者がその医療的行為を受けるために医療機関に通院する負担をを軽減する必要があると認められること)

以上の条件は、糖尿病患者のインシュリン自己注射を家族が行う場合に違法性がないとされる条件として、中医協(中央社会保険医療協議会)が2005年3月30日に出した通知『医事法制における自己注射に係る取り扱いについて』*で列記されているものです。

しかし現時点では、在宅療養中の患者に対して家族が行うインシュリン自己注射以外の医療的行為についても、上記5条件のすべてが完璧に満たされていれば違法性がないと認められると、解釈されているようです。

■法的課題はクリアしていることをまず伝える
退院後も医療的処置が必要な患者の退院支援においては、患者や家族からの、医療的行為を行うことへの疑問や不安、あるいは懸念の声のあるなしにかかわらず、法的な課題はクリアした状態で医療処置への協力をお願いしていることを、まずは伝える必要がありそうです。

この点についてはY看護師も、今回あらためてその大切さを認識したと言います。
患者や家族に安心、かつ納得して在宅療養に移行してもらうためにも、事前の説明を心がけていきたいと思っている――。
退院支援看護師のYさんは、そんなふうに話してくれました。

*『医事法制における自己注射に係る取り扱いについて』
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/03/dl/s0330-7b.pdf

国が進める入院の短縮化に向け、入院早々に退院支援が必要な患者を抽出しようと、患者や家族にその意向を伝える役割が看護師に求められる。これに患者サイドは、「追い出される」と感じることも。その誤解を解くために何をすべきかをまとめた。