NST専門療法士として活躍する看護師のSさん




食べる

栄養療法の知識を深めたいと
NST専門療法士資格を取得

臨床にいると、「食べたいのに、むせてしまって食べられない」「口に入れても飲み込むことができない」といった患者が少なくありません。
あるいは、食べることはできるのに、腸管機能が低下していて食べたものを排泄できず、存分に食べられないという患者もいます。

このような状態が続いて日々痩せていく患者、あるいは医師から禁食の指示が出て経腸栄養や静脈栄養に切り替えられる患者を目の前にしていると、「おいしくご飯を食べることは簡単なことではない」ことや、栄養を摂ることの大切さを実感させられる――。
といった話をしてくれたのは、5年ほど前のS看護師でした。

その後S看護師は、栄養療法に関する知識をもっと深めて患者ケアに活かしたいと、栄養サポートチーム専門療法士、通称「NST*専門療法士」の資格を取得。
現在は、大学病院でNSTの一員として活動しています。
*Nutrition Support Team

入院患者に高齢者が増加するのに伴い、サルコペニアやフレイルといった低栄養状態がもたらす弊害を防ぐ観点から、栄養療法について詳しく学びたいと、NST専門療法士を目指す看護師さんが増えていると聞きます。

そこで今回は、NST療法士の資格取得に向けた準備から、取得後の活動などについて、S看護師に体験談を語っていただきましたので、そのポイントを紹介しようと思います。

高齢患者に多い骨格筋力の低下による身体機能の低下、いわゆる「サルコペニア」の危険因子に活動不足や栄養不良がある。入院中の患者のサルコペニアは、医師の「とりあえず安静・禁食」という指示に看護師がその妥当性を見直すことから始まるという……。

NST専門療法士の知識は
すべての看護の基本としてプラスに

NST専門療法士という資格については、
「栄養療法には興味があるが、勤務先にはNST、つまり栄養サポートチームがないから、資格を取っても役に立たないのではないだろうか……」
と、聞いてくる看護師さんが少なからずいるそうです。

「それは大きな誤解です。まずはそうした誤解を解きたい」とS看護師。
たとえばがん患者が低栄養の状態に陥ると、いかに徹底した化学療法を行っても、治療以前に抗がん剤などの副作用に体力的に負けてしまい、治療を中断せざるを得ないような状態になってしまいます。

あるいは脳卒中などの急性期を乗り越えてリハビリ期に進んだ患者の場合も、栄養状態が低下していれば、体力的にも気力的にもリハビリテーションを続けることが難しくなり、QOLがいっこうに改善しないといったことにもなりかねません。

「基礎疾患に関係なく、栄養療法はすべての医療の基本ですから、看護の基本でもあります。それと、食べるということは病の有る無しに関係なく、人間にとって一番の楽しみでもありますから、NST専門療法士としての専門知識は、どんな場所で働いていても大きなプラスになることを知っていただきたい」
S看護師は、そう語ります。

NST専門療法士の
資格取得に必要な条件は

NST専門療法士の資格を取るためには、以下5つの条件すべてを満たす必要があります(「日本静脈経腸栄養学会 栄養サポートチーム専門療法士認定規定」*による)。

  1. 看護師など認定の対象となる国家資格を持っていること
  2. 看護師として5年以上、医療・福祉施設に勤務し、その勤務先で栄養サポートに関する実務経験があること
  3. 日本静脈経腸栄養学会主催の教育セミナーや学会、研究会などに参加して、既定数以上の単位を取得していること
  4. NSTが稼働している総合病院などにおいて規定時間の実地修練を行っていること
  5. 認定のための試験に合格していること

■患者の栄養状態改善に役立ちたいと覚悟を決める
日常業務を続けながら決められたセミナーに参加するなどしてこれらの条件すべてを満たすことは、いうほど容易ではなかったでしょう。
この問いに彼女は、こんなふうに答えています。

「大変でしたが、多くの看護師さんがすでにこの資格を取得して、患者さんの栄養状態の改善に大きく貢献しているという話を見聞きし、自分もそんな活動をしたいと覚悟を決めて学んだことが今に生きていると思っています」

■疑問はそのままにしない働き方の積み重ねを
認定試験については、看護に関する問題は、資格取得条件にある「看護師として5年以上の経験」があれば、なんなく答えられるレベルのものとのこと。

ただし、栄養や薬剤など他の専門分野に関する問題も少なからずあるので、やはりそれなりの事前準備がが欠かせない、と言います。

「事前のセミナーなども役立ちますが、私の場合は、日常の仕事において栄養士や薬剤師と連携して仕事をしていて疑問に思うことがあれば、わかったふりをせずに、すぐにその場で質問して教えてもらい、後でテキストなどを読んで再確認するという働き方をしてきたことがよかったと思っています。それと過去問題集もありますからね。活用するのもいいのではないかしら」

■栄養療法も患者が選ぶ時代に
今や医療の現場では、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)に代表されるように、受けたい医療やケア、受けたくない医療やケアについて患者が自己決定するようになっています。

この流れのなかで、食べることや栄養補給についても、患者に選択肢を提示し、選択してもらうという場面が、この先ますます増えてくるでしょう。
こうしたなかでNST専門療法士として栄養療法に精通した看護師さんがいるということは、患者にとってこの上なく心強いことではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

*「日本静脈経腸栄養学会 栄養サポートチーム専門療法士認定規定」は、日本静脈経腸栄養学会のサイトからダウンロードできます。
https://www.jspen.or.jp/qualification/nst/protocol/

なお、日本静脈経腸栄養学会はNST専門療法士の上部資格として、専門領域別の専門療法士を認定する「臨床栄養代謝専門療法士制度」を新たにスタートさせました。
詳しくはこちらの記事を参照してみてください。

栄養療法のスペシャリストであるNST専門療法士にワンランク上の資格が誕生した。領域別に専門療法士を誕生させて専門性を高め、NST専門療法士全体のレベルアップを狙う制度だ。当面は9領域で、まずはがん領域からスタート。この新制度のアウトラインを紹介する。