かかりつけ薬剤師と訪問看護師、どう連携?

薬剤師と看護師

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スタートした
「かかりつけ薬剤師・薬局」制度

厚生労働省や日本医師会が、「かかりつけ医」を持つことを広く国民にすすめていることはご存知と思います。これに加えて2016年4月からは、診療報酬の改定により、「かかりつけ薬剤師・薬局」制度が新たにスタートしています。

在宅医療において薬剤師と連携する機会の多い訪問看護師さんや退院支援を担当している病院勤務の看護師さんは、担当する患者のかかりつけ薬剤師とすでに何度か連携しておられるのではないでしょうか。あるいは、訪問看護師さんは、訪問先の患者宅でたまたま一緒になったというケースもあるかもしれません。

今回はこの「かかりつけ薬剤師・薬局」制度について、訪問看護の観点から少々気になっていることをまとめてみたいと思います。

かかりつけ薬剤師による
重複投薬のリスク低減を期待

「患者本位の医薬分業を実現する」ことを目標に掲げたこの新制度ですが、「かかりつけ薬剤師」については、厚生労働省が201510月にまとめた「患者のための薬局ビジョン」*¹を見ると、おおむねこんなふうに定義されています。

「薬局において単に服薬情報を管理しているだけではなく、患者の過去の副作用情報の把握や在宅での服薬指導等、日頃から患者と継続的にかかわることで信頼関係を構築し、薬に関していつでも相談できる薬剤師」

要するに、患者が服用あるいは使用するすべての薬剤について、現在までの服用履歴と併せてより具体的に把握し、患者にとってより安全かつ効果的な薬物治療ができるように支援する薬剤師、ということになるでしょうか。

この場合、中心として取り扱うのは医師の処方による、いわゆる処方薬ですが、患者が利用している、あるいは利用を検討している市販薬や各種サプリメント、健康食品なども相談や指導の対象となります。薬剤師によるこれらの活動により、患者には以下のメリットが期待できるようです。

  1. 複数の診療科を受診した場合でも、多剤・重複投薬のリスクを避けることができる
  2. 相互作用などを防ぐことができる
  3. 薬物治療を受けている間はいつでも薬の効果や副作用について継続的に確認し、必要な支援を受けることができる

かかりつけ薬剤師も24時間対応し
要請があれば訪問指導も

かかりつけ薬剤師は、医師あるいは歯科医師の指示があれば、患者や家族の同意を得たうえで、在宅で療養生活を送る患者を自宅に訪問し、医師が処方した医薬品について「在宅訪問管理指導」を行うことができるようになっています。その具体的な活動としては、以下の6点があるようです。

  1.   医師の処方箋に基づいて調剤する
  2.   調剤後の処方薬を必要に応じて患者宅に持参する
  3.   患者に、持参した処方薬の服用・使用方法の説明、主作用・副作用情報の提供を行う
  4.    服薬状況のチェックと残薬(飲み残し薬)を把握して医師にその情報を提供する
  5.    薬剤使用履歴を管理する(「お薬手帳」の活用)
  6.   併用薬がある場合は、相互作用のチェックを行う

上記活動に加え、2020年度診療報酬改定では、薬局業務の「対物」、つまり処方箋を受け取って薬を出す人から「対人」、すなわち薬に関することならなんでも、いつでも相談できる人へとの転換策として、投管投薬支援(簡易懸濁法)と喘息患者等への吸入薬指導が新たに評価されています。

このようなかかりつけ薬剤師の活動は、これまでの薬局薬剤師のように「日中だけ」に限られたものではありません。

定義であげられている「患者との信頼関係の構築」に向け、患者の必要に応じて「いつでも相談できる」体制を整えておくことを重視し、「24時間対応すること」と「必要があれば在宅に出向くこと」をモットーに、在宅医療の中心的な担い手になることを目指しているようです。

なお、患者が自分に専任のかかりつけ薬剤師をもつには、その薬剤師との間で「同意書」を交わす必要があります。この詳細については、こちらを参照してください。

高齢になりかかる診療科が増えると飲む薬の種類も多くなり、飲み忘れや薬の取り違えといったトラブルが起きがちだ。同時に、複数の薬の飲み合わせリスクの問題もある。こうした問題は、かかりつけ薬局・薬剤師に服薬管理を託すことでクリアできるという話をまとめた。

かかりつけ薬剤師との連携による
訪問看護師のメリットは?

すでにご承知のように、かかりつけ薬剤師に期待されている役割、とりわけ「在宅訪問管理業務」としてうたわれている活動は、いずれも目新しいものではありません。訪問看護師のみなさんが自らの役割と認識して取り組んでこられたことと、かなり重なる部分があるように思いますがいかがでしょう。

薬物治療を継続している在宅療養者、なかでも患者と家族がともに高齢というような場合では、薬の飲み間違いや飲み忘れなどにより、もともとの疾患ばかりか全身状態も悪化するといったケースが少数ながらあったのではないでしょうか。

そういったリスクを念頭に、在宅で患者・家族に管理を一任している薬の服用や使用について、訪問看護師さんはかなり神経を使い、多くの時間をその適正化に費やしておられることを取材先などで伺ったことがあります。

かかりつけ薬剤師との連携が進み、これらの仕事を協働できるようになれば、訪問看護師さんは本来の役割である日常生活の支援という部分にもっと多くの時間を注ぐことができるようになるのでないかと、いくばくかの期待がわいてきました。

なお、かかりつけ薬剤師・薬局の対人業務としての新しい取り組みと退院支援看護師との連携・協働に関するこちらも読んでみてください。

かかりつけ薬剤師・薬局が業務内容を、対物中心から地域住民により深く関わる対人業務へと転換し、喘息やCOPD患者への吸入療法指導、在宅患者への簡易懸濁法の直接指導等に、新たに取り組む方針を打ち出している。いずれも退院支援看護師との連携・協働が必須だが……。

かかりつけ薬剤師には
誰でもなれるわけではない

ところで、薬剤師は希望すれば誰でもかかりつけ薬剤師として地域で活動することができるというわけではないようです。かかりつけ薬剤師になるには、以下の条件を満たす必要があり、ハードルはなかなか高いと言っていいでしょう。

  1. 薬剤師として、薬局での勤務経験が3年以上あり、なおかつ1か所の薬局に週32時間以上勤務し、その薬局に12か月以上在籍していること(2018年の診療報酬改定により、これまでの半年から1年、つまり12か月に変更になっている)
  2. 所定の研修を修めた認定薬剤師(がん薬物療法認定薬剤師など、現在22ある団体がそれぞれ認定を与えているワンランク上の薬剤師)の有資格者であること
  3. 地域の医療事情に精通するために、地域の公的な健康活動などに参加していること

厚労省は、2025年までにすべての薬局を「かかりつけ薬局」に再編する予定ですが、そこには最低人のかかりつけ薬剤師を置くことが必要となります。ところが、先に紹介したかかりつけ薬剤師に必要な条件を満たしている薬剤師はまだ少なく、全体の半数ほど*だといわれています。

*厚生労働省によれば、2020(令和2)年の時点で調剤薬局は全国に6.1万軒とコンビニエンスストアより多いが、かかりつけ薬剤師が在籍しているのはその約4割にとどまっている。

ですから、すべての訪問看護師さんがかかりつけ薬剤師と連携して仕事ができるようになるにはまだまだ時間がかかりそうです。そのときまでに看護サイドとしても連携のあり方を再検討しておくことが大切なように思いますがいかがでしょうか。

なお、「かかりつけ薬剤師・薬局」制度による在宅服薬管理について具体的に知りたい方は、『在宅訪問・かかりつけ薬剤師のための 服薬管理 はじめの一歩 コツとわざ』(じほう)が参考になります。

かかりつけ薬剤師向けにまとめられていますが、訪問看護師さんが彼らとの連携のあり方を検討される上で大変役立つ内容となっています。

リフィル処方箋の導入でいっそうの連携強化を

なお、2022(令和4)年度診療報酬改定により新たに導入された「リフィル処方箋」は、医師と薬局薬剤師との連携の下にスタートした制度で、訪問看護師さんは、担当する患者のかかりつけ薬局・薬剤師といっそうの連携強化が求められます。詳しくはこちらを。

令和4年度診療報酬改定により4月から「リフィル処方箋」が導入されている。慢性疾患の病状が安定していて、服薬を自己管理できると医師が判断する患者を対象に、一定期間に限り3回まで反復利用できるリフィル処方箋が使われる。対象外の医薬品など、その仕組みのポイントを。

参考資料*¹:患者のための薬局ビジョン