看護に期待される「がん患者の外見ケア」に指針




がん治療中の外食

治療と仕事の両立を妨げる
「外見上の変化」

がん医療の急速な進歩により、治癒の目安とされる5年生存率は、今や全がんの平均で60%を超えるまでに改善してきています(最新がん統計)

生存率の改善に加えて、通院治療の環境改善が進んでいることも奏功し、通院して治療を受けながら仕事に就くがん患者、いわゆるがんサバイバーも日増しに多くなっています。
その数は、厚生労働省の直近の試算では、全国で32.5万人にのぼるとされています。

今や、国民の2人に1人が生涯に一度はがんを経験する時代です。
その数の多さを思えば、32.5万人という数は決して多くはないでしょう。

この数、つまり治療と仕事とを両立させて社会に出ていくがんサバイバーを、この先もっともっと増やしていくためには、乗り越えなければならないいくつかの課題があります。
このことは、看護師さん、とりわけがん看護に携わっておられる方はよくご承知でしょう。

その課題をクリアしていくうえで、とりわけがん看護の一環としての取り組みにことさら大きな期待が寄せられているのが、がんサバイバーのQOLを大きく左右する「アピアランス(外見)」、すなわち外見上のケアではないでしょうか。

具体的には、がん治療による頭髪の脱毛、皮膚や爪の障害、形態の変化など、患者さんの外見上の変化に対するケアということになろうかと思います。

「美容上の支援」を超える
看護ケアをがん患者に

このケアについて、国立がん研究センターの研究班は2016年7月27日、科学的なエビデンス評価に基づいた医療者向けの指針として、『がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版(金原出版)をまとめ、出版しています。

がん看護領域で外見変化に対する支援というと、治療中の肌トラブルに代表されるような美容上の支援を考えがちでしょう。
しかし、この手引きで取り上げているのは、それだけではありません。

「がんサバイバーシップ」という概念があるように、がんサバイバーががん治療を継続しながら自分らしく生活していくためには、家族や医療関係者との関係にとどまることなく、積極的に社会に出ていき、友人、知人、地域コミュニティ、職場の同僚などとの関係へと、人間関係を広げていく必要があります。

その、がん患者ががんサバイバーとして生きる意識をもって社会とつながっていくうえで、アピアランスケアは大きな意味をもちます。

たとえば治療中の脱毛を気にして外出を避けるようながん患者に、医療用ウイッグを取り扱っている会社に関する情報を提供してみてはいかがでしょうか。

あるいは、最近は脱毛といった副作用に悩む抗がん剤による治療中の方に向けてに、特別にデザインされたおしゃれな医療用帽子も手に入るようになっています。
気分転換の意味も込めて勧めてみるのもいいのではないでしょうか。

がん治療中は何かと気持ちもふさぎがちです。
患者自ら情報を取り寄せるだけの気力に乏しいでしょうから、より具体的なかたちで情報提供を行うことはアピアランスケアのみならず、がんサバイバーの情報リテラシーを高める意味で、がん看護に携わる看護師さんに期待される役割の1つと思うのですが……。

がんになってもその人らしさを失わずに治療を受けつつ日々の生活を続けていくうえで、大きな力となるのはがんサバイバー自身の「情報リテラシー」だと言われている。意思決定などの場面において、その情報リテラシーを高める支援が看護師に求められている。

この手引きの実践編とも言える医療者用のテキスト『臨床で活かす がん患者のアピアランスケア』(南山堂)も、国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センターのセンター長、野澤桂子氏らの編集により刊行されています。

本書では、外見に影響する抗がん薬の一覧や他の領域の専門家と連携する際の注意点、さらには具体的なケアスキルも、事例を通して紹介されていますから、実際のケアに大変参考になると思います。

エビデンスに基づく推奨強度で
ケア基準を提示

ところで、今回出版された手引きでは、治療に伴って起きてくる外見上の変化に関して、患者からよく質問される50項目を、以下の2部に大別しています。
治 療 編:化学療法・分子標的治療・放射線治療の副作用を治療する方法
日常整容編:日常的な外見ケアの方法

その分類のもとに、個々の質問について、現時点得られるエビデンスレベルに基づき、「科学的根拠があり、勧められる」などのかたちで、推奨の強さを表記するという、いわゆる診療ガイドラインの作成手法に則って作成されています。

たとえば「治療編」の化学療法の項にある
「脱毛の予防や重症度の軽減に頭皮冷却は有用か」の質問には、
「日本人対象の明解な科学的根拠はないが、勧められる」と記されています。

また、「日常整容編」にある
「化学療法による皮膚乾燥に対して、安全な日常的スキンケア方法は何か」に対しては、
「スクラブ(細かい粒子)入り洗浄剤は皮膚への刺激になりうるので勧められない」
「ぬるま湯などでぬらした後、軽く泡立てた洗浄剤で洗うのは勧められる」と、
具体的な対処方法を提言しています。

現場で日常的に寄せられる
質問への対応に活用を

私事ですが、乳がんで通院して化学療法を受けながら会社の重役の秘書という重責を担う仕事に復帰した友人がいます。

彼女から先日、「大切な方をおもてなしする機会が多いので、病気を悟られないように気を配っているが、薬の影響で肌がくすみがちなのが気になっている。何かいい方法はないかしら」と相談を受けました。

これに私は、「医療関係者向けに書かれているけれど」と断りを入れたうえで、この手引き書とその実践編ともいえるテキストがあること、患者向けには『がん治療中の女性のためのLIFE&Beauty』(主婦の友社)も出版されていることを紹介しました。

後日彼女から、患者向けの上記の本からヒントを得てメイクを変えてみたところ
「病気になる前と同じような肌色を取り戻せて、気持ちも明るくなった」
と嬉しい返事が届きました。

アピアランスケアに取り組む企業も

最近は、がん治療による外見上の変化などで悩みを抱える人を対象に、アピアランスケアサービスに取り組む企業も出てきています。
積極的にケアに活用してはいかがでしょうか。

たとえば、医療用ウイッグでお馴染みのアデランスとファンケルは、2019年10月から共同で、病院に出張してウイッグの使い方やメーク方法を伝えるセミナーを不定期で開催しています*¹。

また、2006年という早い時期から専門のセンターを立ち上げて外見ケア対応を強化している資生堂は、今年(2020年)2月、インターネット上でやけどや手術による傷痕、治療の副作用による脱毛といった悩みを抱える人向けに「お悩み別メイクナビ」*²を開設し、外見上の変化で外出できないといった人をサポートしています。

男性がん患者にもアピアランスケアを

がん治療による外見の変化を気にして悩んでいるのは女性患者だけではありません。
男性患者も、あの表には出さないもののあれこれ悩んでいるようです。

しかし、そんな男性に向けたアピアランスケア情報はほとんどありませんでした。
そこで、国立がん研究センター中央病院のアピアランス支援センターは男性向けのガイドブックをまとめ、公表しています。詳細はこちらの記事で。

がん治療による脱毛や肌への色素沈着など、アピアランス(外見)の変化に悩むのは女性だけではない。男性も黙って悩んでいるのだが、仕事に影響する例も多い。そんな悩みの解決に役立つようにと「NO HOW TO」と題するガイドブックが公開された。その紹介を。

なお、先ほど触れた「がんサバイバーシップ」の概念については、がん看護専門看護師の近藤まゆみ氏による近著、『臨床・がんサバイバーシップ―“生きぬく力”を高めるかかわり  』(仲村書林)が参考になります。一読をお勧めします。

参考資料*¹:アデランスとファンケルがアピアランスケアのコラボレーションセミナー
https://pdf.irpocket.com/C8170/Rbrh/yq55/Xiyl.pdf
参考資料*²:資生堂「お悩み別メイクナビ」
https://corp.shiseido.com/slqm/jp/makenavi/