男性がん患者にもアピアランスケアを 初めてのガイドブック「NO HOW TO」




ビジネスマン

男性のがん患者も
外見の変化に悩んでいる

がんそのものや治療による「アピアランス」、つまり「外見」の変化を気にして悩んでいるのは女性のがん患者だけではありません。

男性の場合、女性ほどには表立って口に出さないものの、がん治療に伴う頭髪の脱毛や肌色の変化、爪の変形、さらには手術跡といった外見上の変化を大変気にしています。

見た目はその人のQOLを大きく左右しますから、外見が以前と変わってしまったことを気に病んで、
「外出する機会がこのところすっかり減ってしまった」
「人と会うのが億劫で、社内の同僚とのつきあいも断ることが多くなった」
といった男性がん患者の悩みをこれまで幾度となく耳にしてきました。

そんなときは、「女性患者向けだけど、少しは参考になるのでは……」と断ったうえで、
がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版』(金原出版)
を紹介してきたのですが――。
やっと自信をもって彼らにすすめることのできる電子ブックが刊行されました。

そこで今回はこの、男性のがん患者向けに作成された外見ケアのガイドブック「NO HOW TO(ノーハウツー)」を取り上げてみたいと思います。

アピアランス(外見)ケアは
外見の変化による苦痛を緩和

このガイドブックをまとめたのは、国立がん研究センター 中央病院の1階にある「アピアランス支援センター」のケアチームです。

当支援センターでは、アピアランスケアを、
「医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、外見の変化を補完し、外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア」と定義しています*¹。

がんそのものやがん治療により外見が変わるようなことがあっても、患者自身が気にならなければそのまま従来どおり生活していけばいいわけです。
実際、そういう患者も少なからずいるようです。

しかし、「がんやがん治療による外見上の変化がつらい」とか、
「他人の目が気になって家に閉じこもりがち」など、
日常生活に支障をきたしている男性のがん患者は多く、当アピアランス支援センターは、そうした患者たちの相談に応じて悩みの解決を図る活動を続けています。

当センターのアピアランスケアチームには、医師や看護師、薬剤師、臨床心理士といった医療スタッフに加え、当然ながら美容領域の専門家も参加しています。

それぞれが自らの専門性を発揮し、相互に連携し合いながら、がん患者が治療中も安心して社会生活を送ることができるようにサポートしているそうです。

男性がん患者個々の
「今までのように」を大切に

がん患者のアピアランスケアに関しては、女性に向けた情報はすでに数多く発信されています。
看護師さん等医療関係者向けにも、また患者向けにも何種類かの書籍も刊行されています。

しかし男性患者向けとなると、情報自体が非常に少ないことから、
「がん治療中の男性が自分らしい外見で生きることを支援したい」
と、今回のガイドブック作成となったようです。

本ガイドブックの特徴は、
「NO HOW TO(ノーハウツー)」というタイトルに如実に現れています。
「単なるハウツー本ではありませんよ」とでも解釈したらいいのでしょうか。

ガイドブックのなかに、このタイトル「NO HOW TO」の意図するところを的確かつ具体的に伝えるこんなフレーズがあります。

今までどおり、自分らしく生活していくためには、どうすればいいのか……。
外見だけではなく、人とのかかわり方まで考え、カタチにしていく……。
アピアランスケアには、明確な答えはありません。
答えは、その人の中にあります。
それぞれの人にとっての「今までのように」を、大切にしていきます。

(引用元:「NO HOW TO」*²p.63より)

アピアランスは男性の
仕事における評価に影響?!

アピアランスケアは「見た目」だけの問題ではないとするこの考え方は、ガイドブックで紹介されている男性がん経験者、いわゆるがんサバイバーが、インタビューで語っているリアルな体験談からも裏づけられます。

たとえば、本ガイドブックの13ページに、男性がん患者823名を対象に、
「外見が男性の仕事における評価に影響を与えると思いますか?」
と尋ねたアンケート結果が紹介されています。

年齢にもよるでしょうが、この問いかけに肯定的な答えをするのは、さほど多くはないのではないかと、私自身は正直思ったのですが、なんと半数以上、ほぼ60%が肯定派だったという結果が紹介されています。

その内訳は、まず肯定派では多い順に「どちらかと言えばそう思う(40.1%)」「かなりそう思う(19.4%)」、否定派は「どちらかと言えばそう思わない(19.1%)」「全くそう思わない(10.2%)」で、無回答が11.2%となっています。

このアンケート結果を短絡的にとらえると、がん治療による外見の変化そのもの、たとえば頭髪の脱毛や肌色のくすみ、あるいは形態上の変化などが、そのまま仕事にマイナスの影響を与えてしまうと考えがちです。

アピアランスケアでも
「その人らしさ」の尊重を

しかし、本ガイドブックで写真とともに紹介されている多くの男性患者たちの生の声を読み進めていくと、もちろん外見上の変化そのものによるマイナスの影響もあるにはあるのですが、どうもそれだけではないらしいことがわかってきます。

外見が変化したことで自信を失うとか、持ち前の自分らしさを出せなくなってしまうとか、自分と周囲との関係性が変化するのではないかといった不安……。

こうしたことが仕事に向き合う姿勢を変えてしまい、結果として同僚や上司からの評価にもマイナスに働いてしまうのではないかといった懸念がぬぐい切れない――。
そんなつらさがあるようなのです。

このようなつらさは、ただひとつのHOW TOだけで乗り越えられるものではありません。
その人なりの、ライフスタイルや気持ちにフィットしたケア方法を自ら見つけ出していくことが必要となります。

そのヒントになればと、多くの体験者たちが自ら創意工夫して編み出したアピアランスケアのアイデアや考え方の切り替え方などが数多く紹介されています。
「その人らしさ」を尊重しようという配慮が、ここにも生かされているのです。

紹介されているのは、体験談に基づくアイデアだけではありません。
脱毛や皮膚の色素沈着や手術跡など、外見ケアの基本的な対処方法について、医療スタッフによる解説も掲載されています。

本ガイドブックはA5版、全68ページで、国立がんセンター中央病院 アピアランス支援センターのWEBサイト上で電子ブックを閲覧するか、あるいはPDF版をダウンロードして見ることもできるようになっています*²。
女性患者のケアにも共通する部分が多く、是非一度チェックしてみてください。

アピアランスケアに取り組む企業も
最近は、がん治療による外見上の変化などで悩みを抱える人を対象に、アピアランスケアサービスに取り組む企業も出てきています。
たとえば、医療用ウイッグでお馴染みのアデランスとファンケルは、2019年10月から共同で、病院に出張してウイッグの使い方やメーク方法を伝えるセミナーを不定期で開催しています*³。
また資生堂は、今年(2020年)2月、インターネット上でやけどや手術による傷痕、治療の副作用による脱毛といった悩みを抱える人向けに「お悩み別メイクナビ」*⁴を開設し、外見上の変化で外出できないといった人をサポートしています。

なお、こちらの記事も併せて参照してみてください。

がん種の違いや発見時期による違いはあるものの、がんの生存率はこのところ大幅に改善している。治療法の画期的な進歩により、がん治療と仕事を両立させる患者も増えている。こうした傾向を受けてニーズが高まっている「外見ケア」についてまとめた。

参考資料*¹:国立がん研究センター 中央病院 アピアランス支援センター
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/appearance/
引用・参考資料*²:「NO HOW TO」PDF版
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/appearance/nohowto/NoHowToBook.pdf
参考資料*³:アデランスとファンケルがアピアランスケアのコラボレーションセミナー
https://pdf.irpocket.com/C8170/Rbrh/yq55/Xiyl.pdf
参考資料*⁴:資生堂「お悩み別メイクナビ」
https://corp.shiseido.com/slqm/jp/makenavi/