「外国人患者受入れのためのマニュアル」活用を




コーヒーはいかが

外国人患者の受け入れに
不慣れな医療機関向けに

日本を訪れる外国人は年々増加傾向にあります。
およそ半年後には東京オリンピック・パラリンピック2020が待ち受けており、この先さらに増え続けることが予測されています。

併行して、日本の医療サービスを必要とする外国人旅行者も大幅増となるとの見通しのもと、厚生労働省は2018年度に、「訪日外国人旅行者等に対する医療の提供に関する検討会」を設置し、安心・安全な医療の提供について議論を重ねてきました。

その結果が、研究チームにより「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」*¹として取りまとめられ、2019年4月に公表されています。

もともとこのマニュアルは、外国人患者の受け入れ体制が整っていない医療機関向けに、厚生労働省の研究班がその体制整備に必要とされる情報を整理したものです。
マニュアルの随所に、すでに多くの外国人患者に対応してきた医療機関の経験知が盛り込まれており、外国人患者に不慣れな現場での実践に大いに役立つ内容となっています。

医療費をめぐるトラブル防止に
かかる費用の概算を事前に提示

外国人患者への対応と聞くと、看護師の友人から聞いた話がとっさに頭に浮かびます。
ビジネスで花粉症シーズンに初めて日本にやってきたが、鼻水や目のかゆみがひどくて一晩中眠れなかったと訴え救急外来にやってきたメキシコ人の話です。

「おそらく花粉症でしょう」ということで、それなりの対応をしたところ症状はほどなく軽減したそうです。安心した様子で救急外来を出て行ったのですが、5分ほどすると、興奮した様子で戻ってきて、何やら大声でまくし立てたというのです。

なんのことはない、会計窓口で請求された医療費への不満のせいでした。
こんなに高額になることを事前に言ってくれていたら治療は受けなかったと、支払いを拒んだようです。しばし混乱はしたものの、連絡を受けて慌てて駆けつけたビジネスパートナーの日本人が、うまく対応してその場は収まった、ということでした。

このような医療費をめぐるトラブルは決して少なくはないようです。
防止策として当のマニュアルは、第二章の「医療費概算の事前提示」(p.45~49)のなかで、訪日外国人旅行者の医療費は自費診療であることを踏まえ、「医療費の概算を検査や治療を行う前に患者に提示すること」、そのために医療機関として「その概算方法や提示方法を決めておくこと」の重要性を強調しています。

感染症対策として渡航元の確認と
病院スタッフのワクチン接種

海外からの渡航者ですから、やはり感染症のことが気になります。
そこで当マニュアルでは、第二章のトップ(p.31-38)で「感染症対策」を取り上げ、訪れる外国人患者のなかには、渡航元、つまり訪日する前の滞在地(居住地あるいは旅行先)ですでに感染症に罹患している場合もあることを念頭においた対応が大切であるとしています。

その初期対応として、以下3タイプの患者については、感染症対策が求められる疾患である可能性が高いと判断して対応する必要があるとしています。
⑴ 咳や痰などの気道症状がある患者
⑵ 発熱していたり、皮疹が現れている患者
⑶ 吐き気、嘔吐、腹痛といった消化器症状のある患者

訪日する前の滞在地がアジアやアフリカ地域だった場合、それらの地では概ね麻疹(はしか)や風疹(三日ばしか)、さらには結核の感染リスクなどが高いことから、受付の事務職員を含め、事前に必要なワクチン接種を済ませておくことを推奨しています。

このワクチン接種については、日本環境感染学会が2014年9月に発行した「医療関係者のためのワクチンガイドライン第2版」に沿って行うことをすすめています。
詳しくはこちらの記事を読んでみてください。

職業柄病気を抱える人に接触する可能性があれば、職業感染リスクを常に念頭に置く必要がある。標準予防策も重要だが、ワクチンによる予防接種により自らが感染源になることを防ぐことも重要だ。このワクチン接種の指針となるガイドラインのポイントをまとめた。

また結核対策は、厚生労働省策定の「結核院内(施設内)感染対策の手引きについて 平成26年版」にある「職員の健康管理」(p.13-14)に準じて行うことを求めています。

日常診療では忘れられがちな結核ですが、毎年1万5000人を優に超える新規登録患者が出ており、そのほぼ1割が外国人患者という実態があります。
詳しくはこちらの記事を読んでみてください。

大勢の外国人を迎える東京五輪・パラリンピックに向けた感染症対策が公表された。特に力を入れたい疾患の1つに結核がある。毎年1万5000人を優に超える新規登録患者が出ているが、日常診療では忘れられがち。新規登録結核患者の特徴と予防の基本をまとめた。

外国人患者への対応時は
宗教・習慣上の配慮も忘れずに

これは医療機関における患者の受け入れに限ったことではないのですが、外国人に対応する際に常に念頭に置きたいことのひとつに、宗教の問題があります。
世界には、それぞれの地域に深く根差した宗教が数多く存在し、各宗教ごとに習慣も価値観も微妙に異なっており、一つとして同じものはありません。

この点を考慮し、当マニュアルの「宗教・習慣上の対応」(p.62-63)の項では、たとえば来院時に提出を求める診療申し込み書に「宗教などの理由により特別な配慮が必要な事項」という記入項目を設けることなどを提案しています

いずれにしても、外国人患者に検査や治療を行う際には、その方法についてあらかじめ説明を行う際に宗教上、あるいは習慣上の要望がないかどうかを確認したうえで対応する必要があるとして注意を促しています。

特に患者が女性であれば、相手が医師で、診療のためとはいえ、異性や知らない人の前で肌を見せることに宗教上特に強い抵抗感を示す場合があります。
この点に気づかないまま服を脱ぐことを求めたりすると、そのことがクレームにつながったり、検査がスムーズに進まなくなった事例がなども紹介されています。

なお、これは外国人患者に限らないのですが、宗教上の理由から医療行為に配慮が求められる代表的なケースである「エホバの証人と輸血」の問題への対応については、こちらの記事で詳しく書いています。参考にしてみてください。

医療行為やケアに宗教的配慮が必要な患者は外国人に限らない。日本人の患者でも、信仰心から治療を拒むことはあるし、守らなければならない規律や習慣、食べ物の制限もある。その象徴であるエホバの証人と輸血の問題を例に、宗教的配慮が必要な患者への対応をまとめた。

医療機関で使用する外国人向け多言語説明資料も

なお、医療機関において、外国人患者の対応時に必要となる各種医療文書(診療・入院申込書、診療科別問診票、同意書、診療情報提供書、医療費概算請求書、医療費請求書、領収書など)が5か国語(英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語)で作成され、厚生労働省のホームページ*²から入手できるようになっています。

参考資料*¹:厚生労働省「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000501085.pdf

参考資料*²:厚生労働省 外国人患者対応資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokusai/setsumei-ml.html

在留外国人や訪日外国人は近年急増している。ラクビーワールドカップや東京オリンピック・パラリンピックの開催を間近に控え、この先外国人はさらに増え、併行して外国人患者も増えてくることは想像に難くない。こうした事態に看護師はどう備えるか……。