あなたの腰痛は労災保険を申請できる!?

ストレッチ

職業病と諦めていた腰痛の
労災申請を思いつく

看護職の腰痛に関する調査によれば、5~7割が腰痛を抱えているとするものもあれば、8割を超える看護職が腰痛に悩みつつも休まず仕事を続けているとの報告もあります。友人の看護師Yさんもその一人で、会うと必ず腰痛の話になります。

彼女は、「職業病だから……」と半ば諦め顔……。それでも、悪化させないように、厚生労働省の『医療保健業の労働災害防止(看護従事者の腰痛予防対策)』*¹を参考にセルフケアを日々心がけているそうです。

そんな彼女から、つい先日ちょっと意外なメールが届きました。「腰痛のことですけど、徒労に終わってもいいから、私も一度労災に申請してみようと思うのですが、どう思いますか」

これまで「労災保険が使えたら整体にかかる支出を減らせるかもね」などと話すこともありましたが、「どうせ認められないでしょ」と笑って話は終わっていました。それなのに、何が彼女の気持ちを変えさせたのでしょうか。

また申請するとして、果たして認定される可能性はどのくらいあるのか――、といったことについて、今日は書いてみたいと思います。

なお、健康保険が使える整体などの施術費用については、こちらがお役に立てると思います。是非チェックしてみてください。

看護師の職業病とされる腰痛や肩こりで、街の整骨院やマッサージ治療院を利用する際は、医師の診断書か同意書があれば医療保険が使え、自己負担は3割ほどに抑えられる。また、なかには無資格者が開業していることもある。施術者が有資格者かどうかのチェックも忘れずに。

腰痛の原因が業務がらみなら
労災申請できるはず

腰痛で労災申請してみようと彼女が思い立ったきっかけは、実に簡単なことでした。リハビリテーションでよくチームを組む理学療法士の男性が、腰痛の悪化を理由に2週間ほど治療と休養のためとして、仕事を休んでいたそうです。

職場に復帰したという日、患者に付き添って行ったリハビリルームで久しぶりにその理学療法士と顔を合わせると、こんな話をしてくれたと言います。

「高齢患者のAさんにリハビリルームに移動してもらうために、ベッドから車いすに移そうと抱きかかえたときに腰にギクッときたんですよね」

続けて、「よくよく注意していたのにやってしまったという話を、たまたま知り合いの弁護士にしたら、直接の原因が業務上のこととはっきりしているなら労災認定されるはずだと言われ、思い切って先日申請してきたところです」

これを聞いて、「自分にも当てはまるのではないかと思った」と彼女。労災保険は正確には「労働者災害補償保険法」のこと。厚生労働省のサイトでは、労働者が業務や通勤が原因で負傷したり病気になった場合、あるいは不幸にも死亡した場合などに、労働者本人や遺族が給付等を受けられる制度だと説明しています。

ちなみにここでいう労働者とは、職業の種類にかかわらず雇用関係を結んで仕事に就き、労働の対価として賃金が支払われている人のことで、パートやアルバイト等の短時間労働者も含まれるようです。

労災保険の給付制度には、療養給付、休業給付など7種類あります。詳しくはこちらで解説していますので、チェックしてみてください。

会社などに雇用されている、いわゆる「労働者」は、業務中や通勤途中のケガや病気に労災保険が適用され、療養・休業などの給付金を受け取ることができる。通勤途中のアクシデントが招いた負傷や病気が労災対象になるかどうか、交通事故の場合はどうなるか、まとめてみた。

労災適用の2種類の腰痛と
業務上腰痛の認定基準

看護職をはじめとする医療や介護スタッフがよく経験する腰痛は、原因が業務上の出来事によるものなのか、あるいは全くプライベートなものなのか、さらには加齢に伴うものなのか、その判断は簡単ではありません。

そこで厚生労働省は1976年10月に「業務上腰痛の認定基準について」という通達を出し、認定の必要要件を明示しています。その後この認定基準は、「腰痛の労災認定」と題するリーフレット*²に簡潔にまとめられ、ネット上でチェックできるようになっています。

詳しくはそのリーフレットを参照していただくとして、労災保険が適用される腰痛は、次の2種類に分けられ、それぞれ認定に必要な要件が挙げられています。

  1. 仕事中の突発的な出来事により突然腰痛になる場合
  2. 突発的出来事ではないが、業務中に腰にかかる負担が積み重なって腰痛になる場合

理学療法士の男性の場合は、明らかに「1」のケースでしょうが、自分の腰痛は「2」のケースだろうと、Y看護師は考えたそうです。

つまり、業務中に突然起きた腰痛ではないものの、勤務の日は1日数時間程度、立ち続けたり、腰にとって極めて不自然な姿勢をとり続けていることが過度な負担となり、頑固な腰痛を引き起こしているのだろうと――。

腰痛の労災申請は
本人あるいはその家族が行う

ところで、Y看護師以外にもこれまで多くの看護師さんから腰痛のつらさを聞いてきました。みなさんそれぞれにセルフケアに励んでいるようですが、ときに我慢も限界に達し、はり・きゅうやマッサージを受けているという方も少なからず見受けられました。

これらの施術は、街の整骨院のようなところで受けるわけですが、健康保険が適用されないために自費扱いとなるところが多く、「月に何回か行くと、けっこうな支出になるのよね」などと愚痴を聞かされたことも多々あります。

そんなときは「労災とかにならないのかしら」と話を持ちかけてはみたものの、「それって、看護師長とかに申し出なくてはいけないから……」とか、「職場に迷惑をかけてはいけないから」などと、なかなか行動に移せない方が多かったように記憶しています。

ただし、労災の認定は職場の上司や経営者サイドが行うものではなく、最寄りの都道府県労働局の労働基準監督署が、本人もしくはその家族の申請を受け、本人の勤務状況などを考慮して行うものです。

腰痛の労災申請を検討している方は、厚生労働省のサイトに全国の労働基準監督署の連絡先リスト*³がありますから、そちらを参考に相談してみてはいかがでしょうか。

長引く腰痛のセルフケアに「いたみノート」アプリの活用を

なお、一般に3カ月以上持続する「慢性腰痛」は、日々の痛みの状態を記録して「痛みを可視化」すると、改善策やセルフケアのポイントが見えてくることがあります。

その記録に、専用のアプリ「いたみノート」があるという話をこちらで紹介しています。仮に労災申請するとして、痛みを可視化した記録を提示できれば、申請はよりスムーズに進むでしょうから、一度活用してみてはいかがでしょうか。

痛みは当事者にしかわからない主観的な感覚で、痛みを的確に把握するのは難しい。とりわけ3カ月以上続くような慢性疼痛は、さまざまな要因が絡み合っているだけに、痛みの改善は容易ではない。そこで開発された痛みを可視化するアプリ「いたみノート」を紹介する。

参考資料*¹:厚生労働省『医療保健業の労働災害防止(看護従事者の腰痛予防対策)』

参考資料*²:厚生労働省「腰痛の労災認定基準に関するリーフレット」

参考資料*³:厚生労働省「全国の労働基準監督署の連絡先リスト」