訪問看護で利用できない注射薬がある!?

医薬品

退院支援で知っておきたい
在宅における点滴・注射の話

在宅療養に移行する患者が、入院中に受けていた点滴静脈注射や静脈注射(1回のみの薬剤投与、いわゆる「ワンショット」)、あるいは中心静脈栄養法などを退院後も引き続き受けることは少なからずあるでしょう。

その際は、訪問看護師との連携が必須となりますが、「病院で使用している注射薬のなかには、訪問看護では利用が制限される、あるいは事前に所定の手続きが必要なものがある」ことをご承知でしょうか。

在宅療養に移行した患者宅を医師が訪問して、点滴療法や注射などの医療行為を行うのであれば、入院中に使用していた医薬品のほとんどは、引き続き使用することができます。

ただし訪問看護師が使用できる注射薬については、必要な手続きを忘れると、その患者が入院中に使用していた注射薬でも使用できない場合があります。「このことは意外と知られていないようだ」という話を訪問看護師の友人から聞くことができましたので、今回はその辺のことを書いてみたいと思います。

訪問看護ステーションに保管できる薬剤(配置薬)はグリセリンや生理食塩水、消毒用医薬品など一部にとどまっている。この点について日本看護協会は2022年11月7日、利用者のニーズにタイムリーに対応できるよう、医師の処方を前提に、脱水症状に対する輸液や被覆材、緩下剤、止痢剤、浣腸液、抗生剤、鎮痛剤、ステロイド軟膏、湿布なども常備できるよう内閣府の規制改革推進会議に要請している。この要請に、日本薬剤師会は2023年5月10日の定例記者会見で、「法的視点、医療安全の確保」の観点から、訪問看護ステーションへの配置薬拡大には「断固反対」であることを表明している。
なお、一連の議論を経て同年6月16日に閣議決定された「規制改革実施計画」に「薬剤配置」の具体的文言はない。ただ、在宅における円滑な薬剤提供体制の整備に向け、この先実態調査などを行い対応を検討するとしている。

訪問看護師が実施可能な
医療行為のレベル1~3

具体的な話に入る前に、訪問看護師ができる点滴や注射などの医療行為は、レベル1~3に区分されていて、訪問看護師のレベル(専門・認定看護師の資格の有無)や医師の指示の有無等により実施可能な医療行為が異なることを再確認しておく必要があります。ちなみにレベル4は、看護師は実施できない医療行為です

  • レベル1
    患者のリスクを回避し、完全・安楽を確保するための臨時的な応急処置として、訪問看護師の判断で実施できる医療行為。
    緊急時の末梢からの血管確保や点滴中の患者に異常が出たときの滴下の中止、注射針(末梢静脈)の抜去は看護師が判断して行うことができる。
  • レベル2
    医師の指示に基づき、訪問看護師が実施できる医療行為。
    脱水時の短時間持続注入の点滴、抗生物質の静脈注射、中心静脈カテーテルラインからの注射薬剤の混注、輸液ボトルの交換、輸液ラインの管理など。
  • レベル3
    医師の指示に基づき、一定以上の臨床経験を有し、かつ一定の教育を受けた認定看護師あるいは専門看護師、特定看護師等の有資格訪問看護師のみが行える医療行為。
    抗がん剤や細胞毒性の強い薬剤等の静脈内注射、麻薬(オピオイド)の末梢静脈注射、中心静脈アクセスポート(CVポート)専用ヒューバー針のポートへの穿刺と抜去など。

院外処方可能な注射薬なら
訪問看護で使用できる

最近は在宅で電解質輸液や抗生剤などの注射を受ける患者が増えています。そんな需要の高まりを受け、一時期に比べれば、院外処方で出してもらえる注射薬が増えているそうです。

この、厚生労働大臣の定める注射薬で院外処方が可能、つまり医師(保険医)が処方箋を交付できる注射薬なら、訪問看護師も取り扱うことができます。なお、保険医が処方箋を交付できる注射薬については、厚生労働省のホームページを参照してください

医師による交付が必要な指示書

医師が処方できる注射薬なら訪問看護師も使用可能です。ただし、連日の点滴や静脈注射など、週に3日以上の実施が予定されているときは、多くの場合、医師による「訪問看護指示書」に加え、以下2点の指示書が必要とされることはご承知のことと思います。

  1. 在宅患者訪問点滴注射指示書
    訪問看護師により、週3日以上、点滴や注射などの医療行為が必要と判断された場合に、その判断をした医師により交付される。
    当指示書を交付する医師には、点滴や注射を実施する際に留意すべき事項等を明記することが求められている。
    交付された指示書の有効期限は交付日から7日まで。
    当指示書は医療保険だけでなく介護保険も適用となる。
  2. 特別訪問看護指示書
    訪問看護指示書が交付されている患者の急性増悪などが原因で、訪問のペースを週4日以上と頻回にする必要があると医師が判断した場合に交付される。
    指示書の交付は、基本的に月1回、交付日から最長14日間有効。
    当指示書は医療保険のみ適用となる。

なお、「特別訪問看護指示書」は、すでに「訪問看護指示書」を交付しているかかりつけ医のみ交付することができます。詳しくはこちらを参照してください。

医療保険対応の訪問看護には「1日1回、週3日まで」の利用枠がある。患者の病気や状態によっては、この枠を超えて週4日以上、最長で28日利用できる場合がある。その際必要になる「特別訪問看護指示書」や対象となるケースについてまとめた。

訪問看護で使う
医療・衛生材料はどうする?

もう1点注意したいのは、在宅における点滴や注射に必要となる輸液セットやサーフロー留置針などの医療材料、および酒精綿や固定テープなどの衛生材料です。これらの物品の費用は、指示書を交付する医師が所属する病院、あるいは診療所が算定する「在宅患者訪問点滴注射管理指導料」(1週につき100点)に含まれています。

そのため、指示書を発行している医師が所属している医療機関側で準備して訪問看護師に渡すか、あるいは家族が受け取りに行く必要があります。なかには、医師が往診、訪問時に持参するケースもあるようです。

この点については、退院支援の段階で、訪問看護による点滴・注射における連携の一環として、必要物品のセットを準備しておく必要があるでしょう。

特定保険医療材料は院外処方で

なお、在宅中心静脈栄養などに使用する「在宅中心静脈栄養用輸液セット」やCVポート用の「ヒューバー針」などは、医薬品と同じように公定価格が決められていて、保険請求可能な「特定保険医療材料」です。したがって、処方箋があれば処方薬同様、最寄りの薬局で受け取ることができます。

このように在宅で点滴・注射を実施するには、注射薬等の取り扱いや指示書について事前の手続きが必要となります。スムーズに行うためには、医師や連携する訪問看護師、あるいはMSWやケアマネジャーなど、関係者間で事前に話し合っておくことをお忘れなく。

薬局薬剤師による訪問サービスの活用を

なお、2020年9月から施行されている改正薬機法(薬事法の名称変更)では、薬局薬剤師の役割が大きく拡充され、輸液や注射薬、および医療用麻薬を含むあらゆる医薬品のフォローアップが義務づけられています。

このフォローアップの一環として、在宅療養中の患者宅への「薬剤師訪問サービス」も積極的に行われるようになっています。詳しくはこちらをご覧ください。

従来も一部の薬局が行っていた薬剤師訪問サービスが、薬機法改正により全国的に普及、拡充される。1人では病院や薬局に通えない患者で、「訪問薬剤管理指導指示書」が発行され、本人の同意書があることが条件。退院支援看護師や訪問看護師は、薬局薬剤師との密な連携を!!

参考資料*¹:日本看護協会資料「訪問看護ステーションへの薬剤常備について」

参考資料*²:訪問看護における静脈注射実施に関するガイドライン

参考資料*³:保険医が投薬することができる注射薬