終末期医療・ケアのガイドライン2018改訂

終末期

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終末期医療とケアの
望ましいあり方を見直す

人生の最終段階、いわゆる「終末期」を迎えた患者・家族に対する医療のあり方については、2007(平成19)年に厚生労働省が策定した「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」に、国としての基本姿勢が示されていることはご承知と思います。

このガイドラインは、2015年に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」に名称が改められました。

さらに2018(平成30)年3月14日には、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に改訂されています。

終末期の医療のみならずケア方針も

タイトルが示すように、2018年版のガイドラインは、医療のみならずケアについても方針が明記されているのが重要なポイントです。

加えて、改訂前のガイドライン(指針)は、病気や老衰などにより回復の見込めない終末期にある患者・家族に対する医療に関して、基本的には病院などの医療機関において活用されることを想定した内容となっていました。

しかし、策定から10年が経過した現在、人びとが望む「人生の最終段階を過ごす場」は、必ずしも病院などの医療機関ではなくなってきています。また、人生を締めくくるまでの時間の過ごし方や看取られ方、看取り方についても、人びとが考える「望ましいあり方」は、人それぞれ、実にさまざまに多様化してきていています。

こうした現状に呼応できるようにと、2007年のガイドライン策定以来初めての見直し作業が、厚生労働省の検討会で進められ、今回の改訂となったという経緯です。

在宅における
看取りニーズの高まり

厚生労働省がガイドラインの改訂に踏み切った背景には、「高齢多死社会」の到来という深刻な現実があります。

現在私たちの国では、年間約130万人が亡くなっています。このまま進めば、ベビーブームの団塊世代が人生の最終段階を迎えるピーク時の2040年には、この数が今より30万人余り増え、168万人になると予測されています。

これだけの数の人が、本人の意思とかかわりなく現状のまま病院で最期を迎える状況が続けば、病院などの医療機関がそのすべてを引き受けることは体制的に難しくなります。そうならないためには、在宅における看取りも可能にする体制づくりが必要となります。

半数が「望ましい最期」に「在宅死」を

一方、病院ではなく自宅などで最期の時間を過ごしたいと望む人は少なくありません。

2012年に内閣府が実施した調査では、「治る見込みがない病気になった場合、どこで最期を迎えたいですか」との質問に、半数以上(54.6%)の人が「自宅」と答え、医療機関を望んだ人(27.7%)のほぼ2倍という結果になっていました。

このように、半数以上の人が「在宅死」、つまり「自分の臨終は自宅で」と望んではいるものの、2016年に亡くなった人で自宅で最期を迎えられた人は13%にとどまっており、73.9%の人は病院で最期を迎えています。

人びとが考えている「望ましい最期」を実現していくためには、在宅死を可能にする在宅医療・ケアの体制整備が火急的な課題であることは言うまでもないでしょう。

同時に、終末期の医療・ケアに関するガイドラインにも、医療機関だけでなく在宅や介護施設における対応も盛り込んでいく必要があることから、今回の改訂に至ったわけです。

終末期医療・ケアに必須の
アドバンス・ケア・プランニング

今回の改訂では、医療機関だけでなく在宅や介護施設においても活用できるように、患者が自宅や介護施設で最期を迎えたいと意思表示している場合は、その意思決定支援チームに、
「ケアマネジャーや介護スタッフら介護従事者を加える」ことを明確化しています。

そのうえで、この医療・介護チームで方針が定まらない場合は、医療倫理に精通した複数の専門家による第三者チームを別に設け、そのチームとの話し合いや助言なども得ながら方針を検討することも重要である旨、言及しています。

また、患者の意思は病状や時間の経過により変化する可能性があります。この点を踏まえ、医療やケア方針に関する話し合いは一度限りではなく、その時々の患者の病状に見合うかたちで意思決定支援を繰り返し行っていくことの重要性を強調しています。

さらに、その話し合いを重ねて医療やケアの方針を決めていくプロセスにおいては、特に患者本人が自らの意思を伝えられなくなった場合に、患者の意思を尊重するうえで大きな助けとなる「前もっての意思表示」、つまり「アドバンス・ケア・プランニング」、略称ACPの考え方を新たに取り入れていくことも記載しています。

今回のガイドライン改訂の柱は、この「アドバンス・ケア・プランニング」の考え方をベースに、その導入を推奨している点にあるといっていいでしょう。

アドバンス・ケア・プランニング
普及に期待される看護の役割

アドバンス・ケア・プランニングとは、元気なうちから「もしものとき」を想定して、人生の締めくくりを自分はどこで、どのような治療やケアを受けて迎えたいか、どのような治療は受けたくないかといったことについて、自らの考えをまとめ、家族や看護師ら医療従事者とも話し合い、合意を取り付け、それを文書にまとめておく取組みのことです。

詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
→ 看護としてのアドバンス・ケア・プランニング

厚生労働省が2018年3月に公表した意識調査の報告書では、終末期の医療・ケアについて、あらかじめ書面で意思表示しておくことに賛成と答えた一般人は66.0%にのぼりました。

ところが、実際に事前指示書などのかたちで書面を残していた人は、残念ながら8.1%にとどまっています。つまり1割にも届いていないのです。

この数字からは、自分の、あるいは愛する家族の「もしものとき」は、できれば考えたくないという人が多いことを否応なく実感させられるのではないでしょうか。

しかし、こと自分の臨終にかかわることだけに、「望ましい最期でありたい」と考え、アドバンス・ケア・プランニングを実践する人は、僅かずつながら増えてきています。

「私の四つのお願い」の書き方―医療のための事前指示書』や『高齢者ケアと人工栄養を考える―本人・家族のための意思決定プロセスノート』など、その実践のために一般向けに作成された手引書も、数種発売されています。

2018年改訂の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」は、厚生労働省のホームページ(コチラ)からダウンロードできます。

日本医師会は2020年5月、終末期医療に関するガイドラインを12年ぶりに改定し、「人生の最終段階における医療・ケアに関するガイドライン」として発表しています。そこには新たに、アドバンス・ケア・プランニングの考え方が盛り込まれています。