介護医療院は
新しいタイプの医療施設
2018(平成30)年4月1日から「介護医療院」という新たな施設の枠組みがスタートしています。創設当初は、聞きなれないこの施設名に、「なに、それ?」「介護施設なの? それとも医療機関なの?」と疑問をもたれる方も少なくありませんでした。
介護医療院は、介護保険法上の介護保険施設です。ただ、介護保険施設として「介護ニーズ」に応えるだけでなく、「医療ニーズ」、さらには「看取りニーズ」にも応える新しいタイプの医療施設として、医療法上も法的に位置付けられている点に、従来型の介護保険施設との大きな違いがあります。
「長期療養のための医療」と
「日常生活上の世話」を提供
簡単に言えば、介護医療院は、ある程度病状が安定してはいるものの、長期にわたる継続的な医療を必要としている要介護高齢者が、日常的な医学管理や看護、場合によってはターミナルケアを受けながら、あるいは人生を締めくくる看取りのときまで生活支援を受けながら暮らすことのできる場、と説明することができます。
そこでは、医師、薬剤師、看護職員、介護福祉士、理学療法士らリハビリテーション関連の専門職員、栄養士、放射線技師、介護支援専門員(ケアマネジャー)など、多彩な職種がスタッフとして働いています。
とりわけ「看取りニーズ」に十分に応えていくためには、常勤の医師や看護職が不可欠で、この医療的かかわりを含むケアチームにおいて看護職には、キーパーソンとしての役割が期待されています。
介護医療院創設の背景に
行き場のない患者の存在
がんや生活習慣病などの慢性疾患を抱える患者が、長期にわたり療養生活を続けていくためには、医療と手を切ることはできません。
そうした患者のなかには、医療サービスを受けながら自宅など地域に戻って療養することが可能な状態にあるにもかかわらず、諸事情により病院での生活を余儀なくされている患者が数多くいることがわかっています。
たとえば、がん末期で十分な経口摂取ができないために経管栄養や輸液療法が欠かせない患者などは、その一例でしょう。あるいは、最近急増している慢性閉塞性肺疾患(COPD)により酸素療法が欠かせない、あるいは1日に7回程度の喀痰吸引が欠かせない患者も、このケースに当てはまると言っていいでしょう。
これまでこのような患者の多くは、病院や有床診療所に「一般病床」とは別に設けられた「介護療養病床」で療養生活を続けていました。そんななか、国の差し迫った財政難や医療費の高騰、医療スタッフの人手不足の深刻化などを理由に、介護療養病床を全面的に廃止してはどうかという声が、2005年(平成17年)頃から上がっていました。
6年間の移行期間を経て
介護療養病床は全面廃止へ
その後、いったんは2011年度末(2012年3月)の廃止が決まったものの、また見直されるなどの経緯を経て、現存する介護療養病床は、2018年3月末で制度上廃止となっています。と言っても、2016年4月時点の統計で約5万9000床あった介護療養病床のすべてが、一気に廃止されたわけではありません。
この廃止には2024(令和6)年3月末までの猶予期間が設けられていますから、介護療養病床で生活しているすべての患者が、直ちに退所を求められるわけではありません。しかし、早晩行き場を失うことになるわけで、そうした患者の療養生活を支える場のひとつとして、介護医療院が誕生したというわけです。
介護医療院で
看護の専門性を惜しみなく発揮
これまで介護療養病床で多くの患者の療養生活にかかわってこられた看護師さんは、「介護医療院になって何が変わるの?」との疑問を、当然持たれることでしょう。
介護医療院は、「患者」というよりも「入居者」が必要としているサービスの内容に応じて、大きく2種類に分けられています。
従来の介護療養病床(療養機能強化型)に相当する、医療サービスが強化されたサービスを提供する「Ⅰ型」と、従来の老人保健施設に相当する、あるいはそれ以上の介護を中心とするサービスを提供する「Ⅱ型」です。
これらのサービスを提供するために必要とされる、医師や看護職員、介護職員、ケアマネジャーなどのスタッフ配置基準を見てみると、たとえば看護職ではⅠ型、Ⅱ型共に6:1となっていて、他の職種についても、これまでと特段大きな変化は見られません。
介護医療院は
「生活の場」として環境整備
介護医療院がスタートした翌日の4月2日(2018年)、日本慢性期医療協会の会内組織として設立された、日本介護医療院協会の初代会長である江澤和彦医師(倉敷スイートホスピタル理事長・日本慢性期医療協会理事)は、こう発言しています。
「介護医療院は、住まいと生活を医療が下支えする新たなモデルである」と――。
さらに、「入居者の尊厳を保障することが介護医療院の最大の使命である」としたうえで、状況に応じた自立支援を常に念頭に置いた、長期療養・生活施設として運営していくことの重要性を訴えていました。
介護医療院で
その人らしい生活支援を
江澤会長が言うところの「状況に応じた自立支援」とは、看護が常に取り組んでいる「その人らしさ」を尊重して、「その人らしい生活」を取り戻していく、つまり生活を再構築していく支援そのものではないでしょうか。
言い換えれば、入居者個々の「今持っている力」「自分でできること」を見極め、その力を最大限発揮して生活を再構築し、自立していけるようにかかわることが、介護医療院では最大の課題となってくるようです。
これまでの取材を振り返ると、取材に協力してくれた看護職の方々の、嘆きともとれるこんな声を、幾度となく耳にしてきました。「診療の補助に時間の大半をとられてしまい、本来私たちが最も力を入れたいと思っている療養の世話をする時間がないままに日々が過ぎてしまっている」と――。
介護医療院は、看護職にとって、今まで存分にできないでいた療養の世話に思う存分取り組むことができる職場と捉えることもできるのではないでしょうか。
介護医療院のベット数は
この先増加が見込まれる
なお、厚生労働省の調査によると、2024年4月1日時点で全国に926の介護医療院が開設され、5万3,183床が確保されています。その内訳は、医療サービスが強化された「Ⅰ型」が3万7,568床、介護サービスを中心に提供する「Ⅱ型」が1万5,615床です。
2024年度(2024年4月~)からは新たに第8次医療計画(2024~2029年度)・第9期介護保険事業(支援)計画(2024~2026年度)がスタートしますが、この計画を立てるに際しては、介護療養病床から介護医療院へ転換・移行するケースにより、介護医療院の施設数・ベット数も増える可能性があります。
ここで改めて、介護医療院における看護機能の充実を考えておく必要がありそうです。