意思決定支援における「家族の意向」




家族

「家族ではないから」と
意思決定場面から外された

近い将来に「がん看護専門看護師」として活動することを目標に、現在は大学病院で病棟看護師として臨床経験を積んでいるKさんのことをちょっと書いてみたいと思います。

Kさんの看護師としてのキャリアはようやく3年目に入ったところです。
とはいえ彼女は、大学を卒業して金融関係の会社に5年ほど勤務したのち、「思うところがあって看護大学に入り直した」という、ちょっとユニークな経歴の持ち主で、人生経験という意味でもとても興味深いものがあります。

その「思うところ」については、まだ詳しくは話してくれていません。
ただ、彼女の話からちらほらうかがえることをつなぎ合わせてみると、どうも大事な方をがんで、それも突然亡くされているようなのです。

しかもその際に、「私の人生を左右するほどの大事な情報を、いわゆる家族でも身内でもないことだけを理由に医療スタッフから伝えてもらえなかった」というじくじたる思いが抜けきれずにいるようです。その意思決定場面から外されたことを心底から悔やむ気持ちが、今の看護師としての彼女の、仕事に取り組むパワーのみなもとになっているように私は感じています。

治療法の選択に迷う患者の
意思決定支援と家族の存在

彼女とは、看護大学で教鞭をとっているNさんの紹介で知り合いました。
Nさんは、年に3回ほど集まって近況を報告し合う仲間の一人です。先にまとめた「生活の再構築を必要としない患者はいるだろうか」という記事のなかで、がんリハビリテーションについて発言しているのがNさんです。

Nさんの専門はがん看護です。毎月1回程度、少人数の学生や看護師を集めては、その時々の話題をテーマに勉強会を開いています。
「今回は、がん患者の意思決定支援をテーマに選んだけど、あなた興味あるでしょ。よかったらどうぞ。みんなの了解はとれているから」
――そう連絡を受けて参加させていただいた勉強会で、たまたま席を隣り合わせたのが、K看護師との出会いでした。

その日は、がん看護専門看護師の近藤まゆみさんの著書『臨床・がんサバイバーシップ―“生きぬく力”を高めるかかわり 』(仲村書林)のなかの、意思決定支援に関して書かれている部分(p.36-58)を読み合わせることから始まりました。
そこには、左肘部の悪性線維性組織球腫という軟部肉腫の一つ、つまり左肘の線維組織に発生した悪性腫瘍に罹患した、成人女性が登場します。

主治医から「生命を守るためには、左腕を切除する以外に方法はない」と告げられ、手術を受けるか否かの選択を迫られたとき、この患者は、内心では、切断手術を受けてこの先も生きていく道を選択しようと直ちに決断したようです。
ただ、自分が左腕を失うということが家族、特に二人のまだ幼い息子たちにどのような影響を与えるだろうかと考え、手術を受ける決断をしていることを口にできないでいる、といった事例です。

家族とは
その人に最も大切な存在

この事例をもとに、この患者に対する意思決定支援のあり方をめぐって話し合いを進めていくなかで、参加者の一人から、「この事例のように、家族を思う気持ちが前向きの決断を鈍らせることってよくあるよね」という発言がありました。

これを受けて「その一方で、家族の意向、つまり家族はどうしてほしいと思っているのかということが患者の意思決定の背中を押すこともあるから、私たち支援する者としては、家族の意向をどう把握してアセスメントするかが大事になってくると思うけど、そのへんのことは難しいのよね」といった意見もあがりました。

隣りに坐るK看護師は、これらの発言を、しばらくの間じっと黙って聞き入っていました。
参加者が一通り、それぞれ感じたことや疑問に思ったことを発言し終えたところで、N教官が、一人だけ発言のなかったK看護師に、「あなたはどう思いますか」と尋ねました。

これに答えて、彼女は、「みなさん先ほどから、家族という言葉を繰り返し使っていますけど、家族をどんなふうに定義しておられるのですか」と問いかけました。
そして一息ついてこう続けたのには、「なるほど」と、ちょっと考えさせられました。

「たとえばこの本を書かれた近藤さんは、意思決定支援においては、患者の価値観、つまりその人が日々の生活で優先的に価値を置いていることを見定め、それを尊重することが大事だと記しておられます。この考え方を家族ということにあてはめて言えば、その人にとって一番大事なのは誰かということを考えるところから始める必要があると思うのです。家族にもいろいろなかたちがあって、関係性や力関係はそれぞれですから、患者にとって一番大事な人は家族メンバーだということには、必ずしもならないのではないでしょうか」

この辺の話に関心のある方は、意思決定プロセスガイドラインなどにおける家族のとらえ方などをまとめた『意思決定支援における「家族」の定義は?』を参考にしてみてください。

「いのちの終わり」に寄せる
家族の思いと意思決定支援

この発言を受けて、在宅におけるターミナルケアを何度か経験しているという訪問看護師さんが、「おっしゃるように家族にもいろいろあるということを、私も訪問先で実感しています」としたうえで、おおむねこんな趣旨のことを話してくれました。

最近は、アドバンス・ケア・プランニングに象徴されるように、人生の最終段階をどう生き、どう締めくくるかということに人々の関心が高まり、その締めくくり方について家族と話し合っておきたいからと、訪問先で、その意思決定に助言を求められることが多くなっているそうです。

その支援においては、終末期にある方の意思決定は、その方が亡くなった後に残される家族にいろいろなかたちで影響することを考えて、「この家族はどのような家族なのか」「患者との関係性はどうなのか」「家族の思いや意向をどう理解し、受け止めたらいいのか」などを、事前にある程度把握するようにしているそうです。

その把握し、評価する方法については、地域医療の第一線で活動しているプライマリ・ケア医らによる『いのちの終わりにどうかかわるか 』(医学書院)の第4章に収められている「家族評価とライフレビュー」(p.92-103)を参考にしているとのことでした。

最近久しぶりにK看護師と話す機会があったのですが、彼女は、訪問看護師さんから紹介のあったこの本をすぐに購入して、大事な人と死別した時の自分に立ち返りながら、いのちの最期にどう向き合うかということを考える拠り所にしているそうです。

「自分には、喪失と悲嘆について書かれた第8章が特に興味深く、繰り返し読んでいる」とも話していて、彼女の大事な人との死別体験がいかに理不尽でつらいものだったのかが推察され、「家族の意向」のとらえ方の難しさを、改めて考えさせられました。
「事前指示書」が最期のときに生かされるために

なお、家族をケアのパートナーに組み入れていく家族面接の実践について学びたい方は、ちょっと専門的ですがコチラの本が参考になります。
⇒『家族面接・家族療法のエッセンシャルスキル 初回面接から終結まで』(星和書店)