糖尿病患者ケアに活用したい「療養指導ツール」

糖尿病食

診療科の別なく期待される
「糖尿病療養指導」

糖尿病は、わが国における重要疾患の一つに位置づけられています。

患者は年々増加を続け、直近の患者調査(2019年3月1日発表)によれば、糖尿病の患者数は過去最多の328万9000人となっています。

この数字は、実際に病院を受診して糖尿病の診断を受けて治療中の患者数です。

これに「糖尿病が強く疑われる」、いわゆる「糖尿病予備軍」と呼ばれる人たちを合わせると、約2000万人になると推定されています(2016年「国民健康・栄養調査」による)。

このように患者もしくは予備軍が多いことに加え、糖尿病という疾患は、眼や腎臓、心臓、脳血管などに深刻な合併症を起こしやすいことが、従来からよく知られています。

加えて最近では、糖尿病患者には重症化しやすい歯周病が多いことも指摘されています。

したがって糖尿病に関するもろもろの知識は、診療科の別なくすべての看護師さんに求められていると言っていいでしょう。

そこで今回は、患者から思わぬかたちで糖尿病に関する質問を受けたときに、「えっ、私は糖尿病は専門外ですから」などと逃げることなく、瞬時に的を得た説明や指導ができるように、活用していただきたい「療養指導ツール」を紹介したいと思います。

糖尿病は合併症が多く
思わぬ場で療養指導が必要に

糖尿病患者から思わぬ質問を受けた際に、簡単に的確な対応ができるように、専門家により「療養指導ツール」が用意されている――。

このことを教えてくれたのは、実は少々意外だったのですが、眼科クリニックを開業して間もない女性医師です。

この眼科医は、つい最近までの5年間ほどは、大学病院の眼科外来で診療を続けていました。

その間には、院内の糖尿病外来や内科病棟などから、糖尿病網膜症の患者の診療依頼を受けることが幾度となくあったそうです。

そんなときは、もともと糖尿病で通院、または入院している患者ですから、「糖尿病そのものの治療などについて、眼科医の私に質問してくることはほとんどなかった」そうです。

ところが独立してクリニックを開業してからは、たとえば眼底検査を受けに来た患者から、糖尿病の食事療法や運動療法などについて質問を受ける、といつたことが多くなったそうです。

そこで、「何か簡単に説明できるパンフレットのようなものはないかしら」と、大学病院で同僚だった糖尿病専門医に相談したところ、「いいものがある」と、「療養指導ツール」を紹介してくれたのだそうです。

そしてつい先日、その話をしてくれた際に、「看護師さんたちも、患者さんから糖尿病に関する情報を求められることが多くて困っているようだから、ブログで紹介したらどうかしら?」と提案してくれたのです。

日本糖尿病療養指導士らが
指導パンフレットを作成

前置きが長くなりましたが、そういった経緯から、今回取り上げる糖尿病の「療養指導ツール」は、国立国際医療研究センター 糖尿病センターに勤務する日本糖尿病療養指導士が中心になって作成したものです。

以下のテーマごとに、「ここだけは知ってほしい」という内容が、実にシンプルかつ、イラストを多用してわかりやすくまとめられています。

  • 糖尿病ってどんな病気?
  • 糖尿病をよく知るための検査
    血糖/HbA1c/尿糖/経口ブドウ糖負荷試験
  • 糖尿病の合併症を調べる検査
    心電図検査/24時間血圧測定/血圧脈波/心臓・腹部・血管 超音波検査/神経伝導検査
  • 糖尿病の食事療法
    毎食、主食・主菜・副菜をそろえて、バランスよく/減塩の工夫/うま味を引き出す調理のポイント
  • 糖尿病の運動療法
    続けることのメリット/糖尿病の運動療法に適した運動/運動するときに気をつけること
  • 糖尿病の飲み薬
    ビグアナイド薬/スルホニル尿素薬/DPP-4阻害薬/チアゾリジン薬/速効性インスリン分泌促進薬/SGLT-2阻害薬/α-グルコシダーゼ阻害薬
  • インスリン・GLP-1製剤の自己注射を始められる方へ
  • 注射製剤の保管方法
    使用中の注射製剤(インスリン・GLP-1製剤)の保管方法/未開封の注射製剤の保管方法
  • 「低血糖」とは?
    低血糖とは/低血糖の症状/低血糖の原因/対処法/再発予防、重症の低血糖を予防するために
  • シックデイ(病気の日はどう対応する?)
    シックデイとは/シックデイの対応
  • フットケア
    糖尿病と足病変/足を守るためのポイント
  • 糖尿病と口の中の健康
    歯周病って何?/糖尿病と歯周病の関係/歯周病の予防と治療

本指導パンフレット作成チームは、それぞれ院内での患者指導やスタッフ間での勉強会で利用できるように、PDFとパワーポイントの2バージョンを用意し、当糖尿病センターのWEBサイト*¹で無償にて公開しています。

糖尿病生活指導のエキスパート
日本糖尿病療養指導士

ところで、今回取り上げた糖尿病指導パンフレットを中心になって作成したのは、「日本糖尿病療養指導士(略称:CDEJ)」です。

日本糖尿病療養指導士認定機構が2001年3月から毎年実施している認定試験に合格し、5年毎の更新を済ませている糖尿病治療における生活指導のエキスパートです。

2022年8月15日現在の有資格者は1万8,591人で、その職種は看護師(准看護師を含む)、管理栄養士(栄養士)、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士と、多岐にわたります。

有資格者を職業別に見ると、看護師(准看護師)が8,252人と最も多く、次いで管理栄養士(栄養士)、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士の順になっています。

資格取得には、上記いずれかの有資格者であることが条件となります。

毎年10月頃に開講される受験者用講習会(2018年度からe-ラーニング講習会)を受講した後、受験申請書類を提出。受験資格審査(自らが担当した糖尿病療養指導10例のレポートを提出)を経て、受験資格ありとなれば、3月上旬に行われる認定試験を受験するといった流れになっています。

挑戦してみたいという方は、こちらを参照してください。

糖尿病予備軍も含め、食事や運動の自己管理が欠かせない人は全国に2000万人と推定される。彼らの自己管理をサポートするエキスパート「糖尿病療養指導士」には日本版と地域版があるが、いずれも認定試験受験資格要件の1つ、講習会がeラーニングになったのは幸いでは。

2019年に改訂された「糖尿病診療ガイドライン」

なお、日本糖尿病学会は2019年9月に3年ぶりの改訂になる『糖尿病診療ガイドライン2019』を公表しています。

この改訂では、食事療法において「患者個々の食習慣を尊重する」観点から、個別対応を重視したいくつかの重要な変更を行っています。

詳しくはこちらの記事をチェックしてみてください。

日本糖尿病学会が3年ぶりに改訂した「糖尿病診療ガイドライン2019」では、糖尿病治療の第一歩となる食事療法に「個別化」と「柔軟な対応」を求めている。1日に必要な総エネルギー摂取量を算定する際の「体重」と「係数」の変更点と栄養素摂取比率のポイントをまとめた。

また、日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会によりまとめられた「高齢者糖尿病診療ガイドライン」については、こちらを。

超高齢社会のわが国では、糖尿病患者の半数は高齢者と推定される。高齢者糖尿病では通常の合併症に加え、認知機能の低下なども影響し、そのかかわりには老年医学の知識が必須であり、高齢者の糖尿病に特化した診療ガイドラインが作成されている。そのポイントを紹介する。

「糖尿病」の名称変更に向け検討進む

糖尿病については、病名そのものがマイナスイメージにつながりやすく、患者が偏見や差別を受けやすいという問題があり、日本糖尿病協会を中心に、病名変更に向けた検討が進んでいます。詳しくはこちらを。

「糖尿病」という名称に患者の9割が抵抗感や不快感を抱いていることが患者対象の調査で明らかになった。スティグマ(偏見や差別)につながりかねず、治療開始の遅延や中断を避けるためにも日糖協は名称変更に向け動き出した。

参考資料*¹:国立国際医療研究センター 糖尿病センター「療養指導ツール」