遠隔医療とオンライン診療はどう違うのか

情報通信機器

遠隔医療とオンライン診療は
どう使い分けているのか

先日、オンライン診療に関する記事を書いたところ、読んでくれた看護師の友人から、「基本的なことで恥ずかしいのですが」との断わりから始まる次のメールが届きました。

「私としては死亡診断の看護師代行という話に関連して遠隔医療という言葉にはなじみがあるのですが、この遠隔医療と、今回コロナの感染拡大で改めて注目されているオンライン診療とは、何が、どう違うのですか」

いや、何も恥ずかしがることはありません。その辺のことを抑えたうえでオンライン診療の話に入らないと、「読む側としては混乱してしまうでしょう」といった厳しいご指摘を、別の方からもいただいています。そこで今回は、両者の違いといいましょうか、関係性を整理しておきたいと思います。

遠隔医療では
オンライン映像を介して対面

厚生労働省はオンライン診療のガイドラインとして、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」*¹を公表しています。そのなかで「遠隔医療」については、「情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為をいう」との日本遠隔医療学会の定義を紹介しています。

医療は、医療サービスを必要としている患者とサービスを提供する医師ら医療スタッフなどが対面することからスタートすると言っていいでしょう。「遠隔医療」では、その対面が直接ではなく、パソコンやスマートフォンなどを使い、オンライン映像を介して行われます。

医師ー医師間でのオンライン映像による遠隔医療

遠隔医療の診療スタイルとしては、大別して以下の2つのケースがあります。

  • 医師-医師間で患者の放射線画像診断や病理診断データなどをオンライン映像を介してリアルタイムで確認し合いながら、診断等の医学的判断や情報提供を行う
  • 医師(もしくは看護職を含むその他の医療スタッフ)と患者との間で、健康相談や保健指導を含む診療行為、診療補助行為をオンライン映像を介して行う

たとえば、2017年9月には厚生労働省により、「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断ガイドライン」が策定されています。これにより、「医師が対面で死後診察をしなくても、看護師が死亡診断を代行する」ことが可能になっています。

これこそまさに、看護職にとって最も身近な遠隔医療の一例でしょう。ところが、策定されたガイドラインで示されている「遠隔での死亡診断を行うための要件」があまりに厳しすぎることもあり、残念ながら、あまり普及していないようですが……。

在宅死を望む人は圧倒的に多いものの、希望がかなう人は一部に限られ、いよいよとなって病院へというケースが多い。理由の一つに死亡確認する訪問医の絶対的な不足がある。この問題を解決しようと、看護師が代行できるシステムの整備が始まっている。

医師等-患者間での
遠隔医療サービスは3種類

一方、先のオンライン診療の指針では、遠隔医療のなかで「医師ー患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察および診断を行い、診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為」を「オンライン診療」と定義しています。

この定義のもとに、医師もしくは看護師等医療スタッフとのオンライン映像を介して患者が受けることのできる主な医療サービスとして、以下の3種類があげられています。

  1. オンライン診療
    医師からオンライン映像を介して診察、処方を受けることができる
  2. オンライン受診勧奨
    オンライン映像を介して医師に症状の変化などについて相談し、受診の必要性や適切な受診先などについて指示や助言を受けることができる
  3. 遠隔健康医療相談
    医師もしくは看護師、助産師、薬剤師などの医療従事者から、健康問題について、医学的診断以外の相談を受けることができる

かかりつけ医と患者間でのオンライン診療

このうち「オンライン診療」と「オンライン受診勧奨」にある「医師」は、患者がその医師から、病院やクリニックなどで事前に「初診」を受けていることが条件となります。患者にとっての、いわゆる「かかりつけ医」に限られるわけです。

さらに、「オンライン診療」でかかりつけ医が診察し、処方できるのは、定期的に受診している患者の高血圧や糖尿病といった慢性疾患に限られます。患者側から言えば、かかりつけ医からオンライン診療により「持病のいつもの薬の処方」を受けることができます。

しかし、その持病以外に新たな病気が疑われる症状を自覚した場合は、かかりつけ医にオンラインで相談をし、いわゆる「オンライン受診勧奨」を受けることはできても、新たな診断や処方を受けることはできません。その際は、医療機関を受診して対面診察を受ける必要があるということです。

かかりつけ薬剤師による
オンライン服薬指導

3つ目の「遠隔健康医療相談」の具体例としては、かかりつけ医によるオンライン診療に併行して行われることの多い薬剤師による「オンライン服薬指導」が最もポピュラーです。

オンライン診療でかかりつけ医が処方箋を発行した場合、その処方箋はかかりつけ医から患者のかかりつけ薬局へファクシミリにて直接送付されます。処方箋を受け取った薬局の薬剤師(かかりつけ薬剤師)は、オンラインで患者に服薬指導を行い、そのうえで薬局から患者宅へと処方薬が配送されることになります。

このとき患者宅に送り届けられた処方薬について、たとえば薬を飲み忘れたとか、飲む量を間違えてしまった等の問題が発生したときは、オンラインでかかりつけ薬剤師に対処法を相談することもできます。

在宅医療現場を中心に
テレナーシングが普及

一方、看護領域でも「遠隔看護」とか「テレナーシング(telenursing)」として、オンラインによる健康相談や保健指導サービスが徐々に普及してきているようです。

助産師が産婦人科医と協力して、オンラインで行う妊婦健診や乳児を持つ親への乳児保健指導などが、その一例です。最もニーズが高いのは在宅医療の現場、それも、慢性疾患で在宅酸素療法などの治療を続けている患者です。加えて最近は、在宅におけるリハビリテーション支援などにもオンライン映像を介した指導や支援が行われるようになっています。

テレナーシングに関心のある方には、聖路加看護大学テレナーシング研究グループ(代表:亀井智子・老年看護学教授)によるガイドライン*²が参考になります。

厚生労働省が遠隔医療に関する研修会

遠隔医療については、これまでは医師ー医師間でのやりとりが中心でした。しかし最近では、情報通信技術が急速に発達、普及したことにより、医師等ー患者間でのオンライン診療が急速に普及してきています。

加えて、2018年度診療報酬改定により「オンライン診療」に関する診療報酬の算定が始まり、2020年度改定では、さらにその算定要件が大幅に緩和されたことから、遠隔医療を提供する医療機関が大幅に増加することが予測されます。

そこで厚生労働省は、遠隔医療の適正な実施を図ろうと、遠隔医療に携わる医療スタッフおよび遠隔医療サービスを利用する国民を対象に、年に8回、全国で研修会を実施しています。スケジュール等は厚生労働省のサイト「遠隔医療従事者研修」で確認してください。

オンライン会議の活用要件が緩和される

2020年度診療報酬改定によりカンファレンスや会議への活用要件が緩和されたオンライン会議に関しては、こちらの記事を参照してください。

コロナの感染拡大により多職種で業務のオンライン化が進んでいる。医療界では2020年度診療報酬の改定がこの動きを加速させている。対面にこだわらずオンラインでの会議や指導を導入し、医療スタッフの負担軽減につなげる狙いだが、患者情報のセキュリティ確保が課題だ。

参考資料*¹:「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(2022年1月一部改訂版)

参考資料*²:聖路加看護大学テレナーシングSIG『テレナーシング実践ガイドライン』(ワールドプランニング)