ACPを「その人らしさ」を語り合う場に




話し合い

ACPが普及しないのは
終末期に限定しすぎるから?

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の取り組みが全国的にスタートしてから、そろそろ5年になろうとしています。しかし、残念ながらその普及は思ったほどは進んでいないという声をよく耳にするのですが、いかがでしょうか。

先日、看護大学で教鞭を執っている友人と会った際に、このことが話題になりました。
厚生労働省は公募して「人生会議」という愛称をつけるなど、周知徹底に取り組んではいるのですが、あまり効果が上がっていないのではないか、と――。

「そもそも医療者サイド、特に医師の関心の低さが問題の一つとしてあるのではないかしら」
「現実的な問題として、診療報酬でACPをやったら何点加算というふうになっていないことを普及が進まない原因との一つに指摘する声もあるようだけど、ACPに具体的な点数設定をすること自体、簡単ではないし……」

といった具合に話が盛り上がったのですが、最終的には、ACPを終末期に限定して、「もしものときのことを医師と本人、家族が話し合う」とか「人生の最終段階における医療やケアについてあらかじめ話し合っておく」ことと理解し、患者側にそのまま説明してしまうのがよくないのでないだろうか、という話に行き着きました。

「もしものときのこと」を患者と家族、医療関係者が話し合うアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の取り組みを普及させようと、厚生労働省が愛称を公募。選ばれたのは現役看護師による「人生会議」。看護職にも認知度はまだ低いのですが……。

2018年度診療報酬改定で
加算算定要件にACPも

ただ、ちょっとお断りしておきますが、ACP単独で算定できる診療報酬はないものの、ACPを算定要件の一つにあげているものはあります。
たとえば2018年度の診療報酬改定では、訪問診療・訪問看護のターミナルケア加算の追加算定要件の一つとして、以下を新たに設定しています。

「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容を踏まえ、利用者本人及びその家族と話し合い、利用者本人の意思決定を基本に、他の医療および介護関係者と連携の上、対応すること

また、「地域包括ケア病棟入院料1」と「地域包括ケア病棟入院料3」の基本診療料の施設基準についても、「適切な看取りに対する指針を定めておくこと」を新たに規定しています。
そして、ここでいう指針として、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」をあげ、ACPの取り組みに言及しています。

ACPの定義に込められた
「その人らしさを尊重する」姿勢

いずれも人生の最終段階に限定しているのがいかにも残念ではあるのですが……。
そこで、そもそもACPのような取り組みがなぜ必要なのかということを、改めて考えてみようという話になったわけです。

そうした話の流れのなかで、日本医師会がかかりつけ医を主な対象に、広く医療従事者向けに作成した「終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える」というリーフレットの表紙にあるこんな一文に注目しました。

ACP(Advance Care Planning)とは?
将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、患者さんを主体に、そのご家族や近しい人、医療・ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、患者さんの意思決定を支援するプロセスのことです。
患者さんの人生観や価値観、希望に沿った、将来の医療及びケアを具体化することを目標にしています。
(引用元:日本医師会編「終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える」)

ACPが意思決定支援のプロセスであることは、改めて確認するまでもないでしょう。
次に書かれている「患者さんの人生観や価値観、希望に沿った……」の部分は、看護が日々の実践において最も大切にしている「その人らしさの尊重」そのものではないでしょうか。

リーフレットをさらに読み進めていくと、ACPの留意点について書かれた部分に、「ACPは、前向きにこれからの生き方を考える仕組み」であり、「そのなかに、最期の時期の医療及びケアのあり方が含まれる」とあります。

ACPの目的は、あくまでも患者の意思を尊重した医療及びケアを提供して、この先の尊厳ある生き方の手助けをすることにあると、理解できないでしょうか。
「もしものとき」に自分自身で自分のことが決められなくなることがあるから、そうなったときに備えて、医師や家族に前もって自分の意思を伝えておこうという話だけではないことを、まずはACPについて説明する側がきちんと認識しておく必要がありそうです。

その人らしい生き方実現のために
ACPで何を話し合えばいいのか

では、ACPとして患者さんや家族と何を語り合えばいいのかという話になります。
これまでに、実に多くのACPの手引き、さらにはACPにおいて活用する事前指示書あるいはエンディングノートが公表されています。

その多くが、「自分が終末期になったときに受けたい医療について……」といった話から始まり、延命治療を望むかどうか、口からものを食べられなくなったら胃瘻を造るか否か、人工呼吸器をつけたいかどうか、といった話に進みがちです。

しかし日本医師会のリーフレットの「ACPでは何を話し合えばよいのですか?」では、一例として、まず家族状況や健康状態など「患者さんの状況」について、次に「患者さんが大切にしたいこと(人生観や価値観、希望など)」について話し合うことをすすめています。
生命維持や痛みの緩和、最後の迎え方など「医療及びケアについての希望」を尋ねるのは、そのうえでの話となっています。

いきなり人生の締めくくりの時期に受けたいか、あるいは受けたくない医療やケアに話をもっていくのはやめたほうがいいのではないか――。
相手のその人らしさに理解を深めていく流れのなかで、この先もその人らしい生き方ができるように寄り添っていきたいという姿勢を医療者サイドが示すことが、ACPを患者サイドに受け入れてもらううえで最も大切なのではないか、ということでその日は話を締めくくりました。

■こんな質問から「その人らしさ」を知る
ちなみに、日本医師会のリーフレットにある「ACPでは何を話し合えばよいのですか?」では、「患者さんが大切にしたいこと(人生観や価値観、希望など)」を知る上で役立つであろう問いかけとして、以下をあげています。

● これまでの暮らしで大切にしてきたことは何ですか?
● 今の暮らしで、気になっていることはありますか?
● これからどのように生きたいですか?
● これから経験してみたいことはありますか?
● 家族等の大切な人に伝えておきたいことは何ですか?
(会っておきたい人、最期に食べたいもの、葬儀、お墓、財産など)
● 最期の時間をどこで、誰と、どのように過ごしたいですか?
● 意思決定のプロセスに参加してほしい人は誰ですか?
● 代わりに意思決定してくれる人はいますか? など

(引用元:日本医師会編「終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える」)