看護師の「いつもマスク」はマナー違反?

マスク姿

看護師さんのマスク着用は
感染防止のためと了解するが

在宅療養中の義父の介護に明け暮れている友人の気晴らしになればと、定期的にランチをご一緒してよもやま話をするようになって、そろそろ3年になります。

「今日は義父がデイサービスに行く日で、私は午後3時頃までフリーだから」との電話を受け、彼女の家に近いイタリアンレストランでパスタをご一緒した、つい先日のことです。

「看護師さんっていつもマスクをしている人が多いけど、あれってマナーに反するのではないかしら」――、彼女がいきなりそう切り出したのです。

「えっ、急にどうしたの? 何かあったの?」と尋ねたところ、急な話ではなく、義父に付き添って病院に行き、マスクをしている看護師さんや事務系の方に接するたびにずっと違和感を感じていた、とのこと。

「病院というところにはいろいろな病気の人が集まっているから、感染防止の目的でマスクを外せないのだろう、ぐらいに考えて自分なりに了解はしていた」と言います。

■訪問看護師さんもいつもマスクをしている
ところが最近、義父が訪問看護を受け始めたところ、彼女宅を訪れる訪問看護師さんもいつもマスクをしていることが、気になったのだそうです。「だって、うちの義父は感染症ではないから、病気をうつす心配はないのに……」そう問いかけてくる彼女に、さあ、どう答えたものかと、しばし考えてしまいました。

いつもマスクをしているのは
周りとのかかわりを避けるため?

実は、看護師さんの「いつもマスク」については、過去にも同じような疑問をある患者家族会を取材させていただいた折に、参加者の1人から投げかけられたことがあります。

そのときの話はもっと手厳しいもので、「接遇マナーとしてみると、常にマスクを着けているというのは完全にアウトですよね。考え方によっては、看護師さんが自分だけ感染から身を守っているようにも思えてしまう」とのご指摘でした。そして出たのが、「マスク依存」という言葉です。

■マスクを手放せない人が増えている
その女性の話では、私自身は視聴していなかったのですが、少し前に、インフルエンザや花粉症の予防以外の目的でマスクをする人が、最近の若者のなかで急激に増えていることをテーマにしたテレビ番組が放映されたそうです。

街で取材すると、ちょっとしたファッション感覚で、あるいは「小顔に見えるから」とか「スッピンを隠すため」、男性では「寝坊して髭をそる時間がなかったので、髭を隠すため」と、ちょっと笑えるような理由の「伊達(だて)マスク」が大半だったようです。

■顔が隠れている安心感
そのなかには、ごく少数ながら「顔が隠れているという安心感で、自分の世界に閉じこもっていられるから」と答えるなど、周りとの関係をシャットアウトしたいという気持ちから常にマスクを着けていると話す人もいたようです。

若い女性がそんなふうに答えている映像を見ながら、「この女性のような人は完全にマスクに依存してしまっている」と、精神科医が説明していたとのこと。

「いつもマスクをしている看護師さんのなかには、感染防止は言い訳で、このような人、つまり周りとのかかわりを避けたいという気持ちから四六時中マスクをしている看護師さんもいるのではないかと思ってしまう」――。そんなふうにその女性は話すのでした。

■「いつもマスク」を他人はどう見ているか
この話を聞かされたときは、いくらなんでもそれはうがちすぎた見方だと思い、「看護師さんと一口に言ってもいろいろな方がいます。また、その時々の心のありようも影響しますから、そんなことは絶対にあり得ないとは言い切れません。でも、少なくとも看護師さんは、数ある医療者のなかでもコミュニケーションということを格別大切にしていますから、そんなふうに受け取るのは、考えすぎではないでしょうか」と答えたのですが……。

冒頭で紹介した友人の話もそうですが、患者や周囲の人たちのなかには、「いつもマスク」をしている看護師さんをそんなふうに見ている人もいるということだけは、お伝えしておくべきと思い、書いてみました。

「いつもマスク」を続けていると
社会との壁を作ってしまう危険が

ただ、一理あるなと思うのは、他でもない「マスク依存」のこと。気になって、その女性にいつ頃のどのチャンネルだったか思い出してもらったところ、2017年2月1日に放送されたNHK総合テレビの「おはよう日本」というニュース番組のなかの一コマだったことを突きとめました*¹。

早速、番組をチェックしてみたところ、そのなかで精神科医の渡辺登医師が、マスクをしていると「他人に自分の喜怒哀楽を読まれずにすみますから、自分がどのように相手に見られているか気にしないですむ」と説明しています。

そのうえで、この安心感を経験すると、マスクがないと不安を感じるようになり、マスクを手放せない、いわば「マスク依存」と言えるような状態になってしまうこと。さらには、「マスク依存を続けていると、社会との壁を高く作ってしまい、引きこもりに陥ってしまう危険性もないとは言えません」とも警告しています。

看護師さんの「いつもマスク」には、こんなリスクもあることを、チームカンファレンスの話題の1つにしていただけけたら嬉しいです。また、看護師さんのマスクとコミュニケーションに関しては、こちらも読んでみてください。

感染防御の観点から看護師のマスク着用は避けられない。しかし、患者とのコミュニケーションの観点から考えると課題は残る。特に加齢性難聴のある高齢者には、マスクによるくぐもった声はより聞きとりにくくなる。口元が見えないのも、せっかくの笑顔の効用を無にしてしまう。

参考資料*¹:NHK総合テレビ「おはよう日本」2017年2月1日