訪問看護の移動時間は労働時間ではない?




自転車で移動

訪問看護師の移動時間は
どう扱われていますか

長時間労働などが原因の過労死や過労自殺を防止するための法律「過労死等防止対策推進法」、通称「過労死防止法」が、この11月1日で施行から5年になるのを受け、このところ過労死や長時間労働をテーマにしたさまざまな報道が続いています。

そのなかに気になるニュースがありました。
2人の幼子をもつ35歳の女性が、訪問美容師だった38歳の夫が長時間労働による過労で突然死したのに、過労死として認められないとして訴えているのです。

■訪問先への移動時間は労働時間に含まれないと言われ……
この方の話を聞いていて、
「訪問先への移動時間は労働時間には含まれないため、主人の場合は長時間労働には該当しない。そのため労災の対象にもならないと、弁護士に言われた」
と訴える、その「移動時間」という言葉に引っかかりました。

聞いた途端に、「同じ訪問サービスだけど、訪問看護師さんの移動時間の扱いはどうなっているのかしら」と、考えてしまいました。

これまで何度か訪問看護師さんの仕事ぶりを同行取材させていただいた経験から、移動にかかる時間が思ったほど短くないことは重々承知していたからです。

そこで今日は、訪問看護で患者宅を訪問する際の移動時間は労働時間として認められるのかどうか、労働時間として認められるにはどのような事前手続きが必要なのか、といったことについて書いてみたいと思います。

医療保険サービスとしての
訪問看護における移動時間は?

ご承知のように訪問看護は、介護保険サービスとして提供することが基本とされています。
しかし例外として、医師が交付する「訪問看護指示書」により訪問看護を行う場合は、医療保険が適用となります。

この医療保険サービスとしての訪問看護には、
「原則として、1日1回、訪問サービスの時間は1回30~90分程度で、週に3回まで、1カ所の訪問看護ステーションから訪問看護師1人で対応する」
といった利用制限のルールがあります。

ただしこのルールには例外も認められていて、患者の状態によってはこの利用枠を超えて医療保険対応の訪問看護を受けることができるようになっています。
この場合の、例外が認められる要件については、こちらの記事に詳しく書いてありますので是非参考にしてください。

医療保険対応の訪問看護には「1日1回、週3日まで」の利用枠がある。患者の病気や状態によっては、この枠を超えて週4日以上、最長で28日利用できる場合がある。その際必要になる「特別訪問看護指示書」や対象となるケースについてまとめた。

■訪問のための移動時間はフリーな時間ではない
そこで、利用時間の話ですが、医療保険対応の訪問看護の場合、訪問看護ステーションから訪問看護の利用者宅、あるいは利用者宅から次の利用者宅への移動にかかる時間は、「1回30~90分程度」と決められている訪問サービスの提供時間には含まれません。

しかし、移動は明らかに訪問看護の利用者宅を訪問するためです。
また、そのための移動時間は訪問看護師にとってフリーに使える時間ではありません。
したがって、「移動時間は労働時間に該当する」という理解が一般的なようです。

とは言え、「訪問看護時の移動時間は労働時間として扱う」と明文化された文書は、現時点ではどこにも見当たりません。ですから、万が一長時間労働の是正を求める必要が生じた場合に備え、訪問看護ステーションの経営者(あるいは管理者)と雇用契約を交わす際に、この点をきちんと確認し合い、そのための一文を残しておく必要がありそうです。

介護保険サービスとしての
訪問看護における移動時間は

介護保険サービスとして行う訪問看護の場合も、移動時間の考え方は、基本的に医療保険の場合と大差ないようです。

たとえば、厚生労働省労働基準局が作成、発行している訪問介護労働者の法定労働条件について解説したパンフレットでは、訪問介護の業務に直接従事する時間だけでなく、移動時間や業務報告書等の作成時間なども労働時間に該当するとしたうえで、「移動時間」については次のように説明しています。

移動時間」とは、業務に従事するために必要な移動と使用者が判断して、その指示命令により事業場、集合場所、利用者宅の相互間を移動する時間のこと。
この移動時間中の自由利用が労働者に保証されていないと認められる場合には、労働時間に該当する。ただし、通勤時間は労働時間には該当しない。
(参考資料:厚生労働省『訪問介護労働者の法定労働条件確保のために』P.3)

厚労省が長時間労働中心に
過労死認定基準の見直し検討へ

折しも厚生労働省は、長時間労働などによる過労死を労災認定する基準について、20年ぶりの見直しに向け、来年度(2020年4月)早々から、有識者会議を設置して検討作業を始める方針であることを明らかにしています。

過労死を労災認定する基準は、2001年に作られた「脳血管疾患および虚血性心疾患等の労災認定基準」が、また「過労自殺」については、2011年に策定された「強い心理的負荷による精神障害の労災認定基準」が現在も運用されています。

このうち見直しを行うのは過労死基準ですが、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因とされる長時間労働については、近年の医学的側面からの研究に基づく新たな知見を積極的に取り入れ、いわゆる「過労死ライン」の大幅な改善が行われることが期待されています。