呼吸療法認定士試験に挑戦した看護師のHさん

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呼吸ケアサポートチームの
メンバーに抜擢されて

慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Ⅾisease;COPD)に代表される重症肺疾患や肺がん、喘息など、高齢者を中心に呼吸器疾患の患者が増加するのに伴い「RST」を立ち上げる医療機関が急増しています。

「RST」とは、「呼吸ケアサポートチーム(Respiratory Care Support Team)」の略称で、この医療チームには、その活動内容から医師を必須とし、看護師、臨床工学技士、リハビリ関連の専門職(理学療法士もしくは作業療法士)、薬剤師、栄養士など、できるだけ多くの専門職種の参加が期待されています。

しかし、各医療機関のスタッフ事情を考慮して、少なくとも医師に2職種を加えた3職種による構成が望ましいとされており、このチームメンバーの1人として看護師に白羽の矢が立つことが多いと聞いています。

そこで今回は、新たに立ち上げる呼吸ケアサポートチームのメンバーに抜擢されたのをきっかけに、呼吸器ケアに関する知識をより深めようと、呼吸療法認定士資格の取得を決め、その資格試験に向けて準備を始めた看護師さんの話を紹介したいと思います。

院内だけでなく在宅でも
呼吸療法認定士ニーズは高い

呼吸器系統の患者が多い内科病棟に勤務して5年目になる看護師のHさんがその方です。看護部長から、院内に立ち上げる呼吸ケアサポートチームへの参加を打診されたのは、そろそろキャリアの裏付けになるようなものを身につけたいと考えていた矢先だったそうです。

H看護師からは以前、ゆくゆくは訪問看護師の道に進みたいと聞いていました。そのときに備え、ケアマネジャー(介護支援専門員)の資格試験に挑戦してみようと思っていると、話してくれたこともありました。

そんな考えがあっただけに、彼女としては看護部長直々の申し出をとても有難いとは思ったものの、すぐには快諾する旨の返事ができなかったようです。で、「どうしたものか」と私に相談の電話をくれたというわけです。

呼吸ケアの集大成として呼吸療法認定士に挑戦

「えっ、私なんかに相談してくれても……」との思いもありました。ただ、かなり前、COPDに関する記事の中で呼吸リハビリとしての口すぼめ呼吸について書く際に、彼女に何点か確認のための電話取材をさせていただいたことがありました。

その記事で呼吸療法認定士について触れていたことを、彼女は覚えていてくれたようです。「せっかくのチャンスだからチームに参加しようと思う。ついては、ケアマネの件は後回しにして、今まで実践してきた呼吸ケアの集大成の意味も込め、呼吸療法認定士の資格試験を受けてみようと思うんだけど、どうかしら」という電話でした。

その話しぶりから、彼女はすでに受験を決めていると踏んだ私は、「最近は在宅で人工呼吸療法や酸素療法をしている方、あるいは呼吸リハビリが必要な高齢者も多いから、呼吸療法のケアニーズは高いだろうし、訪問看護師としての活動にも大いに役立つと思う」と、大賛成であることを伝えたのでした。

わが国には530万人以上のCOPD患者がいると推定される。肺機能の低下による全身の酸素不足からQOLが低下し、要介護状態に陥りやすい病気だが認知度は低い。患者は呼吸苦に見舞われるが、その緩和に看護師らによる呼吸リハビリが期待されている。

3学会合同呼吸療法認定士の
認定試験受験資格取得のために

H看護師が資格取得に向けて挑戦することを決めた呼吸療法認定士とは、「3学会(日本胸部外科学会、日本呼吸器学会、日本麻酔科学会)合同呼吸療法認定士」を正式名称とする呼吸ケアのスペシャリストです。

■認定試験前の講習会受講資格をチェック
この3学会が実施する資格認定試験を受けるには、事前に決められた認定講習会を受講する必要があり、これには2つの資格要件が設定されています。

まず1点は呼吸ケアの実務経験ですが、看護師の場合は実務経験2年以上(准看護師は3年以上)ですから、H看護師はこの要件をクリアしています。

2点目の資格要件は、「受験申し込み時から過去5年以内に、認定委員会が認める学会や講習会などに出席し、12.5点以上の点数を取得していること」で、その際の受講証や修了証を提示できることが条件となります。

この「認定委員会が認めた学会や講習会」には、上記の3学会以外に日本救急医学会、日本呼吸ケアリハビリテーション学会など、いくつかの学会や団体、およびこれらの都道府県支部が主催する学会や講習会、セミナーが含まれます。

■講習会の講義内容をチェック
これら各種講習会における講義内容は、①血液ガスの解釈、②呼吸機能とその検査法、③呼吸不全の病態と管理、④呼吸リハビリテーション、⑤酸素療法、⑥人工呼吸器の基本構造と保守および医療ガス、⑦気道確保と人工呼吸、⑧NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)とその管理法、⑨開胸・開腹手術後の肺合併症、⑩新生児・小児の呼吸管理、⑪人工呼吸中のモニター、⑫呼吸不全における全身管理、となっています。

H看護師にとっては、このうち⑨と⑩以外はいずれも日々臨床で取り組んできたことです。

講習会を受講して、受験資格取得に必要とされる「12.5点以上」を獲得するには、標準的な講習会を半日受講すればクリアできます。

また、上記3学会をはじめとする関連学会に出席すると「20点」、呼吸療法に直接関連した演題の第1演者として発表すると、同じく「20点」、共同演者の場合は「10点」取得できるなど、点数獲得のチャンスはかなり高頻度にあります。

講習会の開催団体や開催日時、取得点数等、情報の詳細はコチラ*¹から確認できます。

まずは日程をチェックしたうえで、上司に呼吸療法認定士の資格試験に挑戦したい旨を話し、勤務スケジュールの調整などをお願いしようと、一応の段取りは整いました。

現役呼吸療法認定士の約半数が
看護師の有資格者

呼吸療法認定士の認定試験は、1996年に第1回試験が行われて以来、毎年1回、2023年までに28回行われ、61,730名が合格しています。合格率は60%台で、そう高いとは言えず、受験経験者の話では、難易度の高い問題が多いとのこと。

この話を聞いて「少し自信がなくなってきた」と弱気なところを見せるH看護師でしたが、過去問題集なども参考に準備を進め、2020年の試験で見事合格しています。

第28回(2023年)までの合格者を職業別に見ると、全体のほぼ半数、約48.9%が看護師の有資格者です。

なお、この先の3学会合同呼吸療法認定士講習会および認定試験に関するスケジュール等の情報は認定委員会事務局からの通知*²を参照してください。

参考資料*¹:医療従事者向け講習会・試験

参考資料*²:認定委員会事務局