COPDによる肺機能低下から
要介護や寝たきりに
関東近郊に暮らす叔父(78歳)から久しぶりに電話がありました。咳き込むことが多くなり受診したところ、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診断を受け、通院していると――。
ご承知のように、COPDは肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれてきた進行性肺疾患の総称です。気管支が細くなって肺への酸素の取り込みや二酸化炭素の排出、つまり肺におけるガス交換がスムーズに行われなくなり、患者は「呼吸苦」という、苦痛のなかでも最もつらいとされる症状に見舞われます。
呼吸苦、つまり息苦しさなどの症状のつらさは言うまでもなく、肺機能の低下による全身の酸素不足から、ADLやQOLの低下が徐々に進行して、自立した日常生活を送ることが困難になるという厄介な病気です。
治療が遅れると「要介護」や「寝たきり」につながる危険性が高いことから、加速度的に進行する超高齢社会にあって、国を挙げての対策が急がれている病気の一つです。
COPDの認知度は低く、
治療が遅れ重症化しがち
COPDの最大の原因は、たばこの煙、つまり喫煙です。COPD患者の90%以上に喫煙歴があると言われています。
わが国の喫煙率(たばこを吸う人の割合)を直近(2023年)の調査結果で見ると、男性25.4%、女性7.7%で、この10年間で全体として減少傾向にあることがわかります。ところが40~50代の男性に限って見ると、最も高い40代で34.6%、50代では32.6%と、依然として高率で推移しています。
おそらくはこのことが大きく影響しているのでしょう。わが国には、40歳以上のおおむね8.5%、数にすると530万人以上のCOPD患者がいると推定されています。患者数は多いのですが、この病気については、日本人の4人中3人が「知らない」と答えるほど認知度が極端に低いのが現実です。
そのため患者の多くは、「息が切れて階段の昇り降りがキツイ」「咳や痰が多くなった」といったCOPDのサインを自覚していても、「年のせいだろう」と思い込みがちで、なかなか受診につながりにくいのが実態です。
実際、厚生労働省が2014(平成26)年に行った調査では、COPDで治療を受けている患者は約26万人で、推定される潜在患者の5%に留まっていることが明らかになっています。
COPDによる呼吸苦が
「口すぼめ呼吸」で楽になる
COPDの診断を受けた叔父も、喫煙者でした。ただ、「昔からあった咳き込みが日増しに激しくなったので3年前に禁煙して、最近は吸っていない」とのこと。それでも、喫煙歴はほぼ45年になり、「若い頃は1日平均40本以上は吸っていた」と言いますから、なかなかのヘビースモーカーだったと言っていいでしょう。
初診の日、担当医による問診から始まる一連の診察の後、検査室に移動して呼吸機能検査(スパイロメーターによるスパイロメトリー)を受けたようです。
その検査中、いつになく激しい咳き込みに襲われ、「息ができないほど苦しくて、もうだめかと思った」そうですが、「そのとき看護師さんが救ってくれたんだ」と言います。
吐くのが2、吸い込むのが1のバランスでゆっくり呼吸する
詳しく聞くと、外来から検査室に付き添ってくれていた看護師さんが、軽く握った手で1、2、とゆっくりリズムをとりながら、呼吸リハビリテーションの一つ、いわゆる「口すぼめ呼吸」で、次のように呼吸をリードしてくれたそうです。
「軽く口をすぼめて、目の前のロウソクの火を吹き消すイメージで、肺の中にある息をゆっくり吐き出してください。全部吐き切ったら、今度は鼻から大きく息を吸ってみてください。吐くのが2、吸うのが1のバランスでゆっくり繰り返してみましょう」
呼吸リハビリのプロ
呼吸療法認定士の看護師
COPDの治療は、喫煙が原因の場合が圧倒的に多いことから、患者が喫煙を続けているようであれば、まずは禁煙に向けた治療からスタートします。
最近は、条件さえ合えば公的医療保険(健康保険)で禁煙治療を受けることができます。オンラインによる遠隔禁煙治療を行っている医療機関もありますから、なかなか禁煙できない患者にはこちらを参考に紹介してみてはいかがでしょうか。
幸い叔父の場合はすでに禁煙していましたから、医師の診察は「気管支を拡張する吸入薬を使って様子をみましょう」ということで終わり、先の看護師さんに誘導され別室へ――。
そこで看護師さんから、「呼吸リハビリテーションをしましょう」と、検査中に実施した口すぼめ呼吸や腹式呼吸などの呼吸訓練と、その日常生活への取り入れ方などを、時間をたっぷりかけて教わり、その日は自宅に戻ったそうです。
吸入薬以上に口すぼめ呼吸が効果的
その数日後、改めて叔父に電話をすると、「吸入薬も効いているんだろうが、看護師さんが教えてくれた呼吸リハビリテーション、特に口すぼめ呼吸が自分には合っていて、ずいぶん楽に呼吸できるようになった」とのこと。
口すぼめ呼吸には、口をすぼめることにより生じる口腔内の空気抵抗圧が気道内の圧を高めることにより、狭くなっている気管支を拡げる効果があるようです。
これにより、肺の中に残りがちだった二酸化炭素をしっかり吐き出し、そのうえで酸素をたっぷり送り込んで、身体中に新鮮な酸素が十分行き渡ることを狙った呼吸法と聞きます。
意識してこの呼吸法をするようになってからは、息切れすることが少なくなり、心持ちいつもの活動が「しんどくなくなった」と叔父。さらにこうも言うのです。
「あの看護師さんは、『看護師で呼吸療法認定士です』って自己紹介してくれたけど、彼女のような看護師さんが増えてくれると患者には有り難いねえ」と――。
呼吸療法認定士のほぼ半数を
看護師が占めている
電話を切った後、叔父が絶賛する呼吸療法認定士についてちょっと調べてみました。
呼吸療法認定士は、呼吸管理を必要とする患者を支援する医療チームのメンバーとして活躍できるスタッフの養成を目的に創設された認定資格です。具体的な業務としては、吸入療法や酸素療法、呼吸リハビリテーション、人工呼吸器による呼吸療法などの支援があげられます。
認定制度が日本胸部外科学会、日本呼吸器学会、日本麻酔科学会の3学会により創設、運営されていることから、「3学会合同呼吸療法認定士」が正式名称ですが、一般には、「呼吸療法認定士」の通称で理解されています。
1996(平成8)年に1,530人の呼吸療法認定士が誕生して以来、昨年(2023年)までに28回の認定試験が行われ、61,730人が合格しています。
看護師の受験資格は実務経験2年以上(准看護師は3年以上)ですが、2023年2月の時点で、合格者全体の約半数、48.9%が看護師の有資格者(30,192人)となっています。
その多さにちょっと驚きましたが、COPDのみならず高齢者の重症肺炎や肺がん、喘息など、呼吸器疾患の患者が増加するのに伴い、病棟で、また在宅ケアの現場においても、呼吸ケアが求められる場面が増えていることの現れなんだろうと解釈したところです。
なお、呼吸療法認定士資格取得に関する情報は、「呼吸療法認定士試験に挑戦した看護師のHさん」で詳しく書いていますので、あわせてご覧ください。