「孤立死」「孤独死」を防ぐ見守り支援

孤独
「独居」、つまり一人暮らしの人は将来の死亡リスクが高いと思われています。しかし東京都健康長寿医療研究センターのチームの調査では、社会的に孤立し同居者もいない人は認知機能が低下しやすく将来の死亡リスクが高まる傾向にあるものの、独居の人は必ずしもそうではないとの分析結果が出たとのこと。「家事を一人でできるなど、生活力があるから独居できているケースもあり、孤立の実態を注意深く把握し、支援やケアの方法に役立てるべきだ」とチームは指摘しています。

60歳以上の3人に1人が
「孤立死」を身近に感じている

60歳以上の人の約3人に1人が「孤立死」を身近に感じながら生活している――。こんな思いもよらない調査結果が、内閣府が公表した「2019年版高齢社会白書」*¹で明らかにされています。

この調査は2018年11~12月に実施され、全国の60歳以上の男女1870人が回答しています。「孤立死」は「孤独死」とも呼ばれ、現時点で国レベルでの明確な定義はありません。

今回の調査では、「孤立死」を「誰にも看取られることなく亡くなった後に発見されること」と説明。そのうえで「身近に感じるか」を尋ねています。

その結果、「とても感じる」が9.1%、「まあ感じる」が24.9%で、トータル34.0%が「感じる」と答えています。確かにほぼ3人に1人の割合です。

「未婚」「既婚(配偶者健在)」「既婚(配偶者と死別)」「既婚(配偶者離別」)別で見ると、「とても感じる」「まあ感じる」と答えた人の割合が最多だったのは「未婚」の人で、ほぼ半数の49.4%でした。

わが国では、すべての高齢者が住み慣れた地域で安心して生活できるように、さまざまな医療・介護・福祉サービスを提供すべく地域包括ケアシステムの構築が進められています。

しかし、こうしたサービスの活用が必要な状態にありながら、利用していない、あるいは支援の対象から外れていて、近隣住民や知人、友人、さらには家族からも孤立して生活している高齢者が地域に少なからず潜在していることをうかがわせる結果となっています。

孤立させないための
見守り活動が孤立死を防ぐ

潜在してとかく見過ごされがちなひとり暮らしの高齢者を孤立させないための取り組み、いわゆる「見守り活動」は、国や地方自治体、あるいは企業レベルでも積極的に行われており、その活動の一つひとつが確実に孤立死の防止につながることが期待されています。

この全国規模で広がりつつある見守り活動の実態に関し、厚生労働省の社会・援護局地域福祉課が、大変興味深い報告を発出しています*²。

全国の自治体から2013年4月17日までに報告のあった取り組み事例279例について、活動の手法・手段を「見守りの実施主体」と「見守りの手法」別に分類し、代表的事例を抜粋してホームページ上で紹介しているのです。まず、「見守りの実施主体別類型」には、以下の3パターンがあります。

  1. 地域住民の個人参加を得て行う「協力員活用型」
  2. 新聞や電気、ガス、水道、ヤクルト、牛乳など定期的な訪問サービスを担う企業と自治体が連携して行う「事業者との協定締結型」
  3. 近隣住民の人的ネットワークを活用する「ネットワーク構築型」

要援護者マップの作成や無線通信機器の活用も

一方の「見守りの手法別類型」としては、以下の5パターンが挙げられています。それぞれの自治体が、上記の実施主体別類型のいずれかのパターンと以下の手法パターンのずれかを組み合わせて見守り活動を展開し、実績を挙げているようです。

  1. 要援護者台帳の作成およびマップ作り等を活用するパターン
    ひとり暮らし世帯、高齢者のみの世帯など、要援護者世帯を把握して「要援護者マップ」を作成し、マップ情報を共有して見守り活動に活用する
  2. 各種無線通信機器を活用するパターン
    緊急通報装置、福祉電話、パソコン、人感センサー、タブレット端末、TV電話などを活用し、見守りや緊急時対応につなぐ
  3. 定時宅配サービスのスタッフを活用するパターン
    配食サービスやヤクルト配達、乳製品の宅配サービスを行う際に、配達員が配達先の高齢者の生活状況の把握や安否確認を行う、など
  4. 総合相談窓口を設置するパターン
    安否確認ホットライン連絡窓口の新設や配達業者、地域住民などからの通報に365日対応するセンターの設置
  5. 近隣住民からの通報やSOSを活用するパターン
    家賃滞納や、新聞や郵便物が溜まっている、などのSOS情報から生活弱者を早期に発見して「命を守る行政サービス」へつないで生活再建を支援する

社会的孤立による孤立死を防ぐ
高齢者見守りのチェックポイント

すでにお気づきのように、社会から孤立しがちな高齢者を孤立死から守るためには、防止策として進められている見守り活動に、近隣住民や民間企業のスタッフなど、多くの人々の積極的な参加が不可欠です。

しかし住民などからは、「見守り活動に協力したい気持ちはあるが、孤立しているかどうか、見守る必要があるのかどうかをどのように見分けたらいいのかわからない」「どのように見守っていったらいいのか不安だ」、といった声が多く聞かれます。

こうした声を受け、東京都健康長寿医療センター研究所の野中久美子研究員ら「社会参加と地域保健研究チーム」は、住民が高齢者を見かけてさりげなく声をかけたときの話の様子や身だしなみ、あるいは居宅の外観などから「いつもと違う」と感じたときのチェックポイントとして以下9点を挙げ、「高齢者見守りのポイントチェックシート」にまとめています。

  1. 立ち話や会話の最中に同じ話を何度もする
  2. 妄想があるようだ
  3. 最近、服装が乱れてきた
    ・服装が汚くなってきた
    ・毎日同じ服を着ている
    ・季節にそぐわない服を着ている
  4. 近所で道に迷うようになった
  5. 身だしなみが乱れてきた
    ・髪の毛やひげの手入れがされていない
    ・臭くなってきた
  6. 歩く姿が危なっかしい・具合が悪そう
  7. 新聞や郵便がポストにたまっている
  8. 夜に電気がつかない・昼間なのに電気が点いたまま
  9. 同じ洗濯物が何日も干しっぱなしになっている

(引用元:「高齢者の孤立死予防に向けた住民と地域包括支援センターの連携促進ツール」*³)

以上のチェックポイントのなかで、1から5の特徴がみられるときは認知症の可能性、は認知症に加え体調不良の可能性も。またの特徴も体調不良の際に見られるもので、在宅高齢者の軽度要介護認定の予定因子としてあげられているもの。

7から9は日頃から対象者の居宅の外観に関心を払うことで気づくことができる体調不良の特徴であり、場合によっては対象高齢者が家の中で倒れているなど、緊急性の高い状態に陥っている可能性もある、と説明しています。

これらのチェックポイントをベースに、地域性を盛り込みながら、あなたの地域に見合った「見守りチェックシート」を地域包括ケアの一環として作成し、孤立死防止のための見守り支援活動に活用してみるというのはいかがでしょうか。

高齢者の見守り支援において大きな役割を担っている民生委員について、その活動内容をまとめたこちらも読んでみてください。

地域包括ケアのケア会議で民生委員と同席したことをきっかけに、退院支援看護師と民生委員との連携を考えるようになった看護師の話を紹介する。民生委員の存在は知っていても活動内容までは知らないという方に是非読んで、連携について考えていただきたい。

参考資料*¹:内閣府「2019年版高齢社会白書」

参考資料*²:厚生労働省「孤立死防止対策取り組み事例の概要」

引用・参考資料*³:高齢者の孤立死予防に向けた住民と地域包括支援センターの連携促進ツール