嚥下力を鍛えて誤嚥性肺炎を防ぐトレーニング




オレンジジュース

誤嚥性肺炎の予防に
のどを鍛えるトレーニングがブームに

もう2年ほど前になるでしょうか。
肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』(飛鳥新社)という一冊の本が大ベストセラーとなりました。以来、この本で紹介されたのどの筋肉を鍛えて「飲み込む力」、つまり嚥下力を強化するトレーニングが、高齢者を中心にちょっとしたブームになっています。

ちょうどその頃、永六輔さんや森光子さんなどの著名人が相次いで肺炎で亡くなっていたことも、のどを鍛えるトレーニングをブームとして盛り上げる一因になっていたのだろうと思います。
しかし、直接の火付け役(?)となったのは、間違いなくこの本の著者で、頭頸部外科医として30年以上にわたり嚥下障害の治療や予防に取り組んできた西山耕一郎医師でしょう。

死因ランクを一度は下げた肺炎がまた上位に

かつて肺炎は、長きにわたり日本人の死因トップを走ってきました。
戦後に入りさまざまな抗菌薬(抗生物質)が登場したおかげで、肺炎による死亡者数が急激に減少し、死因順位ではいったん4位に下がりました。
ところが、高齢者人口の増加に伴い肺炎による死亡者数が徐々に増えはじめ、2011(平成23)年には3位に浮上しています。

その後、全人口に占める死因の割合としては、4位、5位近辺に落ち着いていたのですが、65歳以上に限って見ると、肺炎による死亡者数は年々確実に増加してきており、80歳、90歳代では死因の2位を占めるまでになっています。

すでにお察しの通り、その背景には「誤嚥性肺炎」があります。
西山医師が本書ですすめる「顎を持ち上げてのどを鍛える体操」は、この誤嚥性肺炎を少しでも減らそうとの思いから編み出されたトレーニング法なのです。

舌の筋力を鍛えるボトルで
誤嚥性肺炎を予防する

西山医師とほぼ同時期に、食べ物や飲み物を誤嚥する原因の一つが舌の筋力低下にあるとして、舌の筋力を鍛えて嚥下力アップを図るトレーニング器具の開発に取り組む歯科医師がいました。和歌山県内の老人ホームで、10年にわたり口腔ケアのボランティア活動を続けてきた笠原直樹医師です。

笠原医師が開発したトレーニング器具は、「タン練くん」として商品化され、昨年(2018年)9月から販売されています。
商品化に至るまでには、インターネットで開発資金の一部を募るクラウドファンディングを行ったそうですが、出資者のなかには「誤嚥性肺炎で弱っていく患者をみてきたので協力したい」という看護師さんも何人かいたと聞きます。

その「タン練くん」ですが、赤ちゃん用の哺乳ビンをそのまま大きくしたような、形状も機能もよく似たシリコン製のトレーニングボトルです。

あえて訓練の時間を設けなくても、また訓練であることを意識しなくても、水ものを飲むというごく日常的な動作のなかで舌の筋力が鍛えられるように工夫されているのが特徴です。
こちらも高齢者に好評で、製造が追いつかないほどの売れ行きと聞いています。

鍛えて強くなった筋肉により食事中の舌の動きがスムーズに

このトレーニングボトルは、ボトルに取り付けられた吸い口となる乳首部分の先端に小さな穴があり、そこからボトル内の水を飲むようになっています。
その乳首部分は舌を前後に動かして吸引力を上げないとボトル内の水を吸い出せないように工夫された形状になっています。

そのため、満足できるだけの十分量の水(お茶でもジュース飲料などでもOKです)を摂るためには、しばらく吸い続けなくてはなりません。
この吸い続ける動きの繰り返しがそのまま舌の筋肉を鍛えることにつながっているのです。

舌の筋肉が鍛えられて強くなると、食事をするときに舌をスムーズに動かすことができるようになりますから、食べたものや唾液を間違いなく食道へと送り込み、結果、誤嚥を防ぐことができるようになるというわけです。

なお、「タン練くん」には、初心者向けに用意された練習用の小容量(30ml)ボトルと、舌の筋力が強まってからの大容量(200ml)ボトルの2タイプがあります。いずれもインターネットで購入可能です。

誤嚥性肺炎を予防して
「口から食べる」を続けるケアを

私たちが普段なにげなく行っている「口からものを食べる、飲む」という摂食嚥下機能は、ご承知のように非常に複雑なメカニズムから成り立っています。
一般にそのメカニズムは、以下の5段階から成ると考えられています。

⑴ 先行期:目の前の食べ物、飲み物を認識して口へ運ぶ
⑵ 準備期:口に入れた食べ物を噛み砕いて咀嚼し、唾液と混ぜて飲み込みやすい食塊にする
⑶ 口腔期:食塊を口の奥に移動させて口腔から咽頭へ送り込む
⑷ 咽頭期:嚥下反射により食塊を一瞬で咽頭を通過させて食道へ送り込む
⑸ 食道期:食道壁の収縮・弛緩によりに食塊を下方へ送り、胃に到達させる

上記の⑴と⑵が摂食機能、⑶⑷⑸が嚥下機能で、上記の「のどを鍛えるトレーニング」と「舌の筋力アップを図るトレーニングボトル」は、嚥下機能のなかの口腔期と咽頭期の機能アップにより誤嚥を予防しようというトレーニングです。

「口から食べる幸せを守る会」が全国大会開催

一方で私たちは、摂食嚥下機能が存分に機能しているだけでは、自分の口からものを食べて栄養状態の維持・改善を図っていくことはできません。
摂食嚥下の機能以外にもアプローチしていくべき点がいくつもあることを、先にこちらの記事で紹介しましたが、読んでいただけましたでしょうか。

高齢者が要介護状態に陥る原因としてサルコペニアが注目されている。重度の栄養障害を原因に筋肉量や筋力が落ちていきADL・QOLが低下していく状態だ。予防のカギを握る「口から食べることをあきらめさせないケア」の普及に取り組む小山珠美氏を紹介する。

この記事で紹介している「NPO法人 口から食べる幸せを守る会」の理事長を務める看護師の小山珠美さんから、「挑め!食べる可能性が光る社会へ」をテーマに開かれる全国大会への参加お誘いメールをいただいています。

プログラム(コチラ)を拝見すると、医原性サルコペニアの概念の提唱者である若林秀隆医師(横浜市立大学附属市民総合医療センター)の基調講演のほか、「人生の最期まで食べる幸せを見つけて!」をテーマにしたシンポジウムが催されるなど、大変興味深い内容ばかりです。関心のある方は、コチラからの参加申し込みが必要ですのでお忘れなく。